2023.01.05.thu

MMD TIMES が占う2023年のセレクトショップ

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新年のご挨拶

新年明けましておめでとうございます。旧年中は数ある媒体のなかからMMD TIMESをご愛読くださいまして誠にありがとうございました。

また、取材協力いただいた企業や個人、展示会運営者の皆さまにも改めて御礼申し上げます。取材を通し、長期化するコロナ禍という未曾有の環境のなか、ブランド存続のための新たなビジネス戦略やアイテムの開発、顧客や社員のためのDX化推進など、前向きな希望の光をたくさん見せていただきました。

2023年は卯年、卯が跳躍する姿から飛躍の年といわれています。現在行っていることの向上を図ったり、新しいことに挑戦したりするのに最適な年でもあるのです。感染症対策によるさまざまな規制は、徐々に緩和されつつあります。この緩やかな変化を逃すことなく、皆さまの1年が飛躍の年となることを心より願っております。

MMD TIMESとしても、ライフスタイル業界のさらなる活性化を目指して、引き続き業界の最新ニュースやトレンド、各社の取り組みなど皆さまの日頃の業務に役立つ情報をお届けしていきますので、何卒よろしくお願いします。

さて、今年初めの記事は例年発表している業界の市場動向アンケート結果についてです。業界関係者を対象に2022年11月25日〜12月10日の期間でアンケート調査を実施。その結果を基に昨年の動向を振り返り、2023年の業界予測を行いました。本内容が今年最初の有益な情報となれば幸いです。動向を振り返り、これからの市場動向を予想しつつ、2023年のセレクトショップを取り巻く状況について探っていきたいと思います。

2022年の振り返り

2022年は何といっても円安やロシアのウクライナ侵略の影響による物流コストの高騰の打撃が大きかったことだろう。ライフスタイル業界に限らず、日本中が値上げの波に呑まれ、既存商品の価格改定が目立った1年であった。

このことは新商品の開発や発表にも影響を及ぼしている。もともとコロナショックを境に新商品のSKU自体は2020年以降から落ち込み気味ではあったが、昨今はさまざまな企業が長く続くこの状況を打開するための取り組みを見せていた。そのため各メーカーの新商品への期待値は2022年の初頭から高かっただけに、今回の円安は業界に大きなダメージを与えただろう。

また、コロナショックの影響をそれほど受けず、毎年ほぼ変わらず多くの新商品を発表できているメーカーであっても、中国で生産を行っているモノについては、長引く中国のゼロコロナ政策によって納期遅れやコストの割増などの不都合を余儀なくされたことだろう。

そんな環境下でライフスタイル業界のトレンドは前年から引き続きゴルフやキャンプなどのアウトドア、イエナカ需要のインテリアグリーンといったカテゴリである。しかし、ウィズコロナも3年。この間に新規ブランド参入の増加により、需要に対して供給過多がかなり進んだ印象だ。2021年に比べると「取り扱いがあれば売れる」フェーズから、「良いモノが選ばれる」フェーズに突入したように感じる。2022年はトレンドの商品を扱っているにもかかわらず、消費者へブランドの世界観をうまく表現しきれていないことが原因で、モノが売れないといった課題を抱えるセレクトショップやメーカーも一定数現れたに違いない。

2022年の景気動向

ここからはアンケート結果に沿って、具体的に振り返っていきたい。まずは景気動向の所感はどうだろう。「悪かった」が4割以上を占め、2021年と比較すると前年比割れをしている企業が多い様子だ。

「悪かった」と答える業態は、主に「EC」や「実店舗」などの小売業。EC事業を展開する企業では、行動制限緩和による外出傾向が強まり、多少なりとも売上の影響を受けている。他方、リアルショップは好調へと転じるかと思いきや、実情は「悪かった」との回答が目立つ。これは前述した物価高騰の影響が一番に想定でき、買い手が慎重になっている分、オンライン・オフラインにかかわらず、全体的な消費量が減ったことがわかる。

同じ環境下でありながら、「卸売 (メーカー)」は好調な印象だ。小売とは異なり、販売先を自由に変更・調整できる柔軟性がメリットとなり、調子の良い業界やショップへの販売で良い結果を残していると考えられる。

