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“幸せ”を届け続けるMOMO NATURAL

70年程前の株式会社脇木工の白黒写真

岡山県久米郡美咲町――そこは山と川に囲まれた自然豊かな町。今からちょうど70年前、この町に暮らす夫婦が小さな家具屋を始めた。

戦後間もなくのモノが不足している時代、夫婦は人々の生活がより豊かに、そして幸せになることを願い、婚礼家具を主とした箪笥の製作をスタート。工場の火災や川の氾濫、バブル崩壊など苦しい時代に直面しながらも、現在に至るまでモノづくりの手を止めることなく、家族代々にわたり“幸せの箱”を届け続けてきた。それが、今回取材した株式会社 脇木工の歴史である。

そのなかで25年前に同社が立ち上げたブランドが、「MOMO NATURAL (モモ ナチュラル)」だ。90年代のバブル崩壊で多くの家具メーカーが大手の下請け会社へ転向するなか、「規模は小さくても自分たちが誇りを持てる家具を作り、お客さまの元へ届けたい」という考えのもとに誕生し、今も変わらず岡山県・美咲町で一つひとつ丁寧に作られた家具が、全国のファンの元へと届けられている。

MOMO NATURAL (モモナチュラル) のインテリアを使用したダイニングシーンのイメージ

今年、ブランド立ち上げから25周年を迎えるMOMO NATURAL。同社・同ブランドが顧客へ抱く想いや大切にしていることなど、ジェネラルマネージャーの鰐川雅子 (ワニカワ マサコ) 氏に話を伺った。

ブランドスタート間もない頃から同社の家具とスタッフを長く愛してきた鰐川氏の言葉から、彼らの消費者を想う気持ちと、それらを体現するモノづくりのカタチ、作り手と売り手のぬくもりを感じてほしい。

株式会社脇木工のロゴ
株式会社 脇木工
岡山県に構える自社工場にて家具の製造を行う1953年創業の家具メーカー。創業時のコンセプトは「1000人の人に買ってもらえる家具よりも一人の人が本当に喜んで長く使ってもらえる家具づくり」。直営店舗として「MOMO NATURAL  (モモ ナチュラル)」、キッズラインの「PIENI KOTI (ピエニ コティ)」を展開、2018年にはインテリアファブリックブランド「tuulen tuurella  (トゥーレン トゥーリラ)」をスタート。また、内装事業を担うブランド「RIVER GATE (リバーゲート)」では、オーダーメイドキッチンやファニチャーを提案。住宅リノベーションや店舗デザインを手掛ける。

自信と誇りを持って販売できる家具

MOMO NATURAL (モモナチュラル) のインテリア家具を使用したダイニングシーンのイメージ

MOMO NATURALについて教えてください

− 鰐川氏コメント:「Simple&natural」をコンセプトに、木が本来持つ個性を最大限に活かした家具づくりを行うファニチャーブランドです。暮らしの主役は家具ではなく、そこに住まう人と考え、時代性やトレンドに影響されず、どんな人の暮らしにも馴染むことのできる家具の提案・展開を行っています。

原点である箱物家具に加え、ダイニングテーブルやチェア、ソファと商品を増やし、現在はカーテンやラグなどのインテリアファブリック、照明、日用雑貨など幅広く取り扱うようになりました。一人暮らしの方からご家族まで、住空間に必要なモノは一通り揃えてもらえるような商品展開です。

MOMO NATURAL (モモナチュラル) のロゴ
MOMO NATURAL (モモナチュラル)
https://momo-natural.co.jp/
1997年、東京・自由が丘に1号店をオープン。2022年5月現在では、関東5店舗、関西3店舗、愛知県1店舗の計9店舗に加えオンラインストアを展開している。2021年リニューアルオープンをした自由が丘本店には、イベントスペース「“FORBINDE (フォビンド)”」を併設。定期的に他企業とのコラボレーションで催しが行われる。
株式会社脇木工 MOMO NATURAL (モモナチュラル) のジェネラルマネージャーの鰐川雅子氏

鰐川氏から見たブランドの魅力は?

