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開かずのショップ「THE STORE」の戦略

東京・表参道ヒルズの裏通りに1年間未開店のショップが存在していた。その名は「THE STORE OMOTESANDO (ザ ストア オモテサンドウ)」。バスボムをはじめ、バスパウダー、フレグランスミストなど“香り”にまつわるアイテムを展開するブランド「THE (ザ)」のフラッグシップストアだ。ショップ竣工から1年が経過し、開かずの扉が音を立てたのは2022年6月のこと。オープンしてからもなお、営業時間は水曜日から金曜日までの週3日と限られている。
「ショップが開いていないことすらPRになるのが表参道なんです」――そう語るのは株式会社SCOPEDOG236 (スコープドッグ236) の代表取締役兼デザイナーを務める鈴木健司 (スズキ タケシ) 氏。フレンチレストランで勤務したのち、スノーボーダーとしてスイスに渡り活躍、同時に自身で事業を始めアパレル業界に身をおいていたという。
そんなユニークなバッググラウンドをもつ同氏が今回始動した新たなビジネスは、ボディケアやフレグランスといったライフスタイル業界。鈴木氏の目にはライフスタイル業界がどのように映っているのか、始動して間もないブランドTHEのビジネス戦略を伺った。

株式会社SCOPEDOG236 (スコープドッグ236) https://scopedog236.com/ 2001年創業。アパレル、アパレル雑貨などの企画運営販売、OEM生産を主な事業とする。2020年、アロマバスボム&バスパウダーを主力商品としたブランド「THE (ザ)」をローンチ。同社代表やスタッフが実際に見てきたモノ、感じてきたコトからインスピレーションを受けモノづくりを行う。

THE STORE OMOTESANDO(ザ ストア オモテサンドウ) https://the-store.ltd/ https://www.instagram.com/the_store_omotesando/ 2022年6月21日に東京都渋谷区神宮前にオープン。株式会社SCOPEDOG236が展開するブランド「Re:BATH」、「THE」、「炭酸源®️」などの商品を取り扱うフラッグシップストア。ここでしか手に入らない商品や、香りの体験が楽しめる。営業は水曜日から金曜日の12:00〜18:00 (不定休)。
“モテる”商品開発

商品について教えてください
− 鈴木コメント:「肌に良くて、思い出に残るバスタイム」を提供するアイテムを作っています。ブランドは3つあって、アロマバスボム&バスパウダーが看板商品の「THE」、ボディリカバリーを促す薬用炭酸タブレットの「炭酸源®️」、そして「Re:BATH」です。
「ボディケアアイテムを夏に売る」でも紹介のあったバスボムやバスパウダーは日本製にこだわっていて、全て日本で手作業を交えて作っています。これらの商品は基本的に卸売りをしていて、セレクトショップ、量販店、ドラッグストアと幅広く取り扱ってもらっていますね。そのため直営店は、ここ表参道の1店舗のみなんです。ここでは、他で販売していない限定のバスパウダーやバスソルトも扱っています。

商品開発においてこだわっていることは?
− 鈴木氏コメント:どのブランドや商品も「オシャレであること」が絶対条件です。使うことで、その人が“モテる”かどうかを気にしてモノづくりをしています。逆にお客さまに迷惑のかかるモノ、例えば、すぐ壊れたり持っていてダサかったり、後ろ指を刺されて嫌な思いをするような商品は絶対に作りません。「イケてるね」って言われるモノをつくることを心がけていますね。
人によって“モテる”の定義は違うと思うんですが、今でいえばInstagramでめちゃくちゃ「いいね」が付くとか、性別問わず人気者になるとか、僕の場合は女の子に好かれたいとか(笑) 他人の目を気にしないんだったら、洋服も匂いも髪型も何も気にする必要はないですが、皆少なからず気にしながら生きています。それって誰しもちょっとはそういう気持ちがあるということじゃないんですかね。だから「人をオシャレに見せるための商品」を作りたいんです。

そこで今回は香りを作ったということですね
− 鈴木氏コメント:はい、匂いもダサい匂いは嫌いですね。これまでの自分にとって、衣食住にプラスして“香り”がとても大きく生活に影響していたんです。スイスで暮らしていた時の香りや、休暇中にさまざまなホテルで体感した香り、海外で生活するなかで思い出に残る日本の匂いとか、実際に出会ったさまざまな香りを楽しんで生活していました。香りって音楽と一緒で、嗅ぐだけでその時のことがフラッシュバックしますよね? そういった“みんなの記憶や思い出に残る香り”を作りたいと思ったんです。
このショップでは、現在27種類の香りからなるバスパウダーを扱っています。それらは基本的に、僕が実際にインスピレーションを受けたものから生まれた香りなんです。
例えば、No.18は「ザ デイ」という言葉 (スキーやスノーボードで快晴かつパウダースノーで最高な日を表現するときに使用する用語) で表現しているように、僕がスノーボーダーとして体験してきた瞬間を切り取って、香りで再現しています。
卸先での人気はNo1.の「スイートルーム」ですね。文字どおりスイートルームを想起させるラグジュアリーな香りを作りました。実際に住んでいた国や街、泊まったホテルを思い出し、「こんな香りをお風呂やリビング、外出先でも嗅ぎたいな」とイメージして作っていきます。なので、一つとして同じような香りがないところが特徴ですね。香りの商材は世の中にたくさんありますが、なかなか似たような香りには出会えないと思います。

− 鈴木氏コメント:ただ、僕はもともとアパレル業界出身で、こういった化粧品に関しては知識がありません。化粧品業界は、登録関係やレギュレーションが厳しく、そのルールのなかで最大限の力を発揮することは難しく感じましたね。そんななか最高の工場さんと繋がることができて、僕らが再現したい香りを忠実に作ってもらえました。納得のいく良い商品ができたのは、工場の方々のお陰ですね。お互いのフィーリングを合わせるのに一番時間をかけました。
表参道というインフルエンサー

