2022.12.13.tue

STAFF OF THE YEAR 2022が示す令和のカリスマ店員

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令和のカリスマ店員を発掘「STAFF OF THE YEAR」

「カリスマ店員ブーム」が起こったのは1990年代後半。90年代半ばから盛り上がりを見せた「ギャルブーム」、その聖地であった「渋谷109 (イチマルキュー)」で働く販売員たちに注目が集まり、「カリスマ店員」という言葉が生まれたのだ。1999 年 (平成11年) には「渋谷109『Egoist』カリスマ店員の皆さま」を受賞者として、「カリスマ」という言葉が新語・流行語大賞 (現・ユーキャン新語・流行語大賞) トップテンに入賞している。

そんなご時世では、渋谷に限らずカリスマ店員がいたる所に存在しており、アパレルショップのみならずセレクトショップにまでその存在と影響が及んでいた。現代のようにECサイトが普及しておらずSNSもない当時は、実際に街に出てウインドウショッピングをし、雑誌を読むことでトレンドを掴む時代。人気ブランドで働く販売員たちは消費者の憧れで、彼ら彼女らが着用するモノ、勧めるアイテムは次から次へと飛ぶように売れ、ブランドの売上に大きな影響を与えていた。

今思えば、彼らがインフルエンサーのはしりなのかもしれない。消費者にとって芸能人やモデルより身近な存在として、ブランドの広告塔となっていたのだ。

そんな「カリスマ店員」を、この令和の時代にもう一度というコンセプトで開催されている接客コンテストが「STAFF OF THE YEAR (スタッフ オブ ザ イヤー)」だ。主催は「ショップスタッフが活躍できるDX」で紹介した、ショップスタッフのDX化を図るサービス「STAFF START (スタッフスタート)」を展開する株式会社バニッシュ・スタンダード。

今回は「STAFF OF THE YEAR 2022」のグランプリに輝いたビームス 恵比寿 (株式会社ビームス) のHeg. (ヘグ) 氏を迎えて、主催運営に携わるバニッシュ・スタンダードの木崎大佑 (キザキ ダイスケ) 氏との対談を行った。

買い物の仕方や情報を得る媒体手段が多様化した今、販売員に求められるスキルやマインドとは何なのか。令和のカリスマ店員からその答えを探る。

(左) Heg.氏 (右) 木崎氏
[対談メンバー]
Heg. (ヘグ) 氏
「ビームス 恵比寿」の店舗スタッフ兼サービスマスター。学生アルバイトを経て2017年に株式会社ビームスに入社。販売員歴10年目。STAFF OF THE YEAR 2022グランプリ受賞により、販売のプロフェッショナルの称号であるサービスマスターに任命された。

木崎大佑 (キザキ ダイスケ) 氏
株式会社バニッシュ・スタンダードでEX (店舗スタッフの成功体験創出) の企画推進を担当。

ショップスタッフが輝ける場所

STAFF OF THE YEARについて教えてください

木崎氏コメント:アパレルスタッフのNo.1を決める接客コンテストで、2022年は全国から約8万人、1300のブランドが参加しています。カリスマ店員がブームになった平成の頃と比べ、今の接客スタイルは大きく変わりました。そこで、オンライン接客やSNS、YouTubeなどでの情報発信を駆使する「令和のカリスマ」と呼べる人たちを発掘し、改めてショップスタッフに注目を集めるべく現代版の接客コンテストを開催することにしたんです。

当社は「常識を革める」をビジョンに、「STAFF START (スタッフスタート)」というショップスタッフのためのサービスを展開しています。STAFF STARTはECの支援サービスですが、大事なのは「オンラインとオフラインの壁を人の力でなくすこと」です。オンラインで出会い、そのスタッフに会いに行きたくなる世界をつくるため、STAFF OF THE YEARの開催を通して一人でも多くの人に素晴らしい店舗スタッフの存在を知ってほしいと願っています。

