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garageが考えるお店作り

日々の暮らしのなかで大切にしていることは人それぞれ異なる。インテリアを買い揃えて好きな家具に囲まれて暮らすこと、好きな音楽を聴きながら珈琲を楽しむこと、大好きなペットと過ごすこと、そして植物を愛でること。

コロナ禍をきっかけに自宅でインテリアを楽しむ人が増えたという話はよく聞くが、植物についてもそうだといえる。多肉植物や塊根植物の専門ショップも増え、家で過ごす時間の増加に比例してインテリアグリーンを取り扱う植物ブランドも多く見られるようになった。

そんな植物にはさまざまな効果があることはご存知だろうか。過去に掲載した「“グリーンと人”が共存する空間デザイン」でも触れたが、植物はインテリアとして目で楽しめることはもちろん、森林浴効果、空気清浄効果、視覚疲労緩和効果、心理生理的効果など、実に多くの効果が実証されている。自宅で過ごす時間がコロナ禍により増えた現在は、植物に癒しや喜びを求めている人が増え、興味関心をもっている人も多いはずだ。

今回は「植物と暮らす」をコンセプトに、さまざまなグリーンの事業展開を行ってきた株式会社ガレージの二村昌彦 (フタムラ マサヒコ) 氏に、植物との暮らしを長く提案してきたショップだからこそのこだわりについて話を伺ってきた。

植物が身近にあることで得られる暮らしの豊かさ。それを提案し続けてきた二村氏の考えには、今後のグリーンショップやセレクトショップの在り方についてヒントが隠されているのではないだろうか。

“日本で一番素敵なお店”を作ること

ガレージという会社を立ち上げたきっかけを教えてください

二村氏コメント株式会社ガレージは2022年10月に15周年を迎えた会社で、「日本で一番素敵なお店を作りたい」という想いをもとに愛知県豊橋市に立ち上げた「garage TOYOHASHI (ガレージトヨハシ)」というショップから始まりました。幼少期の私は農家を相手に種苗 (しゅびょう) 会社をしていた両親と長く過ごし、土や植物などが身近にある暮らしを送っていたんです。

大学卒業後はホームセンターに就職して園芸や農業資材の担当から、最後は店長とバイヤーも務めていたのですが、退職して園芸大国でもあるオランダへ施設園芸を学びに渡りました。元々インテリアや雑貨が好きだったこともあり、オランダでは蚤の市などで見つけたアンティークなどを個人的に収集していて、そのうち自分の好きなアイテムを集めたショップをオープンさせて、それを仕事にしたいと思うようになったんです。

そこで過去の人生も振り返ってみると、今までずっと身近にあったグリーンの大切さにも気づき、帰国後はグリーンをベースとしながらも、インテリアやアンティークなどを絡めた自分の好きなアイテムを集めた暮らしを提案するショップをやることにしました。それが現在の本店でもあるgarage TOYOHASHIです。

株式会社ガレージ
https://garage-garden.com/
「植物と暮らす -Livng with plants-」をコンセプトに植物と共にインテリアの提案、ガーデニングやディスプレー、ウェディングなど幅広く手掛ける。「garage (ガレージ)」以外にも地域やコンセプトに合わせて「Rust (ラスト)」「noni (ノニ)」というブランドを立ち上げ、拠点となる愛知県から関東まで店舗を構え、植物に寄り添った活動を行う。
garage TOYOHASHI  (ガレージトヨハシ)
2007年、愛知県豊橋市に生まれた「garage TOYOHASHI」。garageブランドの本店として倉庫を改装した300坪強の店内には、セレクトされたグリーンやインテリアなどが所狭しと溢れ、ギャラリーやワークショップも開催されている。

〒441-8151
愛知県豊橋市曙町南松原17
TEL|0532-38-8609
営業時間|10:00~19:00
定休日|毎週木曜日

なぜ豊橋という土地を選んだんですか?

二村氏コメント:私が生まれた場所が豊橋だったので、それ以外の選択肢は考えていませんでした。現在も同様ですが、新しくショップをオープンする際には、その地域の市場調査や競合などのマーケティングリサーチは行わず、自分の直感やフィーリングを大切にして決めています。

豊橋のショップをオープンするときも、最初は生まれた場所でやると決めていたからそこで始めたんです。ただ、自分でお店をやるからには立地に左右されず来店してもらえるショップをつくりたかったので、商品のセレクトのみならず、スタッフや倉庫を改装した売場の魅力を伝えていけるように尽力しました。

オープン当初はどうでしたか?

二村氏コメント:とはいえオープン当初はお客さまが来なくて大変でした(笑) 豊橋自体が近隣の名古屋に比べて商圏として規模が小さいことも影響していましたが、お客さまに来店していただけないのは、まだまだショップが魅力的ではないからだと考えて、毎日少しずつでも素敵なショップとなるようにレイアウトを変え、品を変え、とにかく完成度を高めることに注力したんです。きっと自分のショップを素敵にしたらお客さまが来てくれると強く信じていました。

どのようにして完成度を高めていったんですか?