では、コロナ前の2019年と比較して業績が良くなっている企業を見てみよう。2019年対比で売上が110%以上だと回答があったのは約3割。そのほとんどが、インテリア関連商品を扱うショップとメーカーであった。

これらの企業は昨年発表した「2022年セレクトショップ予想図」の時点で、既にコロナ前の水準まで回復を見せている。2022年は2021年よりも落ち着きを見せているものの、変わらずコロナ前の水準以上の結果を出している企業が多い印象だ。

2022年好調のカテゴリ

それでは2022年内に好調であった時期を月別で見てみたい。上半期はインテリア業界の繁忙期と値上げ前の駆け込み需要が重なり、インテリア関連商品を筆頭に好調だった様子。下半期については、少しずつ海外からのインバウンド需要や輸出の動きが出始めていることがアンケート時の声として集まってきている。

2022年売上の良かったカテゴリはどうだろう。近年ずっと注目度の高い「SDGs関連」は、意外にも他カテゴリと比較すると売上が良いとはいい切れないようだ。 関連商品が多く発表されるなか、SDGsを謳ってリリースするだけでは売れない時代に突入している。他商品と差別化できる+αの要素が必要なのだろう。その+αを作る要素として親和性の高い「アップサイクル関連」が売れていないというアンケート結果からも、今後の伸び代を見ることができる。

嗜好品を扱うセレクトショップだからこそ、SDGsを活かしたアウトプットがうまく成立するコンテンツがアップサイクルではないだろうか。MMD TIMESでも「アップサイクルフードのススメ」をはじめ、アップサイクルには注目している。今後の商品展開に期待したい。

また、ライフスタイル商品としてうまく落とし込みができていない印象を受けるのが「ウェルビーイング関連」と「ペット関連」だ。これら二項目は年々消費者注目度が増し、需要が増加傾向にあるにもかかわらず、まだまだスポーツ業界、ペット業界の専売アイテムとしてのイメージが強く、ライフスタイル業界の一カテゴリとして供給に落とし込めていないのではないか。一部ではあるが、実際に取り扱っているセレクトショップやブランドからは「売れ行きに期待ができる」との声が挙がっているので、今後の売場づくりに注目したい。

今後の動向予測

ここからは、各社の戦略や見通しから2023年の予測を立てていきたい。まずは2023年に行う施策を聞いた結果について、最も多かったのは「SDGs」。しかしSDGsを掲げた企業は、各事項拡大方向にないこともわかっている。SDGsの促進と事業拡大を簡単に直結させることは難しい。我々はその難しさを「ACTUSの環境経営」や「地球を終わらせないネクストミーツの代替肉」の取材から教わっている。この分野を武器にして拡大を図るためには、左記記事で取り上げた企業にみられる徹底した戦略と方針が必要なのであろう。

一方、注目をしたいのが「DX促進」だ。DX促進については、我々が取材した「ショップスタッフが活躍できるDX」や「FREAK’S STOREが挑む店舗DX」からもわかるように、事業拡大に大きく貢献する要素の一つである。実際にアンケートの結果からも「DX促進」を今年の施策として掲げる企業は、同時に事業、仕入枠、実店舗数、EC店舗、従業員数のいずれかを「拡大」するという思惑がうかがえた。

オンライン施策としての強化コンテンツとして最も多く回答があったのは「自社HP」だ。強化のためにはオウンドメディアの充実化やSEO対策などで流入を増やす必要はもちろん、その先のUI/UXをも意識した設計で離脱を避け、いかに長く滞在してもらえるコンテンツを作るかといった、ライフスタイル業界のITリテラシー向上も今まで以上に求められる。

また自社HPの強化に伴い、「EC強化」にも力を入れたいところ。ECサイトのリニューアルや機能・コンテンツの追加など改修により売上拡大を図る企業は多く、わかりやすく売上に結果が現れる意味でもEC強化は拡大路線の要素である。

