2022.11.29.tue

ラフォーレ原宿のカオスな売場「愛と狂気のマーケット」

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リアルショップで楽しむ買い物

人と接触をせずに自宅で安全に買い物をする「巣ごもり消費」も落ち着きを見せ、外出の機会も少しずつ増えてきたが、スマホやパソコン1台で購入できる便利なネットショッピングはさらなる普及が促進されている。

そのネットショッピングには、自動レコメンドするアルゴリズムが備わっているため、街に出歩かなくても購入者好みの商品を手軽に手に入れることも容易となった。

一方、リアルショップもまた、消費者の外出の機会が増えたことで活気を取り戻している。

では、消費者がネットショッピングとリアルショッピングのどちらも選べるようになった状況のなかで、便利なネットショップに対し、リアルショップはどのようにして消費者の心を掴んでいるのだろうか。

今回、MMD TIMESはラフォーレ原宿で展開している店舗「愛と狂気のマーケット」を取材した。このリアルショップでは消費者と商品との出会いだけでなく、クリエイター、企業など、あらゆる出会いを大切にしてるという。発起人である神田千穂 (カンダ チホ) 氏に、リアルショップの魅力や売場づくりにおけるこだわりについて話を伺った。

愛と狂気のマーケット
https://www.laforet.ne.jp/aitokyouki/
東京都渋谷区にある商業施設「ラフォーレ原宿」の地下0.5階に2022年4月にオープンした “おもしろい” 才能の出会い系ショップ。新しいモノに出会える、人と才能を繋ぐ、すべての境界を飛び越えて新たな化学反応を生み出すNEWスポットとして誕生した。毎月約70のブランドやクリエイターの、アパレル、アクセサリー、アート、雑貨、書籍、伝統工芸など、あらゆるジャンル、カテゴリーの作品が集うマーケットとして、原宿から世界へ向けての発信を目指す。

才能あふれる原宿への原点回帰

「愛と狂気のマーケット」について教えてください

− 神田氏コメント:この強烈なネーミングの実体は“リアルショップ”なんです。ECでのショッピングが当たり前になった今の時代に、もう一度リアルショップでのショッピングの楽しさを思い出してもらいたいと思ってスタートしました。ここでは約70のさまざまなジャンルのクリエイターの商品や展示品を紹介しており、そのうち半分以上の出品が毎月入れ替わっています。

「愛と狂気のマーケット」の愛は“出会い”、狂気は“才能”を意味していて、「才能あるクリエイターがもっと多くの人に知ってもらえるように」という想いを込めました。

− 神田氏コメント:また、ラフォーレ原宿で店舗を構えていることにも意味があります。70年代にラフォーレ原宿が生まれた頃、原宿はクリエイターが今以上に自由に表現でき、たくさんの個性や才能が溢れる街でした。

しかし最近は原宿がブランド化した一方、若い世代にとっては自身の作品を発表するにはハードルが高くなっています。以前のような若者カルチャーの発信源の場ではなくなって、クリエイターが自由に表現できるチャンスが少なくなってしまったんです。

そこで本企画のディレクターである軍地彩弓 (グンジ サユミ) 氏と話し合いを重ね、もう一度当時の「驚きや面白さが詰まったクリエイティブな原宿を再起すること」を目標に掲げました。

つまり、「愛と狂気のマーケット」のテーマは原宿の「原点回帰」なんです。かつての原宿を知らない人も、原宿から離れをしてしまった人も、新しいモノを求めてワクワクしながら集まれる場所にしたいと思っています。

「愛と狂気のマーケット」の売場

そのうえで大切にしていることはなんでしょうか?

− 神田氏コメント:リアルに出会うことを大切しています。それは、人との出会いや新しいモノに出会ってもらうということです。そこには店舗におけるお客さまと作品との出会いだけでなく、お客さまとクリエイター、それからクリエイター同士の出会いやきっかけを掴んでもらうことも含まれているんですよ。

クリエイターには制作時間を優先してもらいながらも、余裕があるときは店舗に顔を出してお客様とコミュニケーションを取っていただくことをおすすめしています。

店舗で実際に作品を手にしたお客さまに、その商品の情報やクリエイター自身の想いを直に伝えられるということは、ECショップにはない付加価値ですからね。

また、クリエイター同士の横の繋がりも大切にしてもらおうと、出品時に名刺交換会も行っています。通常はカテゴリーが違うクリエイター同士は出品する環境も異なり、なかなか出会うことも少ないと思うんですよ。こうした機会にジャンルが異なるクリエイターと出会い、ご縁を繋げていってほしいと思っています。そこからまた新しい企画が生まれることもありますからね。ぜひこういった機会を大いに活用していただきたいです。

クリエイターに寄り添う店づくり

出品条件はありますか? 

− 神田氏コメント:オンラインからどなたでも応募できます。今までラフォーレ原宿では出店条件について開示をしていなかったのですが、この「愛と狂気のマーケット」においては、ウェブサイトで一般公開し、誰でも気軽に出品の応募ができるようにしました。作品ジャンルの指定をしていないのも、間口を広げ、枠にとらわれないあらゆるジャンルの才能を発掘したいという理由からです。

出品料は低価格のため、予算に合わせて選べますし、期間も1か月単位で設定しているので負担が少ないと思います。さらに、出品方法もこのような形態のマーケットとしては珍しく「展示のみ」でも可能なんですよ。

展示や販売ともにディスプレー方法には、ウォール、ラック、ロッカー、ボックス大・小、スペース大・中・小の8パターンという豊富な選択肢があり、ウォールやラックのみという展示や販売もできるので、クリエイターの予算や世界観に合わせられるのが特徴です。

ウォールを活かした展示
ボックスやロッカーで表現した作品
ラックを使用した展開

売場づくりで工夫していることはありますか?

