2022.11.01.tue

クリエイティブが生まれる公園“rooms PARK”<後編>

Contents

進化するrooms PARK

変化することは勇気が伴う。失敗すると今まで築きあげてきたものが砂のように崩れてしまうのではないかという恐れもあるだろう。10月に開催された合同展示会「rooms PARK (ルームス パーク)」は、今まで開催してきた「rooms (ルームス)」から大きく変貌を遂げた。

同展示会は今回からディレクターとして蛭田敏章 (ヒルタ トシアキ) 氏を迎え、名前を変えるだけに留まらず、多くの想いと新しい取り組みが詰め込まれている。これまでroomsとしてやってきた新たなクリエイターの発掘やアートの発信は変わらずに行いながらも、若く経験が少ないクリエイターたちが出展しやすいチャレンジブースを用意したり、渋谷という新たな開催場所の特性を活かした独自のコンテンツを用意することで新たな客層の取り込みを狙うなど、今回開催されたrooms PARKはまさに「生まれ変わったrooms」と言っても過言ではない。

クリエイティブが生まれる公園 “rooms PARK” <前編>」では、蛭田氏の想いと共にその取り組みや考えを紹介してきたが、<後編>では更に深掘りして会場に散りばめたたくさんの見どころを中心に紹介し、より細かくrooms PARKを紐解いていきたいと思う。

rooms PARK (ルームス パーク)
https://www.roomsroom.com/rooms-parkevent
開催期間:2022年10月13日(木)~10月16日(日)
会場:渋谷ヒカリエ ヒカリエホール9F
※rooms PARKの会期はすでに終了しています。

人と人の繋がりから生まれる合同展示会

今回の会場について教えてください

− 蛭田氏コメント:今回rooms PARKを開催するにあたり、運営陣も新しいメンバーで開催場所も渋谷に変わるということもあって、今までとのイメージの刷新やさまざまな方に気軽に立ち寄ってもらえる合同展示会にするということを強く意識しています。

そこで、メインビジュアルはお花などの自然をモチーフに描くことも多いLee Izumida (イズミダ リー) 氏にお願いすることにしました。Lee Izumida氏の描くイラストや自由なフォントがrooms PARKのイメージにぴったりだと思ったのと、彼女とはH.P.FRANCE (アッシュ・ペー・フランス) が運営するhpgrp GALLERY TOKYO (エイチピージーアールピーギャラリートウキョウ) で、過去に個展を開催していただいた繋がりもあったからです。

期間中はライブペインティングをビジネスデイとマーケットデイの各1日ずつ設けたので、企業とLee Izumida氏が商品開発やPRなどで繋がる可能性も考えられますし、一般のお客さまにもファンが多いので来場者が増えることで、出展者の満足度も上がります。また、新たに彼女を知ってもらうことで、アーティストの今後の未来にも繋がっていくように、アーティスト、出展者やバイヤー、お客さまが三方よしとなるように企画しました。

Lee Izumida氏のライブペイントの様子

メインビジュアルにはどのような想いがあるんでしょうか?

− 蛭田氏コメント:私たちがそのときに紹介したいと思うアーティストを感覚的に選ぶこともありますが、「合同展示会のテーマやコンセプトに合ったアートなのか」を重視して選ぶことが多いです。

例えば、今回のrooms PARKは「繋がり」を最も大切にしました。先ほども述べた通りですが、メインビジュアル一つとっても、アーティスト、出展者、バイヤー、お客さまなど会場で生まれる繋がりを大切にすることで、参加者全員に相乗効果が生まれて満足度に繋がります。そのために我々が持っている繋がりを活かしたアーティストやコンテンツを用意しているんです。

未来に繋がる会場づくり

会場づくりという点で、今までとの違いは?

− 蛭田氏コメント:新しい取り組みとしては、広島の株式会社WOODPRO (ウッドプロ) さまに中古の足場材をレンタル提供いただいて「再利用できる会場づくり」にこだわっています。

会場づくりに使用した資材は、通常、展示会が終われば破棄してしまって使い捨てになることも多いのですが、今回は公園や自然といったテーマで合同展示会を開催することや、企業としての環境への配慮という点でも資材を使い捨てにするような会場づくりはやりたくなかったんです。そこで会場で使う資材は極力再利用できるようにして、終了後に使用した足場材は回収して再利用できるようにしています。