表参道にお店を出した理由は?
− 鈴木氏コメント:表参道という街が、僕らのインフルエンサーだと思ったんです。ここに店を構えるだけでPRとしての効果が大きいんですよ。
以前アパレルの事業で、有名なモデルや雑誌を起用して広告を出したこともありました。その時に“生きたPR”の難しさを感じたんですよね。どれだけ有名なモデルであっても、日本中、世界中の人が知っているというのは難しく、雑誌も時間が経てば古くなってしまいます。であれば、誰もが知っている場所を媒体として見立てて、あえて店舗を出店した方がPRとして効果的だと考えました。
世界規模で見たとき、NY、ロンドン、パリが1位だとすると、2位に東京がきますよね。さらに東京のどのエリアかを考えた時に、銀座はブランドに合わないし、渋谷は若すぎる。カルチャーを考慮して、表参道だなと思いました。

− 鈴木氏コメント:東京・表参道という場所は、こちらから特に呼びかけをしなくても日本全国・世界各国から毎日数えきれないほどの人が訪れる街です。その表参道に店を構えるということだけで、街の、そしてそこに訪れる感度の高い人々のニュースになるし、こうしてメディアの方々も取材に来てくれます。
そしてありがたいことに、そういう街として認知が定着している表参道は、この先も一生“表参道”なんです。それに気づいて、この場所でスタートしようと決めました。
実は店ができてから1年間、家賃だけ払って営業はしていなかったんです。コロナ禍で誰も来ないだろうと思っていました。それでも通りかかる人にアピールができるのが、この場所の良さですね。オープン後の現在も、展示会や営業活動への専念のため、営業しているのは多くて週3日、時間も12時〜18時と全然開けてないんですよ。もうそれがPRになっているというか、逆に「入れて買えた人はラッキー」とお伝えできるショップになっています。

入店だけでかなりレアな体験になるわけですね
− 鈴木氏コメント:そうですね。それだけ限られた時間内に来てくださったからには、それ相応のプレミアムな体験をしてほしいと思っています。そのための限定商品、装花、そして接客ですね。店頭では毎週花を活けてもらっていて、Instagramアカウントでは、その花の紹介とともに営業時間のアナウンスをしています。
実際に来店いただければ、僕や社員が一人ひとり丁寧に接客します。全商品、香りと湯触りを楽しんでいただけるんですよ。ここに来てくださったお客さまには、「こんな良いモノを知ってるよ」というプライドと、プレミアムな体験、そしてプライオリティを感じてもらえたら嬉しいです。
誰よりも自己投資したモノづくりを

ライフスタイル業界について思うことを教えてください
− 鈴木氏コメント:“ライフスタイル”業界というくらいなので、自分の生活へ投資している人間がモノづくりをするべき業界だなと思いますね。
香りであれば、自分の好きな匂いを見つけたり、香水をつけたり、一流のエリアやホテルで過ごしたり、良い体験をして、物事の奥深さを追究する必要があります。なぜなら、我々はそれらをただ消化するだけでなく、商品として昇華させていく必要があるからです。「流行りの香りだから」とか「どこにでも必ずある王道の香りだから作る」とかではなく、豊かな暮らしを送ろうとするお客さまの感性と向き合い、実際に体験をして共感することが大切ではないでしょうか。自分が経験していないことは簡単にビジネスにすべきじゃないですね。
そのため当社の経営層は、毎日違う服を着て、違う道を通って通勤するのがルールなんです。出勤場所も自分で決めて構いません。社員には、毎日違うものを見て、新しいものに触れて、自分の暮らしのなかから何かしらを感じとって昇華させてほしいと思っています。

消費者に期待することはありますか?
− 鈴木氏コメント:とにかくショップへ体験しに来てほしいですね。イメージするオシャレな香りにとことん向き合って開発してきたので、うちで作っている27種類はもちろん、外にも同じような香りはないです。絶対に好きな香りがあるから、自分の入浴時間をもっと大切にしたい方に来てほしいと思います。意外と人生のなかでお風呂に入っている時間って少ないんですよね。大した回数は入れません。四季を感じるように、さまざまな香りを感じてもらえたら嬉しいですね。
現状、取引先はたくさんあるのですが、商品自体の知名度はまだまだで、表参道の最下位としてスタートしたばかりです。最下位ということは、あとは上り詰めるだけ。セレクトショップに携わる業界関係者や、表参道に通うオシャレな方々にここに来て商品を知ってもらいたいです。近い将来、駅まで行列ができたら最高ですね!

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。
新たな風が市場を盛り上げる

取材のなかで「(業界の) 5番目になりたい」と語った鈴木氏。ドラッグストアからセレクトショップ、百貨店にまで、取り扱い店舗をどんどん拡大しつつも、その店の主力商品じゃなくてよいというのだ。
「主力じゃなくても市場の把握がしっかりできて、ずっと生き残れるポジションが5番目なんです」と同氏。ちょうど良い具合に業界内の争いを避け、周囲を気にしない自由さを手に入れ、そして独自の道を突き進める魅力がそこにあるようだ。
消費者や経営者、世論、ライフスタイル業界への注目が高まれば高まるほど、さまざまな人や業界が参入し、これまでにない戦略が展開されていく。そして、異なる業界同士が交わることによって、市場に良い刺激が加わり、業界全体が活況になるものだ。今回取材した株式会社SCOPEDOG236は、既存の考えにとらわれない発想と展開で、間違いなくボディケア業界へポジティブな刺激をもたらしてくれるだろう。