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「3つの循環システム」の確立

今や常識となったSDGsの取り組み。各企業が持続可能な社会の実現に向けてさまざまな工夫を凝らし、環境経営などSDGsにまつわるビジネスの導入を進めているようだ。

ライフスタイル業界でも、例えば商品製造時の水使用量の削減や動物性素材の不使用、開発途上国とのフェアトレード、生分解性プラスチック使用や素材のリサイクルなど、その取り組みの内容は多岐に渡る。

SDGsの17の開発目標のなかで最も関与が深い項目は「12. つくる責任つかう責任」であるが、インテリア業界にフォーカスすると、フェアトレードやトレーサビリティへの取り組みなどはあるものの、環境問題に取り組んでいる企業はまだ少数だ。

その原因の一つに、インテリア業界では再販や再資源化など、リサイクルを気軽にできない状況下にあることが考えられる。

例えば、耐久消費財と呼ばれるインテリア製品は壊れないことを前提に、強度や安全性、利便性との兼ね合いで、木、鉄、ガラス、プラスチックなど様々な素材を用いるが、一つのプロダクトに各素材が混在しているため、家電などと比べ、これらを全て素材ごとに分別して再資源化するのは容易ではなさそうだ。

こうした背景から推測するに、インテリア業界は他産業に比べ、環境負荷削減に向けた資源のリサイクルから、まだ少し遠い場所にいるのではないだろうか。

また、「つくる責任、つかう責任」の間に存在する流通、つまり売り手側として、環境負荷削減に真摯に向き合っている企業がまだ少ないのも事実である。

この関心の薄さは、20年前のインテリア業界であればなおさらだ。しかし、そんな環境問題対策の意識が浸透していなかった時代であっても、いち早く環境を意識したリサイクルシステムを作り上げてきた「環境経営の先駆者」ともいえるライフスタイルカンパニーがある。

それが今回取材をした株式会社ACTUS (アクタス) だ。

ACTUSが育む“豊かな暮らし”の提案」では、サステナブルな未来への取り組みとして、約20年前から環境負荷の削減を目指し、消費者に「良いモノを長く使う」ことの大切さを伝えるために始めた独自の循環システムを紹介した。

そして、ACTUSは愛着を持って末永く使える製品 (インテリア) を提供し続けることを使命としている。つまり、サステナブルな消費社会を目指す上での一番上位にある、「棄てずに使い続けられる製品を提供すること」を大切にしているのだ。

もちろんモノを長く使い続けていると、いつかは壊れてしまうこともある。どうしても手放さざるを得ない状況のために、同社がインテリア業界のイノベーターとして、販売後のお客さまとのリレーションや、環境問題対策への想いと取り組みを消費者に届けようと確立させたのが、「SELF USE (セルフユース)」、「TRADE IN (トレードイン)」、「ECO LOOP (エコ・ループ)」からなる三つの循環システムだ。

そうした取り組みを通して、リサイクル素材など環境に配慮した素材を使うことだけがエコではなく、本当に良いものにメンテナンスを施し、ときには修理をしながらも使い続けることが、本来のサステナブルでありエコだということを伝えているのではないだろうか。

今回の取材では、ユーザーサポート部ユーザーサポートチームの青松崇史 (アオマツ タカシ) 氏と、製造・品質企画部 製造企画チームの杉田昇 (スギタ ノボル) 氏に話を伺い、この循環システムをスタートさせた動機、内容、同社の想いを深掘りし、インテリア業界の企業が取り組める環境問題対策のヒントを見つけていく。

株式会社ACTUS (アクタス)
https://www.actus-interior.com/
1969年に前身となる「青山さるん」という名前で実店舗をオープン。今では全国に直営店32店舗、FCとしてのパートナーショップ37店舗、飲食店4店舗を構えるライフスタイルカンパニー (2022年03月時点)。事業内容はヨーロッパを中心とした家具、テキスタイル、インテリア小物全般の輸入販売や、オリジナルアイテムの販売。また、レストランやカフェなどの飲食業、大型施設のインテリアデザインや設計・施工、リノベーションの設計・施工等多岐にわたる。
また、2006年に不要家具のリサイクルをスタート、その3年後に家具を再資源化するシステム「エコ・ループ」を確立。2016年には全国の物流拠点でのゼロエミッションを達成、並行して家具の修理対応の拡充を図るユーザーサポート体制を構築。そして「環境経営」を経営指針に据えた2020年にユーズドアイテムのリセールをスタート、「3つの循環システム」を完成させた。2021年にはこれらの取り組みでグッドデザイン賞を受賞。