二村氏コメント:豊橋のショップはyard (ヤード) とhome (ホーム) という主に二つの建物で成り立っているんですが、鉄パイプの倉庫を改装したyardは、工場っぽい荒々しい雰囲気と相反するグリーンを置いて新鮮な見え方となるように演出したショップです。

当時はオランダの蚤の市で集めてきたアンティークや、祖父が残した古材を利用したカウンター、木の古いボックス、グリーンなど、好きなものやあるものを使ってお店作りをしていました。昔は古材という概念もなく、それらを使用していたのも珍しかったのかもしれません。

二村氏コメント:それからヨーロッパのアンティークや古材などの好きなものを展開し、異なる雰囲気のものを組み合わせていくなかで、グリーンがあると空間を繋いで中和してくれる効果があることもわかってきました。

意図せずに好きなものでお店を作っていったら、たまたま良い空間が生まれたんです。こうしてグリーンとインテリアと古材を組み合わせた空間を提案するというgarageらしい売場づくりの基礎が生まれました。

商品に関しては売れるから仕入れるのではなく、買ってくれる人の顔を思い浮かべながら商品を仕入れるようになり、これだったらあの人が好きそうだなぁと具体的に落とし込んで、それを繰り返すことで少しずつお客さまも増えてきたんです。

そのうち県外ナンバーのお客さまも多く見られるようになってきたときは、わざわざgarageを目当てに来てくれているのがわかって嬉しかったですね。

お店を自分の“子ども”と考える

現在は何店舗あるんでしょうか?

二村氏コメント:現在はgarage以外のブランドも含めて5店舗を運営しています。豊橋店の営業を始めてから9年ぐらい経ち、次の出店を考えたときには、大規模商圏でなくともお店が素敵だったらお客さまが来てくれることは分かっていました。それもあって出店に関しての条件は多く求めてなかったんです。

自分たちの直感やフィーリングを基準に立地はあまり関係なく、garageとしてグリーンのある暮らしをしっかり提案することや、お客さまがまた来たいって思ってくれるような居心地のいい空間をロケーションに合わせて作ることを大切に考えました。マーケティングもリサーチも大切かもしれませんが、結局は自分たちがお店にどこまで気持ちを込められるかなんです。

garage以外のブランドについても教えてください

二村氏コメント:「Rust (ラスト)」と「noni (ノニ)」というブランドがあります。立川に構えているRustは、過去に浜松で営業していたショップの名前を改めて使用しました。私は自分が立ち上げたお店のことは“子ども”だと思っているので、少しずつ手を加えながら育てていくものだと考えています。

浜松のショップは建物の老朽化で残念ながら閉めざるを得なかったのですが、せっかく大事に育ててきたRustを無くしてしまいたくなかったんです。それもあって立川ではシンプルに植物のある暮らしの提案を行うことをコンセプトにしながらも、再びRustという店名でgarageとは違うショップを立ち上げました。

Rust TACHIKAWAの店内

二村氏コメント:一方、5店舗目となるnoniは横浜駅のポップアップスペースを提案されたことから始まります。そこはアパレルショップを前提とした店内の作りだったので、陽が当たらず水場もなく面積も狭いということで、 “植物と暮らす”というテーマでやってきた我々としては、新規出店は難しいだろうと思っていました。

でも、自分たちに何かできることはないのかとふと考えてみたんです。そして、日光が不要なドライフラワーや資材を打ち出して、今までとは違う視点から“植物と暮らす”ことを提案できる新たなブランドとなるnoniの開店を決めました。

種類豊富なドライフラワー

二村氏コメント:5店舗全てに言えることですが、ショップを作るときは仕入れる植物や内装をロケーションに合わせるということを大事にしています。つまり植物と暮らすことをテーマにしながらも来ていただくお客さま、そこで働くスタッフを軸に、“子ども”である各店舗の個性を活かす育て方を考えるようにしているのです。

例えば、インテリアショップだと商品が売れたら同じものを仕入れると思いますが、植物は生き物というのが前提なのもあり、そもそも同じ品種であっても見栄えが異なるものが多く、鉢の中身が売れたからといって、また同じ品種を仕入れて同じ鉢に入れればいいってわけじゃありません。

その植物に合わせたコーディネートも重要になります。商品ごとに鉢次第で見え方も変わりますし、そういうことを考えていくと個店ごとにショップの作り方自体も、内装や店舗環境に合わせたコーディネートをするなど、それぞれが変わっていくのです。

その他に売場作りへのこだわりはありますか?

二村氏コメント:数字では計れない商品でもあるグリーンの見せ方や管理についてこだわっています。garageを始めた頃はホームセンターでの経験を活かして、POSレジなどの導入も考えたんですが、そもそもグリーンは生きているので毎日表情も変わりますし、POSでとれる数字から顔色や状態まではわからないと思ったのでやめたんです。

実際に売場でグリーンを観察してみると、今日は調子が良さそうだと思った商品が売れたり、グリーンには数字で測れない部分が多く見られます。もちろんビジネスを展開していくうえでデータは大事なんですが、その数字だけを重視しすぎると本当に売場で大切なことが見えなくなってしまうので、未だに仕入れや在庫計上などもアナログなやり方を採用しているんです。

コミュニケーションに特化した店舗

garageが考える“素敵なショップ”の定義はありますか?