また、WOODPROさまのすごいところは、足場材を何度も再利用して繰り返すことで使用できない状態になったら、最後は燃やして電気などのエネルギーに変換しているところなんです。最後まで見届けるということを徹底してやっている企業なので、そこに我々も共感して無駄にしない会場づくりを行いました。

会場内の入口にもWOODPROの再利用できる足場材を使用

− 蛭田氏コメント:また、什器など含めた全体の会場構成は、内装デザインだけでなくアップサイクルプロジェクトの企画など、ゼロベースでさまざまなデザインを行い、自由度の高い空間づくりを行うmagnect. Design studio (マグネクト デザイン スタジオ) さまにお願いしました。

それ以外にも、空間装飾に若手クリエイターで植物を用いたアートピースの製作をするTOUCHU (トウチュウ) さまや、植木屋である内田植木さまに協力してもらい、装飾という部分でもアート性の高いクリエイターやその分野でのプロに協力を仰ぎ、まさに渋谷ヒカリエのなかにPARK=公園をもってきたといっても良いくらいの空間装飾を用意しました。

TOUCHUが手掛けた会場中心の天井から吊るされたグリーン
グリーンで装飾されたDJブース

コトの可能性を提案する新たな取り組

見どころを教えてください

− 蛭田氏コメント:今回の見どころとしては、初出展となるファッションやアートとも異なる分野にフォーカスしたブースを三つ用意したことです。一つめは今話題のクリエイターズソフビというカルチャーで、特に人気がある4ブランドを集めた「rooms TOYs (ルームス トイズ)」というブースになります。

そのうちの「HUMAN ROBOT (ヒューマン ロボット)」というブランドは、「NEONSIGN (ネオンサイン)」というファッションブランドとコラボレーションしてソフビを発売していたりと、徐々におもちゃとファッションというカテゴリーがリンクしてきていると感じているんです。

「HUMAN ROBOT」と「NEONSIGN」のコラボレーションによるソフビ

− 蛭田氏コメント:二つめは、中国でバズっているTikTokドラマを作っているクリエイター集団「ごっこ倶楽部」です。彼らは今春に立ち上げた株式会社GOKKO (ゴッコ) としてプロモーションだけで終わらず、広告主である顧客に直接アプローチしていく内容の動画制作を行なっており、現在は企業からのプロモーションやコラボレーションの依頼も増えています。

ここまでユーザーが増えているTikTokが、まだまだファッション分野と繋げられていないことがごっこ倶楽部も課題と言っているため、企業ブランディングとしてのTikTok活用だけでなく、各ブランドの顧客に響く動画制作からマーケティングを行なうなど、可能性を見出すためにもブース出展してもらいました。

この二つのブースは、異業種間の掛け合わせの可能性がまだまだあるということを、出展者や来場者に客観的に見出していただきたくてブースを設けています。我々の強みとしても、企業とタッグを組んだ企画をたくさんやってきたこともあり、出展者や来場者にもモノ以外のクリエイションを企画として売る可能性もあると提案したかったんです。

「ごっこ倶楽部」のユニークなブース

roomsは、ただモノを仕入れるだけじゃないということですね

− 蛭田氏コメント:コラボレーションなどの化学反応を起こして、新たなコトが生まれる可能性に気づいてもらえたら嬉しいですね。

三つめの見どころは、アートブックフェアなどに出ている「1.3h (イッテンサンジカン)」という出版レーベルです。彼らにはポップアップ編集部という形で、会期中にエディターたちが会場をゲリラ的に取材しながら撮影し、リアルタイムで非公式の裏ガイドブックを作ってもらうという面白い企画を用意してもらいました。そこで完成したものは冊子のZINE (ジン) として配布して、モノ以外のカルチャーとしての提案を盛り込んでいます。

会場内に作られた「1.3h」の出版ブース
その場で印刷して配布されていた冊子

人と人を繋ぐ公園としての役割

来場者にはどのように楽しんでほしいですか?

