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デザインとアートの垣根を越えたエキシビション

日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO (デザイナートトーキョー)」は、2017年に東京でスタートしてから今年で6回目を迎えた。世界屈指のミックスカルチャー都市である“東京”を舞台に、都内各所でプレゼンテーションが行われる本展は、2022年10月21日 (金) から10月30日 (日) のあいだ、アート、デザイン、インテリア、ファッションなど多彩なジャンルをリードする才能が集結。

そこでは、デザインやアートというジャンルに捉われないさまざまな展示やインスタレーションが各所で行われ、東京の街を舞台に日本独自のフィルターを通したクリエイティビティを世界に向けて発信した。

DESIGNART TOKYO 2022 (デザイナートトーキョー)
https://designart.jp/designarttokyo2022/
開催期間:2022年10月21日 (金)~30日 (日)
※参加会場により展示期間が異なる場合あり
会場:都内各所 (表参道・外苑前、原宿、渋谷、六本木・広尾、銀座)
※DESIGNART TOKYO 2022の会期はすでに終了しています。

未来へと前進するための原動力を生み出す場所

DESIGNART TOKYO 2022は今年のテーマに「TOGETHER 〜融合する好奇心〜」を掲げた。その理由は、ここ数年のコロナ禍の影響が大きかったようだ。激動の数年を経てこれからの時代に重要となるのは、多様な人が積極的に関わりたいと思える独創的なビジョン、そして自身と違う才覚をかけ合わせ未来に繋げる実行力だ。そのビジョンは関わる全ての人にとって新しいクリエイティブや日々の生活における原動力になっていくという。

そのために、同イベントを通してデザイナー、アーティスト、企業などさまざまな人々の出会いの場となり、そこからクリエイティブやビジネスが創出され、社会がより良い方向へ転換されることを目的としている。我々取材班は、DESIGNART TOKYO 2022のさまざまな会場のなかから独自の目線で注目した5会場を実際に体験してきた。今回はその未来へと繋がる取り組みを紹介していきたい。

NEXT CIRCULATION

まず訪れたのは、青山通りに面した全面ガラス張りのファサードが目を引くワールド北青山ビル。毎年メインエキシビション会場として用意され、今年は「NEXT CIRCULATION Sustainable & Technology (ネクストサーキュレーション サステナビリティアンドテクノロジー)」をテーマに、次の循環型社会とは何かということを各アーティストたちが表現していた。

会場の空間構成を手がけたのは、建築をベースにプロダクトやアートの領域で活躍しながらも、自らアップサイクルの作品なども手掛けるデザイナーの板坂諭 (イタサカ サトシ) 氏。彼は今回のテーマに合わせた空間構成を考えていた際、循環型社会として成り立っていたと言われている“江戸時代”に影響を受けたという。

江戸時代は稲作を中心とした自然共生の営みを地域で行い、廃棄物などを肥料として社会全体で無駄なく循環させ暮らしていた時代だ。そこで板坂氏は今回の会場を江戸時代に見立て、会場の什器配置でそれを表現した。まず、江戸時代に葛飾北斎が描いた富嶽百景のなかで、青山の場所には松林が描かれていたことから、会場の前に大きな松の木が1本生えているものとして想定し、朝日が当たって松の木が落とす影の位置に什器を配置したのだ。

板坂氏は展示でサステナブルを訴えるだけでなく、そういった全体の空間構成にも意味を持たせ、未来も大事だが過去の循環型の暮らしを振り返り今に取り入れることも大切だとというメッセージを込めた。

展示は大きな松の木の枝葉が広がる様子や影をイメージして配置。写真手前の作品は「Seeds of Heritage by Orna Tamir Schestowitz」

また、什器には今回の会場テーマに合わせて、廃棄衣料をアップサイクルした繊維リサイクルボードである「PANECO ® (パネコ)」を使用した。その什器にも化学塗料の使用を避け、新たに開発されたバイオ塗料で“光”を意味する七色に塗り分け、「影に光を付ける」ということを最新のテクノロジーが用いられた塗料で表現し、未来に可能性があるという想いを込めたとのこと。

板坂氏は会場で使われるものは、全てNEXT CIRCULATIONという言葉に紐づくものであるべきだと考え、什器だけでなく会場で使用される看板や照明にも循環型の概念が反映された空間となった。

廃棄衣料をアップサイクルした「PANECO ® (パネコ)」を使用した什器

実際に会場で展示された作品は、板坂氏の作品をはじめ日本企業から海外アーティストまでアップサイクルをテーマにしたアート作品だけでなく、新素材や最新技術を使用した持続可能な作品が多く見られる。これからの未来に向けての環境への配慮と共に、テクノロジーを活用した “その先”の未来を見据えた作品展示がされ、メインエキシビション会場としても見る人に新たな出会いや気づきを与えていた。