− 鰐川氏コメント:「嘘なく自信を持って販売できる商品を扱っているところ」ですね。自社工場と直営店をもち、製販一貫体制を築いているからこそ、売り手である私たちは誰が作っているか、どう作っているかを知ることができます。これは逆に、お客さまのニーズをキャッチして、形にしやすい環境でもあります。そうして作られた家具たちをスタッフがこよなく愛しているということも、私にとっての魅力の一つですね。

私自身、MOMO NATURALの家具が大好きで、大学生の時にアルバイトとして働きはじめ入社しましたが、商品の本質的な魅力に気づいたのは、入社後、岡山の本社工場を見学した時です。

それまでは商品に対して、“なんとなく”かわいいというような情緒的な印象を持っていたのですが、実際に制作現場で家具を作る工程の多さや、機械ではできない細かな手作業があることを知り、見た目だけではない商品の魅力を理解することができました。

工場の機械が発展してもなお、各工程、人の手で触り、状態を確認しながら家具作りをしているのにもびっくりしました。「何が良いのか」「何で良いのか」が本質からわかるようになったんです。職人が丁寧に手作業を交えて作っている背景を知り、「私たち売場のスタッフが作り手とお客さまの架け橋なんだ」と気が引き締まる思いを感じたのを今でも覚えています。

株式会社脇木工の職人が家具を作る様子
株式会社脇木工の職人が木材を並べる様子

− 鰐川氏コメント:それからは接客方法も変わりましたね。「かわいいですよね」とか「空間が素敵になります」と接客していたのが、家具の造りや木の家具と暮らすということ、家具と寄り添う暮らしについて積極的に伝えるようになりました。

同じようにどのスタッフも制作の現場を身近に感じながら商品の素材や製法、構造を学ぶうちに、スタッフ自身が作り手の想いを感じ取り、共感し、ブランドのファンになっていきますね。みんな自信と愛情をもってお客さまに提案をしてくれています。

MOMO NATURALが考えるシンプルとナチュラル

株式会社脇木工 MOMO NATURAL (モモナチュラル) のインテリア家具を使用したリビングシーンのイメージ

コンセプト「Simple&natural」について詳しく教えてください

− 鰐川氏コメント:MOMO NATURALの「シンプル」とは、使い方を決めず、どんな空間にも溶け込むようなデザインのことを指します。過度なデザインを控える一方で、見た目はシンプルでも、実は小さな工夫を各所に取り入れているんです。

例えば、一般的に一つの家具を構成する部材の厚みは、同じものが多いですが、当社では天板、胴、中板と全て厚みを変えて作っています。合板に使用する面材も少し厚くし、丸みを出して仕上げることで、重厚感と優しい雰囲気の両方を併せ持つことができるんですよ。

箱物家具はシンプルな構造なので、敢えてこうした違いを取り入れることで立体感が出て、メリハリのあるデザインに生まれ変わります。自社に工場があるからこそ、既存の工法では難しい細部の調整に挑戦できるのかもしれません。

株式会社脇木工 MOMO NATURAL (モモナチュラル) のインテリア家具を使用した部屋の一角

− 鰐川氏コメント:「ナチュラル」は、「自然素材である木の質感を味わってもらうこと」を意識しています。ブランド創設時から、本物の木を感じられる家具を作ろうと天然木を使いながらも、求めやすい価格帯での販売を続けてきました。

取り扱っている樹種は、パイン・アルダー・オークの3種類です。創設当初はパイン材の家具がメインでしたが、お客さまからのニーズに合わせ、アルダー・オークと樹種も徐々に増やしていきました。3種類としているのは、木の種類により取り扱い方法が異なるため、それぞれの木の特徴をよく知る必要があるからなんです。その理解があった上で、その木の特性にあった見せ方、活かし方を一つずつ考えて商品に落とし込んでいます。

MOMO NATURAL (モモナチュラル) で使用する木材の樹種(パイン、アメリカンアルダー、レッドオーク)
左からパイン、アメリカンアルダー、レッドオーク

− 鰐川氏コメント:パイン材の家具は、特徴的な節を除くことでより空間に馴染むように、アルダーやオーク材は「オイル仕上げ」を行うことで、より手触りや匂いなど木そのものを感じられるように。最近では、同じオーク材でも木取りの方法を変えて、すっきりとした印象になる柾目材を使用した商品も増えています。

長く使ってもらうための商品設計

MOMO NATURAL (モモナチュラル) の商品企画について話す鰐川雅子氏

商品企画について教えてください

− 鰐川氏コメント:キーワードを挙げるとすれば、「長く寄り添っていただける家具」です。単純にシンプルで飽きがこないという意匠的なことだけでなく、同じ家具を長く使うというのが使い手にとってどういうことなのかを考えて企画が進みます。