− 蛭田氏コメント:今回のrooms PARKは公園というテーマをもとに、会議室のような堅苦しい場所ではできない話ができたり、気持ちが緩く繋がる場所になれるようなこだわりをたくさん込めているので、そこを一番に感じてほしいと思っていました。

バイヤーも出展者もお客さまもフラットな気持ちでいられて、お買い物ができたりモノづくりについて意見交換ができたり、公園で友達と話しているような感覚で、堅苦しくなくフランクに会話ができるようなイメージです。

例えば、ご飯が食べられたりお酒も飲めたりお土産を買ってかえることができたりと、本物の公園や外でできるようなコンテンツも用意したかったので、素材や味にこだわる飲食店を多くお呼びました。今はファッションとフードもリンクしてきて、飲食店が洋服を作ったりする時代になってきているんです。

会場内「GATE」で自由にのびのびと過ごす来場者

− 蛭田氏コメント:先ほどのクリエイターソフビもそうですが、カルチャーの発信がアパレルだけじゃなくなってきているので、飲食店とも出展者たちが繋がってコラボレーションした洋服が生まれたりしてもいいと思います。バイヤーたちも繋がっていくことなど、色んな可能性に触れられる要素を「PARK」という言葉に盛り込みました。

また、株式会社ライノが運営するWEBマガジンフイナムのランニングクラブにも参加してもらい、「フイナムランニングマーケット」としてさまざまなブランドをキュレーションしてもらったり、おもしろいコンテンツを用意してもらったりもしています。マーケット内ではシューズブランドが試し履きを行なったり、会場をスタート地点として実際に周辺を走ってくるというグループラン企画なども行ないました。

「フイナムランニングマーケット」のオリジナルTシャツ

まさに公園でやるようなことを会場に用意したんですね

− 蛭田氏コメント:PARKというテーマを大切にしたのは勿論ですが、緩い空気感を持つフイナムさん自体が今回のテーマと非常に親和性があると思ったのでオファーしました。基本的に出展者はオーディションで決めていますが、彼らに出てもらうことでランニングなどのイベント性を通し、公園という要素と緩さやフランクさを今回のrooms PARKに取り入れたかったんです。

また、女性向けの出展者も多いなかでメンズファンも多いフイナムさんに出展していただくことで、ご夫婦でのご来場でも一緒に楽しんで飽きずに見てもらえると思い、このようなコンテンツやマーケットも用意しました。

rooms PARKが考える未来

アパレル業界として取り組むべき課題などはどうお考えですか?

− 蛭田氏コメント:今までのアパレル業界はどこかの一つの立ち位置だけ儲かるというような仕組みになっていることが多く、個人的にそれは良くないと思っていました。そこでこれからはお客さま、ブランド、生産工場など全てが売り上げをシェアできるような仕組みが必要だと考えています。

百貨店を例に挙げると、お客さまがお買い物するまでには、百貨店とそこで取り扱われるブランド、それを作る生産工場があって、売上のシェア率ってどこかがほとんどの割合を取っていることも多く、誰かが締め付けられる状況にあったと思います。

− 蛭田氏コメント:一方が儲けを取りすぎることが遠因で一方では運転資金がショートするほどに売上が伸び悩み、経営が持続できずに会社がなくなってしまったりということが実際に起こっているんです。そこで今後はそのようなことが起こらないよう、それぞれが持続可能なかたちで利益を取り運営していくことを考えていくべきだと思っています。

そのためには、まずは全員がマインドを変えていく必要があって、それが当たり前な世の中にしていくべきです。SDGsやエシカルといった考え方って今は普通になってきていますし、私たちも今更言いたくないですしね。それぞれのベーシックを改めて見直し、物が売れてそれぞれに発生する利益が分配されるような社会になることを願っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

変化する時代に合わせて進化し続けること

今回、rooms PARKという合同展示会をディレクターとして新しく生まれ変わらせた蛭田氏。同氏に取材するなかで何度も出てきた「繋がり」という言葉は、コロナショックを経験した我々にも強く響いた。この何年かで多くの合同展示会がなくなり、形を変えてきたなかで今までのやり方に疑問を抱き、いわゆる「正解」を手探りしている主催者や出展者もいまだに少なくないだろう。

そんななか、新たなクリエイターの発掘や発信を深掘りしていくという「自分たちができること」や、変化する時代に合わせてモノだけでなくコトの提案を繋げていくなど、「時代に合わせた提案力」がrooms PARKではしっかりと見てとれ、そこに今後の合同展示会としての在り方のヒントがあるのではないかと感じた。

変えないところと変えるべきところ、まずは自分たちが大切にすることを振り返り未来を考えることが重要ではなかろうか。「クリエイション」という今までやってきた軸はずらさずに、出展者、バイヤー、お客さま目線で時代に合わせた提案を行ったrooms PARKは、次回開催時にも自分たち以外の視点で物事を俯瞰し考え、よりクリエイティブに変化しているだろう。我々取材班も次なる蛭田氏の仕掛けを楽しみに動向を見守っていきたいと思う。

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