エコで繋がるACTUSと消費者

お二人の業務内容を教えてください

− 青松氏コメント:我々ユーザーサポートチームは、お客さまが購入された自社製品の家具におけるトラブルシューティングをしています。メインとしては家具の修理対応ですが、イメージでいうと「総合病院の受付」のような役割です。

例えば、ソファの張り替えを希望されているお客さまに対しては、最初にどういった理由で張り替えたいのかを伺います。もし飲み物をこぼしてしまったという理由である場合、張り替えではなく、クリーニングを勧めることもあるんです。

お客さまからの家具のお悩みやご希望をしっかりと伺い、どこでどのような対応にするべきかを判断して、お客さまにとって最適な方法に割り振ることが主な業務内容ですね。

ユーザーサポート部ユーザーサポートチーム 青松崇史 (アオマツ タカシ) 氏

− 杉田氏コメント:私は製造企画チーム内で主に国産家具の品質管理と強度試験 (テクニカル関連)、リサイクルの管理運営をしています。リサイクル関連の業務内容は、家具の再資源化の仕組み作りやリサイクル素材を新しい商材に活かす研究などです。

私の実家は木工所だったこともあり、大学卒業後大手資材メーカーに就職し、そこで資材についての製法から取り扱いまで詳しい知識を習得してきました。

その後、木工職人を経て18年前に入社したのですが、当時の社長から「これからはインテリア業界も環境に配慮しなくてはならない」という話を伺い、インテリア業界での環境への取り組みや事例を調べることになったんです。でもその頃はまだ、この業界に環境問題対策の事例はほとんどなかったと思います。

ですから、ビジネスモデルを一から創りあげる必要がありました。最初こそ全て手探りでしたが、次第に協力してくれる人たちが増え、資源をリサイクルし、新しい家具や他製品 (素材) に生まれ変わらせる現在の仕組みが確立したんです。

製造・品質企画部 製造企画チーム 杉田昇 (スギタ ノボル) 氏

お客さまとの間で大切にしていることはなんですか?

− 青松氏コメント:お客さまの家具におけるお悩みを解決して、喜んでもらえるように真摯に向き合うことですね。お悩みの内容をこちらがしっかりヒアリングし、その原因を追究できる知識を持ちながら、適切な解決方法を明確にお伝えすることが一番大切だと思っています。

さらに、お問い合わせが来る前の段階、すなわち販売時点で、私たちがもっとしっかりお客さまご自身でできるメンテナンス方法を伝えていくことも大事です。というのも、今まで間違ったお手入れをしてしまうお客さまが多くいらっしゃいました。

たとえば、革製のソファの汚れをアルコールシートで拭いてしまったり、ソファの布製クッションは何年も干さずに放置されているといった事例が見受けられていたんです。

そういった問題を減らすため、最近は家具のメンテナンス方法が確認できるユーザー向けの動画制作に力を入れています。こうしたメンテナンス方法を発信することで、お客さまにはその家具の正しいお手入れ方法を理解してもらえて、長く大切に使っていただけますよね。

家具のメンテナンスは、結果的に地球全体の資源の無駄使いをなくすというエコに貢献できるんです。そういうことをもっと広くみなさんに伝えていきたいと思っています。

メンテナンス方法の解説動画

杉田氏はいかがですか?

− 杉田氏コメント:お客さまに対しての作り手・売り手である私たちは、家具における責任感を持たなくてはいけません。責任を持つという意味は、素材を理解し、製造するだけでなく、アフターケア、さらに使用後の廃棄から再生までをきちんと見届けるということです。

そのために、当社には「SELF USE」、「TRADE IN」、「ECO LOOP」という3つのエコ循環システムがあります。このシステムを通して当社が創業時から訴え続けている、「豊かな暮らしとは消費を繰り返すことではなく、作り手の顔が見える製品とできる限り長い時間を過ごすこと」の意味を、お客さまにもっと伝えていきたいですね。