そのためSTAFF OF THE YEARでは、アパレル業界でよく見るロープレ大会と違い、「オンライン接客」やお客さまからの投票などといった審査項目があることが特徴で、最終審査では「オンライン接客」「接客ロールプレイング」「自己PR」の3つの審査があり、それらの総合点でグランプリを決めます。

STAFF OF THE YEAR (スタッフ オブ ザ イヤー)
https://soty.staff-start.com/
日本一の令和のカリスマ店員を決める接客コンテスト。STAFF OF THE YEAR 2022は昨年に引き続き2度目の開催。オンライン売上、SNSフォロワー数、一般投票によって1次審査、2次審査が行われ、ライブでの最終審査を経てグランプリが決まる。

大会へ参加したきっかけを教えてください

− Heg.氏コメント:会社から参加の打診を受けて、STAFF OF THE YEAR 2022の存在を知りました。私は普段、販売員として店頭に立ちながら、入荷前の商品などを使用して撮影し、ビームス公式サイト内のスタイリングやブログなどに投稿するためにオフィスへ出社することもあります。学生の頃からアルバイトとしてビームスの販売員をしており、卒業後にそのまま入社しました。オンライン接客を始めたのは、入社から半年が経った頃からです。

STAFF OF THE YEAR 2022の話をいただくまでは、会社のなかで実績が評価されたり、社内で勉強会をしたりすることはあっても、社外で自分の実力を試したことがありませんでした。そこで、この機会に自分のマインドやテクニックが社外で通用するのか試してみようと参加を決めたんです。

実際に出場されていかがでしたか?

− Heg.氏コメント:ショップスタッフにとって、良い大会だと思いました。普段、自分が所属している会社や店舗だけにとどまらず、外に向けて行動や発信をする機会、実力を試す場所があることはモチベーションアップに繋がります。それに、社内のロープレ大会はあっても会社という垣根を超えた“ショップスタッフ”という枠でこのような大会はなかったので、新鮮さを感じました。

上位5名は渋谷の街頭広告にも出演

大会を終えて、反響はいかがでしたか?

− 木崎氏コメント:とても好評でした。LINE LIVEの視聴者数は去年の第1回の20倍となり、メディア露出の広告換算値も去年の4倍と注目度の伸びを実感しましたね。最近はファッション誌でもショップスタッフが取り上げられることが増えてきて、すごい人たち (=ショップスタッフ) がいるということが世の中に浸透してきていると感じます。協賛企業も増え、視聴者や応援してくれる人も増えて、追い風が吹いていますね。

オンライン接客では「お客さまの不安を拭いたい」

グランプリ受賞者として、オンラインでの情報発信で気をつけていることは?

− Heg.氏コメント:お客さまの不安を払拭し、安心してオンラインショップでお買い物をしていただけるように情報発信をしています。実は私自身がオンラインショップでの買い物が苦手なんですよ。試着ができないのでサイズ感、色や素材もイメージと合っているのか不安だからです。自分に合う商品なのか、それが本当にイメージ通りの商品なのかという不安も少なくありません。

そのような思いから、オンラインでの情報発信時は私と同じように不安を持っている方、オンラインショップでの買い物を苦手に思っている方の視点で投稿をするように心がけています。

ビームスのサイト上でも、一つの商品に対してたくさんのスタッフが投稿しているのですが、私は自分がオンラインショッピングをするときの不安を想像して、“まだ誰も発信していない情報”を発信するようにしています。例えば、後ろ姿がわからなければバックスタイルをアップしますし、インナーとして重ねて着ているコーディネート投稿が多ければ、単体で見せてみるなど、サイトを見続けて不足がないかを探し、足りていない情報を上げるようにしていますね。

Heg.氏のスタッフ投稿ページ

オンライン接客の課題を感じますか?