− 神田氏コメント:売場はあえていろいろなジャンルを不規則に並べてカオスにしています。同じジャンルの作品を並べてしまうと、どうしてもお客さまは気に入ったエリアだけで足を止めてしまい、結局はネットのアルゴリズムと同様、違う世界観の作品に触れることができなくなってしまうからです。

店内をカオスに配置することで、今まで出会わなかった「新しい好き」を発見してもらいたいと思っています。

この売場配置においては、より多くのお客さまに知ってもらえるよう熟考の末に決定しているので、基本的には私たちにお任せいただいてますが、スペース内の素材や色調など、デコレーションの仕方においては、出品者に自由に表現してもらっているんです。

出品ジャンルを不規則に配置した売場づくり

− 神田氏コメント:以前、ある出品者から「愛と狂気のマーケット」のオープン間近に、展示に関するご意見をいただいたことがあります。内容としては「世界観を表現するためには、展示ボックスのサイズが小さい」ということでした。その時は内装業者の方に無理を言って急遽サイズを変更してもらったんですよね。

クリエイターの才能を引き出す環境をいかに作るかが私たちの仕事ですから、こうしたクリエイターの声にはなるべく耳を傾けて尊重するという姿勢も、売場づくりで大事なことだと思っています。

その他にも工夫していることが入口ファザードの装飾です。通常こういった場所にはマネキンなどイチオシ商品をディスプレーしますが、愛と狂気のマーケットではクリエイターに依頼して、自由な世界観を表現した入口のためだけの装飾を作っていただきました。

インパクトある入口ファザードの装飾

− 神田氏コメント:また、フィッティングルームにおいても、イラストレーターやクリエイターにお願いし、インパクトあるイラストを描いていただいてます。

個性と才能あるクリエイターの作品の数々がこれだけ揃っていますから、内装もそれらに負けない個性的なモノにしなくてはなりませんからね。

手描きイラストの壁が特徴のフィッティングルーム
もう一方は壁一面にレシートが張り合わされたフィッティングルーム

縁を繋ぐ新しい出会いの場

お客さまに期待することはなんでしょうか?

− 神田氏コメント:各作品にはクリエイターの手書きのメッセージが貼ってあります。ぜひそちらにも注目していただき、クリエイターの温かさや思いを感じながら、親近感を持っていただけたら嬉しいです。

また、人と才能の縁を繋いでいたかつての原宿を感じてほしいですね。「昔の原宿みたい」とお客さまから感想をいただいたことがありますが、それは私たちにとって最高の誉め言葉でした。

昔の原宿を知らない人も、きっと新しい出会いがあるはずですから、このショップでそうした偶然の出会いを楽しんでいただきたいです。

今まで見たことない商品との出会いから、新しい世界が発掘できるのではないでしょうか。

今後の夢を教えてください

− 神田氏コメント:店舗内には自動販売機や椅子のような実用的な作品も展示されているので、それらを実際に使用しながら、お客さま、クリエイター、作品とのご縁をさらに広げられるようなコミュニティースペースを設けたいと考えています。

個性あるデザインのクラフトビールやエナジードリンクの自販機

− 神田氏コメント:また、お客さまとクリエイターとの距離をさらに縮められるように、体験の場も増やしていきたいですね。

例えば、今行っているのがライブペインティングです。この企画は出品者からご提案をいただきました。当館から地下に眠っていた廃材を提供し、それを使って毎日リアルタイムで出品者が制作してくださっているんです。お客さまは来店する度に変化していくこれらの作品と、目の前で見られるパフォーマンスを楽しんでくださっています。

この空間には自由に入っていただけますし、撮影も自由です。クリエイターとのコミュニケーションも楽しめる場所なんですよ。これからもこうした出品者の発案を大事に、いろいろな体験企画を展開していきたいと思っています。

変化を毎日楽しめるライブペインティング

− 神田氏コメント:それから、クリエイターだけでなく企業参画も増えるといいですね。このスペースを商品のプロモーション用としてご使用いただいたり、また取引先をお連れして商談の場としてご使用いただいたりと、今までにはなかった活用の仕方もあります。

こうしたリアルな対話の場があれば、企業、クリエイター、お客さまとの距離がもっと縮まり、本来の商品の価値がしっかり伝わると思うんです。

今後も人やモノとの出会いを生み、距離を縮めることができる新たな場所として、このショップの新しい活用方法を、企業やクリエイターの方々と一緒に考えていきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

リアルショップが提供する付加価値

リアルショップのショッピングには、足を運ぶ手間以上に人やモノとの出会い、またそのモノの本質やクリエイターの想いが直に伝わるという付加価値がある。

そうしたリアルショップならではの付加価値を消費者に伝えたいという神田氏の想いでスタートした「愛と狂気のマーケット」は、若者が自由な発想で発信する原宿の再起と並行しながら、とことんリアルな出会いや新しい出会いの提供にこだわり、縁を繋げている。

さらに縁を繋げるため次に目指すことは、今までになかったリアルショップの活用方法を、クリエイター、消費者、企業が一緒になって創り出すことだと同氏は語っていた。

リアルに触れ合える環境が回復してきたからこそ、こうした縁を繋ぐリアルショップは、消費者に単なる“ショッピング”ではなく“ショッピングを楽しむこと”を提供できる重要なポジションとなるだろう。

消費者のショッピングの仕方に自由な選択肢を与える「利便性のあるネットショップと新しい出会いを生むリアルショップとの共存」は、今後のライフスタイル業界が偏った市場とならないための必須要素ともいえそうだ。

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