板坂氏の「Band-Aid accessary (バンドエイドアクセサリー)」(写真左下) と「KINTSUGI (キンツギ)」(写真右上)
廃棄漁網を材料に作られた「Duolog Design LLC (デュオロ グデザイン)」のアイウェア / 台湾デザイン研究員 (TDRI) 主催の特別企画「the SPIRAL」より

ITOCHU SDG s STUDIO

次はメイン会場に引き続き、生活者一人ひとりが自分なりのSDGsとの関わり方に出会える場として企画を展開する「ITOCHU SDGs STUDIO (イトウチュウエスディージーズスタジオ)」。ここは伊藤忠商事株式会社が「人と商いと地球」をつなぐカルチャープラットフォームの構築を目指し運営を行ない、DESIGNART TOKYO 2022にあわせて「めぐる、つなぐ、はじまる展」というテーマで再生と循環を表現するクリエイターの作品を展示していた。

そこで我々取材班が各作品から共通して感じたのは、本来捨てられてしまう廃棄衣料や家具などをアップサイクルするだけでなく、元の素材を活かしながらも新たな想いをしっかり込めているということ。

廃棄衣料から作られた板材を使用した「QUON (クオン)」 / Konel (コネル)
廃棄予定だった生地などから“音”を生み出す「FABRIC RECORDS (ファブリック・レコード)」 / Studio POETIC CURIOSITY (スタジオポエティックキュリオシティ)

例えば、東京産の藍染め家具を世界に発信する「Ao. (アオ)」の展示では、廃棄家具の使用できる箇所は極力元の状態を残し、難しい箇所は東京産の良質な木材を使用して補修し、ただ繋ぎ合わせるだけでなく身近にある資源本来の良さも伝え、さらに長く使ってもらえるような想いが込められている。

その他も共通して生まれ変わったモノが次の暮らしを支え、そこから新たに“はじまる”ことを表現し、生活に寄り添う総合商社ならではのフィルターを通した“これから”のサステナビリティを感じる展示が見られた。

廃棄木製家具と東京産の無垢材を組み合わせた作品「Ao.Re: (アオリ)」 / Ao.

DESIGNART GALLERY at Hz SHIBUYA

カルチャーの発信拠点である東京の渋谷に新たに生まれたHz SHIBUYA (ヘルツ シブヤ) では、「DESIGNART GALLERY (デザイナートギャラリー)」として展示が行われた。ここでは経済的成長が堅調で文化発信の新たな中心地となりつつあるアジアに焦点をあて、UNDER 30の若きクリエイターや企業が“素材”と向き合い最新技術や新しい発想をもとに展示を行い、デザインを通して未来を表現していた。

例えば、quantum (クオンタム) ×Stratasys Japan (ストラタシス ジャパン)のプロジェクト「mitate (ミタテ)」では、物体や景色などの写真をAIが器に見立てて、デザイナーが3Dデータを作成し、最新のフルカラー3Dプリンターを使いさまざまな器を実体化するというデザインリサーチの展示が行われていた。ただ作品を展示するだけではなく、AIとデザイナーが共存する未来の在り方を提案している非常に興味深い内容だ。

AIに入力した写真が器になるまでの過程を視覚的に表現した展示「mitate (ミタテ)」 / quantum × Stratasys Japan

同会場に展示されていた他のクリエイターを見ても感じられたのが、新しい考え方をもって持続する未来を考えること。デザインやアートの作品展示をするだけでなく、展示を通してどのように作品を働かせていくのか、限られた資源をどう使いどのような未来を迎えるかなどを考えさせられる空間となり、きっと多くの来場者の心にも響いたはずだ。

りんごの搾りかす (残渣) から生まれた新素材「ADAM (アダム)」によるプロダクト / 株式会社KOMORU (コモル) とM&T (エムアンドティ)
木の反りを利用した家具「The Bender (ザ ベンダー)」 / SDANLEY DESIGN WORKS (スダンリーデザインワークス)

KAISU

赤坂の料亭をリノベーションした「KAISU (カイス)」。木造住宅をリノベーションした空間は、“会す”という名の通り、石巻工房をはじめとするさまざまなクリエイターの家具作品が集まり出会いの場になっていた。なかでも3.11の東日本大震災をきっかけに建築家の芦沢啓治 (アシザワ ケイジ) 氏が立ち上げた石巻工房に注目したい。11年の歳月で国内外に認知度を高めてきた同工房は、改めて原点に立ち返り過去に続けてきたワークショップを7人の建築家やデザイナーと寝食を共にしながら2日間の日程で行った。

現地でのワークショップを通して新たに生まれたのは11種類のデザイン。その作品ができあがるまでの過程も含めて展示され、リアルな現場から生まれるクリエイティビティの大切さやデザインと実用性が両立した美しさに、多くの来場者の目が奪われていた。