− Heg.氏コメント:リアル接客とオンライン接客が別物として扱われやすい点でしょうか。直接お客さまと対面できない分、オンライン接客の手順は一つの作業として捉えてしまいがちです。でもオンラインに情報を載せるプロセスも、“対お客さま”だということを忘れないことが大切だと思います。オンライン接客ではお客さまの姿が見えませんが、投稿した内容はお客さまに対して24時間営業し続けているんですよね。

私自身、店頭でお客さまに対して当たり前に提供している情報や姿勢を、そのままオンラインでも見せていきたいと思って取り組んでいます。

木崎氏コメント:Heg.さんのおっしゃる通り「オフラインの当たり前をオンラインですること」は、オンライン接客においてとても重要だと思います。オンラインは「1対n」の情報発信となるので、情報を丁寧に置くことが大切です。消費者目線に立って、お客さまが「欲しい」と思ったときに必要な情報があるように用意しておくことが、売上を左右する要因になるのではないでしょうか。

その視点でHeg.さんの投稿を見ると、お客さまのことを考えた“リアルな動き”を踏まえた投稿設計になっていると感じます。こういった投稿が当たり前になれば、オンラインの世界がリアルにより近いものになりますよね。

− Heg.氏コメント:私たちショップスタッフは芸能人やモデルでもなく、ショップスタッフなので、「いかにお客さまが必要としている情報を発信するか」で信頼を築く必要があるんですよね。InstagramなどのSNSではプライベートも混在するため、どうしても個性が先行しやすいのですが、「ファンじゃないけど買い物がしたい方」に向けて“必要な”情報を発信していくことが大切です。その土台がしっかりあったうえで自分のキャラクターを乗せていけると強いと思います。個性だけを先行させると、「なんか合わない」と思われたらフォローを外されてしまうんです。

他にもオンライン接客を通して気づいたことはありますか?

Heg.コメント:オンライン接客のおかげで、一つひとつの商品知識が格段に上がりました。店舗では一人のお客さま起点でさまざまな商品をご提案していきますが、オンラインでは商品起点でたくさんのお客さまへアプローチします。両者の起点が根本的に違いますよね。

それぞれの店舗によって、店頭で展開できる商品数に限りがあります。そのうえ、お客さまとのコミュニケーションを通じて商品について考えたり、知識を蓄えることが多いので、展開している商品一点一点にじっくり時間を取ってフォーカスすることってあまりなかったんです。

ところがオンラインになると紹介できる商品が広がって、「これを紹介する!」と決めたら自分で情報収集し、いろいろな角度からその商品を分析してお客さま目線に立とうとします。そうしてオンライン発信のために得た知識が、今度は店舗での接客でも活躍するといった相互作用が働くんです。それはオンライン接客を通して得られた良い変化の一つですね。

ショップスタッフから買うことに意味を見出す

それぞれ今後の展望を教えてください

− 木崎氏コメント:STAFF OF THE YEARは、すでに2023年の企画が走り出しています。来年、より勢力を増して開催できるよう「ショップスタッフのためにできること」を大切にしつつ、リアルを巻き込むための工夫をしながら構想を練っていきたいです。ゆくゆくは大会翌日から、お店に行列を作りたいと思っています。「M-1でグランプリを獲った直後からマネージャーの電話が鳴り止まない!」みたいな状況を、このSTAFF OF THE YEARでも実現したいですね。

また、オフラインでもオンラインでも「スタッフから買う」という文化が当たり前になれば、モノの生産プロセスや流通にも変化が生まれるのではないかと感じています。

これまではメーカーが流通の川上にいて、企業が売りたいモノを作ってお客さまへ販売する状態でした。しかし今、川上にいるのはお客さまだと僕は思うんです。モノを作れば売れる時代とは違い、今は個人に寄り添ったオーダーメイドに近い提案やモノづくりが受け入れられる時代で、消費者のニーズに合った商品を作らないとモノが売れませんよね。