このアンケート結果でもう一つ分かったことは、アンケート内で好調だと回答していたり、今年の見通しが明るい企業の共通点として「YouTube」に取り組んでいることが挙げられる。この結果は小売やメーカーなどの業態に限らず、全体にいえるところが面白い。一方、同じ動画配信サービスである「TikTok」は、世の中の盛り上がりに反して参入企業がなかなか見られない。

業界としては未だ「Instagram」での施策が目立っているのが特徴で、同時に飽和状態であることも否めない。潜在顧客である若者の取り込みやブランドに対するファン化のための新しいサービスへの参入は、一つ大きな武器となるに違いない。例えばTikTokであれば、キッチングッズ関連のコンテンツは比較的視聴される印象だ。現状持つアカウント戦略も重要ではあるが、移り変わりの激しい時代のなかでブランドにあったチャネルを複数持つことも忘れずに心がけていたい。

2023年のトレンド予測

2023年の景気見通しについては、昨年に比べて「悪い」が減り、「良い」が増えている傾向だ。良いと回答があった企業の内訳は、「卸売 (メーカー)」や「実店舗」。円安も若干の落ち着きを見せ始め、昨年末から消費は回復傾向にある。さらに、外出の緩和や外国人観光客の受け入れによるインバウンド効果も期待でき、前向きな予測が多い印象だ。

一方で、「悪い」と回答をする多くが「EC」関係者。外出増加のさらなる高まりが予想されるうえ、他業態が期待するインバウンドもEC専業企業にとっては望みが薄いと捉えられているのだろう。新たな戦略を図る必要がある。

では、2023年のトレンドを予測してみたい。長く続くアウトドアブームは、現状ブランド力の高いショップや商品が独占して勝っている印象だ。新規参入は、これに相当するブランド力が求められるであろう。なかでもゴルフブームについて注目したい。

ゴルフをブームで終わらせないパーリーゲイツの戦略」でも取り上げたゴルフブームであるが、こちらも盛り上がりが続く予測。しかし、ウエアをはじめとしたファッション関連は2022年時点で既に飽和状態であるため、これからの新規参入はかなりハードルが高い状態にあるというのが正直なところ。

そこで、2023年はモノにフォーカスするのではなく“コト”に寄り添ってみてはいかがだろう。かつてサーフスタイルが流行し、現在に至るまで定着しているのも、ライフスタイルの提案が売場で展開されたからこそ。同様にゴルフについても、ゴルファーの暮らしや憧れのライフスタイルなどに焦点を当て、ゴルフのイメージ刷新や増えたゴルフ人口のニーズを賄うライフスタイルの提案ができれば、そこにはまだ勝機があるかもしれない。

同じくライフスタイル業界にとって、事業拡大に期待できるカテゴリが「グリーン」である。「 garageが芽生えさせるグリーンショップ」でもあるように「グリーン」の需要の高まりがあるため、園芸ショップなどの専門店とは差別化が可能なライフスタイルショップならではの売場づくりや提案に期待したい。今の時代ならではの付加価値の高いグリーン提供は、ライフスタイルショップだからこそ可能な分野ともいえる。

また「ウェルビーイング」や「ペット」については前述したように、まだまだ参入の余地があるカテゴリだ。「セレクトショップが目指すウェルビーイングな売場」や「新たな需要を生み出すペット関連ビジネス」などで取り上げたように、ライフスタイル業界ならではのアウトプットに期待したい。

総括

円安や物流コストの高騰による不安はあれども、2022年のライフスタイル業界は停滞の波から抜け出し、決して数は多いとはいえないがこれまでにない新しいサービスや業態を試みている様子であった。おそらく2023年も同じように、これまでにない新たなプロダクトやサービスを目にすることとなるだろう。

新たにはじまるこの1年が、皆さまにとって良い話題に欠くことのない1年となることを願っている。そのためには売り手と作り手、両者が共に力を合わせて業界を盛り上げていくことが必要不可欠なのだ。業務のなかはもちろん、合同展示会に参加したり、人とのコミュニケーションのなかからヒントを見つけたりして、新しいアウトプットへと繋げてほしい。MMD TIMESもその一端を担えるよう、引き続き有益な情報を提供していきたい。

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