− 二村氏コメント:ただ売れるモノだけ売ろうとしたり素敵なモノを置くだけではなく、グリーンという生き物を取り扱う以上、お客さまが購入後、育てるというところまで考えられていることが素敵なショップだと思うんです。その良さが伝わってやっとモノが売れて、ショップを気に入ってくれたお客さまが、またグリーンを買い足しに来てくれたり、道具を買いにきてくれたりと循環していきます。

そのためにグリーンもインテリアも徹底的にこだわって、中途半端にならない空間作りをしています。そういうのが愛されるショップになると思うんです。

あと、“素敵さ”って “ショップスタッフ”にも左右されると思っています。その理由のひとつは接客です。garageでは商品にPOPを付けていません。それは、毎日表情が変わっていく植物の良さを、スタッフがお客さまとコミュニケーションをとりながら伝えることを大切にしているからです。

POPを付けないのにはさらにもうひとつ理由があって、生き物でもある植物にはしっかりと人の手を加えて管理する必要があること。そういった考えもあってgarageではスタッフの数も同業他社の3倍くらい配置しています。

園芸道具まで幅広く揃える

人件費がかかりそうですね

− 二村氏コメント:効率化を推し進めていくチェーン店などの発想とは真逆だと思っています。植物は屋内で育てられるために生まれてきたわけではないということを理解して、店内でも健やかに暮らしていけるように人の手を加えていくべきなのです。そのためには絶対に人件費をかけるべきだと思っています。

garageが見つめるグリーン業界の未来

今後の目標を教えてください

− 二村氏コメント:今年で15年目を迎えたgarageができることを考えたときに、スタッフも成長し会社自体のやれることが増えたというのもあって、新店舗を出すことにしました。

2022年の12月15日には東京駅にある丸ビルに100坪の新店舗を出店します。そこでは豊橋店のオープン時に見せていたヨーロッパのアンティークなどを改めて綺麗に組み合わせてディスプレーし、原点回帰と進化した空間作りの両方を提案したいですね。

ショップに来たお客さまに見てほしいところはありますか?

− 二村氏コメント:garageならではの空間演出を楽しんでもらいたいです。ショップって舞台ではないのでファサードだけ作り込め良いわけではなく、ハリボテにならないよう細部までこだわった商品が店内全体に配置されていなくてはなりません。

garageでは店舗やブランドごとに全方位から見てこだわったお店づくりをしているので、それぞれの店舗で熟考された植物と鉢の組み合わせなど、ディスプレイや接客を活かした実店舗の良さが詰まっています。

さらに店舗によってはギャラリーやワークショップも用意していて、リアルなショップで感じられる“ならでは”な体験の場がありますので、ぜひ “garageに行くこと”自体をイベントにして、たくさんの方が楽しんでいただけたら嬉しいですね。

最後に、今のグリーン業界に対する想いを教えてください

− 二村氏コメント:昨今、グリーン業界は確かに盛り上がりを見せています。ただ、悪意がある訳ではないと思いますが、一時的な盛り上がりから集客だけを目的に考えて、安易にグリーンを扱い、枯らしてロスにしてしまうという話もよく耳にする状況です。マーケット自体もバイヤー同士の奪い合いが続いていて、本来であれば出荷時期には適していない植物が市場へ流れてしまっています。

それが適切に管理されていないままお客さまの手元に届くと、すぐに枯れてしまうんじゃないでしょうか。こういうことが続くと、グリーンのある暮らしが台無しになってしまい、せっかく気運が盛り上がっているグリーン業界を自分たちの手で落としてしまうような気がするんです。

人が集まるとか売れるから扱うのではなく、生き物を扱っているということを改めて思い出して、まずは手をかけて枯らさない、その大切さをお客さまにも伝えること。私たちスタッフはもちろん、グリーン業界全体がそういう考えをもって取り組んでいけたらいいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

改めて見直すショップづくりとグリーンの関係性

店舗やブランドを運営する上で数字は非常に重要な指標だ。売上はもちろん、在庫金額や仕入れ金額など、商品を適時適切にお客さまへ届けるために、参考となる情報がPOSなどからは得られる。

だが、数字で表せない部分こそ大事なのではと二村氏は言う。効率的に売上や利益を生むことはビジネスのなかで非常に重要ではあるが、「店」も「植物」も愛がないとどれだけ水をあげても育たない。店舗のファサードやメインコーナーばかり気にするのではなく、売場全体をちゃんと大切にしているだろうか。

売りたいモノや見せたいモノだけで売上を取るのではなく、本当にお客さまが求めていることが何なのか改めて考えて、商品の管理体制や売場を見直し、お客さまに伝えたいことを店頭で直接伝える。それこそが愛あるショップの育て方の秘訣なのだ。

その考え方は決してグリーン業界に対してだけでなく、ショップを持つすべての会社に通ずる大切なことではないかと感じた。

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