「2 days at Ishinomaki Laboratory (ツーデイズアットイシノマキラボラトリー)」の展示

他にも会場には原田真之介 (ハラダ シンノスケ) 氏、石垣純一 (イシガキ ジュンイチ) 氏、鈴木僚(スズキ リョウ)氏の 3人のデザイナーが“移場所”をテーマに、それぞれが制作した家のなかで自分の居場所を作る可搬性のあるテーブルの展示を行ったり、鈴木舞 (スズキ マイ) 氏が伝統工芸である「組子」からインスピレーションを受けデザインした「木華kohana」を展示したり、木造の展示スペースに日本独自のクリエイティブが溶け込んだ空間となった。

写真左「ENOKI LIGHT (エノキライト)」 右「CHOCHIN STOOL (チョウチンスツール)」/ 原田真之介 (ハラダ シンノスケ) 氏
「Array Polar (アレイポーラー)」 / 石垣純一 (イシガキ ジュンイチ) 氏
「flex (フレックス)」 / 鈴木僚 (スズキ リョウ) 氏
「木華kohana」 / 鈴木舞 (スズキ マイ) 氏

日比谷OKUROJI

最後に訪れた会場は、100年の歴史をもつ煉瓦アーチが印象的な「日比谷OKUROJI (ヒビヤオクロジ)」。300m以上続く高架下空間には飲食店やショップが立ち並び、その隙間をぬってDESIGNART TOKYO 2022の展示とインスタレーションを見ることができた。

こちらでもUNDER 30のクリエイターの活躍は目立っていた。野村仁衣那 (ノムラ ニイナ) 氏の物体の表面を微細な穴で埋め尽くし、素材の起源に光を当てモノと人の関わり方を問うプロジェクト「Life Through Holes (ライフスルーホールズ)」や、満永隆哉 (ミツナガ タカヤ) 氏のベルリンの壁のオンライン化プロジェクト「BERLIN WALL ONLINE」のオフライン展示「BERLIN WALL TOKYO (ベルリンウォールトーキョー)」など、若きクリエイターの独創的な才能が光る。

野村仁衣那 (ノムラ ニイナ) 氏の「Life Through Holes (ライフスルーホールズ)」
満永隆哉 (ミツナガ タカヤ) 氏の「BERLIN WALL TOKYO (ベルリンウォールトーキョー)」

宮城県の丸平木材株式会社は、杉などの日本を代表する貴重な資源が有効活用されず放置されている現状など、林業全体の問題を嘆き、資源の循環を促すため「宮城・南三陸テロワールキッチン」の展示を通して南三陸産の杉材の美しさを訴えた。

さまざまなアート作品やインスタレーションが散りばめられた高架下空間は、銀座という場所も影響して幅広い人々の目につく機会となっており、たくさんの人々の足を止めるきっかけにもなっていた。

「宮城・南三陸テロワールキッチン」 / 丸平木材×tossanaigh
nooca (ノーカ) のプロダクトライン「form (フォーム)」の新作フラワーベース
インテリアエレメンツ「MASS -2022-」 / 古舘壮真 (フルタテ ソウマ) 氏

DESIGNART TOKYOが目指す未来

DESIGNART TOKYOの5会場を巡り、作品や展示から強く感じたのは「未来に繋げる」重要性で、作品を発表したり展示する場所として在るのではないということだ。イベントとしてアートやデザインが素晴らしいだけでは終わらせず、主催者やクリエイターが今後の未来について何ができるのか、アートやデザインをサステナブルやSDGs、テクノロジーなどの多数のフィルターを通して発信することで、クリエイティブな未来に繋げるということを表現していた。

冒頭でも述べたように、DESIGNART TOKYO 2022のテーマは「TOGETHER 〜融合する好奇心〜」であり、コロナショックを経て生活様式や人々の考え方も大きく変化するなか、展示を通して気づきや出会いが生まれ、それらが新たなクリエイティブやビジネスに発展し社会を形づくっていく。まさにその原動力を生み出す場所としてDESIGNART TOKYOは存在しているのだ。

取材のなかで何名かの出展者から、「制作した作品を発表する場を考えたとき、まず最初にDESIGNART TOKYOが頭に浮かんだ」と聞いた。日本を代表するアートとデザインに特化したイベントとしてはもちろん、時代に合わせてチューニングを行い、東京という場所から世界に向けて発信ができているからである。だからこそ、若きクリエイターからキャリアあるデザイナーまでDESIGNART TOKYO 2022への参加が価値あるものとなっているのだ。

さきに紹介した今回のメインエキシビション会場ひとつ取っても、「循環」というテーマのみで展示物だけでなく使用什器や配置など、あれほどまで徹底的に突き詰めた展示は他にないといっても良いだろう。そしてこういった取り組みを行うことでDESIGNART TOKYOにまた新たな才能あるクリエイターが集まり、より良い未来やビジネスに繋がるのだ。

まさに会場テーマとしてだけでなく、イベント自体で「循環」を体現するDESIGNART TOKYOは、今後もアートやデザインという垣根を超えて進化し続けていくだろう。

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