例えば、メンテナンス。毎日使うものなので、どんなに気を付けていてもどうしても汚れや傷はついてしまいますよね。だからこそ、お客さまの負担を極力減らして、比較的簡単にリペアができる家具を目指しています。

先ほどお伝えしたオイル仕上げは、木肌の質感を活かすだけでなく、お客さまご自身でメンテナンス可能な仕上げでもあるんです。お手持ちの家具にサンドペーパーでやすりをかけ、オイルを塗っていただければ完了します。ご自身でオイルを塗ると愛着も増すと思いますよ。

木の質感を活かして作られたMOMO NATURAL (モモナチュラル) のテーブル

− 鰐川氏コメント:そして、家具の構造にも工夫があるんです。部分的に交換が必要な消耗するパーツや、後々工場でのメンテナンスが予想されるパーツは、あらかじめ取り外せるように製作しています。

通常、家具のメンテナンスは故障箇所が一部だとしても、修理のために家具そのものを工場へ配送する場合がほとんどですよね。それも収納家具やテレビボードなど、大きな物であればあるほど、お客さまが負担する往復の送料は大きくなります。修理中、家具のない暮らしも不自由ですよね。そこで、MOMO NATURALでは部分的にパーツの取り外しを可能にし、お客さまの修理や交換に対する負担を最小減に抑えるようにしています。

例えば、張り子の椅子の座面はすべて取り外しが可能で、座面単体でも購入できるんです。ソファも中材のウレタン単品を購入して交換できるようにしてあります。

新商品の「VENT TOP-FLAP (ヴェント トップ フラップ)」は、北欧ヴィンテージ家具に見られる「巻き込み戸」が特徴なのですが、この戸も自社で開発し、取り外しができるよう工夫を施したデザインです。

MOMO NATURAL (モモナチュラル) の「VENT TOP-FLAP (ヴェントトップフラップ)」
「VENT TOP-FLAP」

他に商品の特徴はありますか?

− 鰐川氏コメント:使い勝手に合わせてセミカスタマイズできる商品が多いのも特徴です。ダイニングテーブルの多くは、樹種、サイズ、デザイン、塗装色などをお選びいただいて一つのテーブルが完成します。

また、ユニット収納家具は約45種類のパーツと柱から、テイストと用途に合わせてお好きなものをお選びいただいて、一つの家具を作ることができるんです。キッチン収納をただ家電をしまうだけの家具とするのではなく、使い勝手よく、お住まいの空間にぴったりのモノを提供することで、キッチンで過ごす時間がより楽しくなるように作っています。

これだけのパーツの家具を扱うことができるのは、生産面はもちろん、コストや在庫、人材面からみても自社工場のおかげですね。また、販売も自社スタッフが行うからこそ、お客さまのニーズに合わせて、細かいパーツ単位でご提案ができます。

また来たいと思えるブランドに

MOMO NATURAL (モモナチュラル) 店舗内のカーテン売場

消費者に求めることはありますか?

− 鰐川氏コメント:可能であれば、実際に店舗に足を運んでもらって、商品に触れてほしいですね。木はもちろんですが、カーテンの麻素材なども実物を見て触れることで、天然素材の良さを実感できると思います。天然素材は、色のばらつきや収縮があるなど、取り扱う難しさもありますが、違う表情を持つ良さや味わいが特徴です。

そのため、展示している家具と、手元に届いた家具の色味や木目は微妙に異なります。自分の元にやってきたモノは世界で一つしかない木目なので、その表情や個性を理解し、楽しんでいただけたら嬉しいですね。

実際に家にいる時のように寛いでほしいと語る鰐川雅子氏
実際に家にいる時のように寛いでほしいと語る鰐川氏

実店舗の役割とはなんでしょう?