そして、そのお客さまのニーズや情報を一番近くで受け取っているのがショップスタッフなんです。ここにショップスタッフの“可能性”を感じています。また、好きなショップスタッフからモノを買うことってサステナブルにも繋がるんですよ。「あの人から買ったから大切にする」とか、「ずっと持っていよう」とか、ショップスタッフの知られていない価値ってまだまだたくさんあると思うので、よりショップスタッフの皆さんが輝けるようにサービスやイベントの向上を図っていきたいです。

− Heg.氏コメント:私は今後も店舗に所属しながら、所属店舗に限らずスタッフの教育や他店舗のサポートをしていきたいです。これからもお客さまの声を会社や世の中に届ける仲介人として、店舗に立ち続けたいですね。

これから参加を検討されている方に一言お願いします!

− Heg.氏コメント:まずはエントリーしてみてほしいです。私はSTAFF OF THE YEAR 2022への参加を決めた2週間後には、「エントリーして良かった」と感じていました。

自分のスキルを確かめるためのエントリーということはもちろんですが、自分を支えてくれている人を感じることができる大切な時間になります。店舗の皆をはじめ、友人や家族、面識のない会社の人までもが応援してくれて、自分の意識を変えてくれました。喜びが大きかっただけでなく、一皮も二皮も剥けて新しい自分が見つかり、世界が変わったようにも感じます。「いかに自分を応援してくれる人が周りにいるのか」というのを体感できるという意味で、過程にも価値のある大会だと思うので、少しでも興味が湧いたらぜひエントリーしてください!

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

「1対n」という新たな接客スキル

オンラインショッピングがこれだけ広く普及するなかで、「令和のカリスマ店員」とはどんな人物像を指すのか、取材前に抱いていた疑問がこの取材を通して解消した。店頭に限らずSNSやブランドホームページなど、どれだけPR媒体やツールが多様化しても消費者に向き合う姿勢が一貫しているのだ。

今回取材をしたHeg.氏についていえば、「買い手の不安を払拭する」というショップスタッフの本質的な役割に忠実に向き合い、自社の投稿をくまなくチェックして不足情報を補うという日々の地道な習慣が功を奏したといえる。

しかし、接客という仕事のスタイルに正解はない。ただ、自分のスタイルを客観的に評価する場はどんなことにも必要ではないか。ショップスタッフのそれが、STAFF OF THE YEARなのだろう。昔からある風習にとらわれず、オンライン接客のような現代に求められるスキルを評価する審査が設けられた本大会は、まさに「カリスマ店員」を目指すショップスタッフには欠かせない存在となりうるに違いない。

そして、「1対1」の接客スキルだけでなく「1対n」のスキルが求められるという点においては、アパレル業界のみならずセレクトショップなど小売業全体に問えることでもある。業界の枠組みを超えて、さまざまなブランドから誕生する令和のカリスマ店員に期待したい。

掲載企業紹介

株式会社ビームス
https://www.beams.co.jp/company/
1976年、東京・原宿に1号店をオープン。ファッションとライフスタイルにまつわるあらゆる物を世界中から仕入れ、提案するセレクトショップの先駆けとして時代をリードしてきた企業。コラボレーションを通じて新たな価値を生み出す企画集団としても豊富な実績を持ち、ファッションの領域を大きく超えて、さまざまなジャンルでクリエイティブなソリューションを提供。日本とアジア地域に約170店舗を展開し、世代を超えて多くの人に支持されている。


株式会社バニッシュ・スタンダード
https://www.v-standard.com/
VANISH STANDARD (=消す・常識) という社名にも表現されるように、「つまらない常識を革め、おもしろく生きる人を世界中に」というパーパスのもとサービスを展開する企業。2016年に「STAFF START (スタッフスタート)」をローンチ。同社が開催する接客コンテスト「STAFF OF THE YEAR」では、全国のアパレル店舗スタッフから「令和のカリスマ店員」が決まる。

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