環境への負荷削減を目指すACTUS独自のシステム

3つの循環システムについて教えてください

− 青松氏コメント:当社では創業からずっと使い続けられる家具を届けたいという想いがあり、2006年から家具のリサイクル活動に取り組んできました。

それ以前は、お客さまから引き取った不要な家具はそのままゴミとして処理をしていたんですが、その頃、世間で不法投棄問題が勃発し、インテリア業界全体のイメージも悪くなりつつあったんです。そこで問題解決のためにできることはないかと考え、導き出したのが「3つの循環システム」でした。

一つは「SELF USE」。これはお客さまに使用していただいている製品をより長くお使いいただけるようにする為のサービスです。次に「TRADE IN」。このサービスは引っ越しや結婚などのライフスタイルの変化から、やもを得ずご使用されている製品を手放す際、当社が下取りし、修理やメンテナンスをして新たなお客さまに使っていただくものですね。

そして最後に「ECO LOOP」です。お客さまの半分以上が買い換えという理由で家具を購入されますが、当社では現在お使いの家具をご自身では処分できない場合、商品配送時に不要品として他社製品 ( ※ 引き取った不要家具の約90%は他社製品) も含めて引き取ります。このサービスではそれらの不用家具を分解してから素材ごとに分別し、再資源化する仕組みなんです。

− 杉田氏コメント:家具を分解して素材ごとに分別するのはとても大変な作業ですが、当社では回収した家具一つひとつを全て手作業で行っています。それらの分別した素材を中間処理場に送り、そこでリサイクルしやすいように細分化されるんです。

そして素材ごとのリサイクル工場に送られた後、それらは再資源化されてまた新しい素材になります。たとえば、分別された木材は粉砕と圧縮によるパーティクルボードに、鉄は再製鉄に、プラスチックやウレタンはRPF (再生固形燃料) などに再資源化されるんですよ。

特に再資源化された木材は新たな家具として生まれ変わり、当社がそれを販売しています。これが「ECO LOOP」の一連の流れですね。

固形燃料のRPF (中央) と木材チップを圧縮してできたパーティクルボード (右)

この流れを確立するにはどんな苦労があり、またどう乗り越えられたのでしょうか?

− 杉田氏コメント:そもそもこの仕組みについて社内の理解を得ることが最初の壁でした。当時は今のように環境に対する意識が高くなく、リサイクルの意義を理解してもらえなかったんです。

ただこの点については、素材ごとに分別して再資源化へ回す方が廃棄するよりもコストが削減できるということを説明し、早い段階でクリアすることができました。

次に協業企業を探すことに苦労しましたね。当時は全くコネクションがありませんでしたし、どのようにリサイクルしていいのか分からず全てが手探りだったんです。

最初はメーカーに問い合わせても全て断られ続けました。なぜなら家具に使われる材には塗料などが塗布されており、再生パーティクルボードの材料としては不向きだったからです。

しかし、このリサイクルという取り組みが不法投棄などの環境問題の解決に繋がることを訴えていくなかで、ある時期から我々の構想しているシステムに快く賛同し、品質基準をクリアする方法を見つけてくれるメーカーに出会うことができたんです。

− 杉田氏コメント:また他には法律という難題もありました。家電製品には家電リサイクル法があるのですが、家具の廃棄物に対する法整備はまだ整っていないんです。

自治体によってルールは様々あるのですが、たとえば素材の分別まで行なっていても、リサイクル前の素材はただの「ゴミ」という扱いになります。また、都道府県をまたいで中間処理場へ移すことも認めてもらえないというケースもあり、困難を極めましたね。

そこで私は役所に何度も足を運び、私たちが構想していた家具のリサイクルシステムについてプレゼンテーションを行いました。最後には役所の方々にも私の真剣な想いが伝わり、汲み取っていただけることになったのをとても感謝しています。

その後、幾度と話し合いを重ねていくうちに、次第にアドバイスや協力をしていただけるまでとなりました。ひとつの成功事例が生まれると、それをきっかけに協力の輪が全国に大きく広がっていったんです。

現在も法律として整備が整うよう、行政と少しずつ真剣な話し合いを重ねています。

ACTUSが勧めるリサイクル家具

循環システムから生まれた商品を教えてください

− 杉田氏コメント:代表商品はリサイクルしたパーティクルボードに天然木の突板が貼られている、「TOWARD (トワード)」シリーズのリビングボードです。フレームの細やかな仕上げとシンプルなフォルムが特徴ですね。

実は、このようなエコ・ループから生まれた商品は「リサイクル素材」であることを特に表記していません。リサイクル素材を使用している商品はなにも特別なものではなく、ユーザーの方たちにとって日常的なモノであってほしいと願うからです。

− 青松氏コメント:もちろん素材や環境に興味があるお客さまからお問い合わせがあった場合、私たちの循環システムや、製品に対するの安心・安全の取り組み、リサイクル素材を使った商品についてきちんとご案内しています。ですから、お客さまにはぜひ店頭でスタッフに気軽に声をかけていただきたいですね。

リサイクルパーティクルボードを使用した「TOWARD」のリビングボード

家具の「これから」を作る循環システム

3つの循環システムのこれからの課題はありますか?

− 青松氏コメント:「TRADE IN」において、今新たに取り組もうとしている課題があります。それは査定額を明確に設定し、お客さまに事前にお伝えすることです。

今はご購入いただいた家具を万が一お客さまが何かの事情で手放さなくてはいけなくなったとき、私たちが下取りして修理をし、新たなお客さまを見つけるのですが、今後はその流れに加え、ご購入時点であらかじめ下取り価値をお客様にご提示できるようにしたいと企画しています。

そうすることで、お客さまは自分の買った家具の価値を下げないよう、日頃から大切に扱ってくれるのではないかと思うんですよね。

査定の仕組みのガイドは整いつつあるのですが、家具は車のように走行距離や車検のように常に整備されているモノとは違うので、実際、査定額の設定はなかなか難しいです。しかし、このシステムはエコというメリットと、さらにお客さまが持つ家具の扱い方に対する意識の変革が期待できるので、「住育」の一環として実現したいと思っています。

最後に、インテリア業界において消費者に期待することはなんでしょうか?

− 青松氏コメント:インテリア業界でのリサイクルは、まだまだ素材や法律などに課題があり、進めづらいことが多くあります。しかし地球環境問題が悪化していくなか、少しでもその進行を遅くする動きが最優先だと思い、このような3つの循環システムを作りました。

このシステムを通して地球環境の問題をクリアしながら、消費者の方々に家具選びの段階でアフターケアが充実していて長く使えるモノを選んでいただき、日頃のメンテナンスをしながら家具と共に豊かな暮らしを育んでもらえたら嬉しいですね。

− 杉田氏コメント:この先、循環システムが消費者の商品を選ぶ基準となるかどうかは分かりませんが、それでも私たちは豊かな暮らしを提案するライフスタイルのイノベーターとして、環境問題を生み出す一因を作ってはいけません。

これからの地球環境を守るため、この「3つの循環システム」を更に拡充、拡大して先導し、業界全体でリサイクルを盛り上げていけるように、メーカー、販社問わず共感いただく企業を増やし、行政に働きかけはじめています。

この課題にはもちろん消費者の力も必要です。形あるものはいつか傷ついて汚れていきますが、本当に良いモノは姿形が変わっても、素材の深みを残したまま再生します。消費者の皆さまにはそういった家具を選んでもらいたいですね。

行政、メーカー、小売という川上から川下まで、さらには消費者の皆さまと一緒に環境悪化を阻止するという共通の課題に対して、一丸となって取り組めたらいいなと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

まったなしの環境問題対策

インテリア業界におけるリサイクル商品の拡大には、アパレルなどの他業界と比較しても時間を要しているようだ。その理由は、単に商品に混在する多素材の分別が困難というだけでなく、行政、メーカー、小売、消費者というさまざまな立場における各対策や意識の遅れが原因の一つとも思われる。

ACTUSはそのようなインテリア業界での環境対策の遅れや、立ちふさがるいくつもの大きな壁に立ち向かい、イノベーターとして一歩一歩前進しながら、今もなお行政に積極的に働きかけている。同じようにそれぞれの立場で業界に携わる方々にも、何かできることがあるのではないだろうか。

たとえばメーカーは、リサイクルを意識して解体しやすい形や素材の商品開発ができるかもしれない。行政に関して言えば、家電リサイクル法を制定したように、今後は家具においてもリサイクルの推進の見直しが必要になるにちがいない。そして消費者は商品を選ぶ基準に、良いモノを長く大切に使うという意識を持つことで、環境問題対策に貢献ができるだろう。

今後も、行政、メーカー、小売、消費者といった各々の立場から環境対策の促進に繋がるように、メディアとしてインテリア業界全体の意識変革を促す情報を発信していきたい。

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