− 鰐川氏コメント:「MOMO NATURALのモノやヒトのあたたかみを感じてもらって、『来てよかった』、『また来たい』と思ってもらう場所」です。これは、実際に実店舗のコンセプトとして掲げています。

2年前にECサイトをリリースした当時、「実店舗の売上が下がるかもしれない」というスタッフの不安が多少なりともあったんですよね。そこで、「なんで実店舗が必要なのか」「どういうコンセプトであるべきなのか」など、実店舗の必要性をスタッフ皆で考えたんです。

ECサイトのコンセプトは、「より多くの方々にブランドを知ってもらう場所」でした。そのため、実店舗では「体感していただけるからこそ、あたたかみを感じ、ファンになってもらうこと」としたんです。

スタッフのあたたかさ

お客様とのやりとりを重ねるMOMO NATURAL (モモナチュラル) の女性スタッフ

あたたかみを感じられる工夫はありますか?

− 鰐川氏コメント:木の家具や天然素材の商品がほとんどなので、商品自体のあたたかみはもちろんですが、店舗の空間を一緒につくる什器も自社工場で作っており、全体を通して統一感が出るように徹底しているのも、店内のあたたかい雰囲気に繋がっていると思います。

MOMO NATURAL (モモナチュラル) 店内の様子

商品だけでなく接客についても、お客さまとの距離が近くてアットホームな印象を持たれることが多いですね。特に接客マニュアルや決まりはないのですが、スタッフ一人ひとりが自然体でお客さまと接することを重視しています。商品や部屋づくりの話だけではなく、他愛のない日々のことなど、“お客さま”と“販売員”としての関係性を超えた会話をさせていただくことも多く、お客さまと笑い合ったりしているスタッフは多いですね。

あるスタッフは、「異動する報告を常連さんにして回っている」と言っていました。家具って頻繁に買うものではないのに、インテリアショップで常連さんができるのってすごいですよね。それも何人も(笑) スタッフの対応力だなと思います。そうしてお店に何度も足を運んでくださる方が、数年後に家具を買うタイミングでMOMO NATURALの家具を選んで買ってくださる、こういうエピソードに当社ならではのあたたかみを感じますね。

お客様のヒアリングを行うMOMO NATURAL (モモナチュラル) の男性スタッフ

社風も関係しているのでしょうか?

− 鰐川氏コメント:そうですね、“人が近い”社風はあると思います。当社では70名ほどいる店舗スタッフの誕生日に、全員メッセージを送ってお祝いする習慣があるんですよ。エリアを超えて、例えば関東の店舗から関西や愛知にいるスタッフに向けて、お誕生日のスタッフにメッセージを送るんです。

毎年そのメッセージを見て、「今年はスタッフと細かく関われたな」とか、「こんなところを見られているんだ」ということに気付くんです。私は20年以上ずっとこの会社にいるので、今まで当たり前のようにしてきたことなんですが、すごくあたたかい企業文化だなと思います。

脇木工の社風の魅力について話す鰐川雅子氏

最後に、今後の目標を教えてください

− 鰐川氏コメント:今後は私たちの強みである家具を起点にした住宅「モモ ハウス」を作っていきたいです。既に別ブランド「RIVER GATE (リバーゲート)」では、家具屋が考える内装事業部として事業を展開しています。

オリジナルキッチンや建材など、自社の取り組みの枠を広げながら、お客さまにとって理想の暮らしの箱を作るお手伝いを、さまざまな角度からさせていただけたら嬉しいです。

取材を終えた鰐川雅子氏

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

変わらない想いの強さ

家具提案を行うMOMO NATURAL (モモナチュラル) の女性スタッフ

時代と共に受け継がれ、ブランドを形成していく要素は、決してモノや技術だけではない。そこには想いや、それを伝えるヒトが欠かせない。MOMO NATURALでは、社員一人ひとりに「自分たちの作る家具で人々を幸せにする」という創業者の想いが昔も今も変わらず流れているからこそ、作られるモノやそれを伝えるヒトに“ぬくもり”が宿るのだろう。

「変わること、変わらないこと」とはよくいわれる言葉ではあるが、同社からは「変わらないこと」の芯の強さを感じられる。「顧客の幸せな暮らしのため」という変わらない想いがあるからこそ、その想いを貫くために変わることがあるのだ。椅子の座面交換については、最近すべての張り子椅子で対応できるように仕様変更が完了したとのこと。家具の仕様変更一つとっても、顧客の負担軽減のためだというから驚く。すべて「顧客の幸せ」「顧客の暮らし」を想うからこその必然的な変化なのだ。

こうして変わることなく変わり続ける会社は強い。その姿勢が70年もの間貫き通されたからこそ、年月を経てもファンが固定される今のMOMO NATURALがあるのだろう。今後も同社の事業展開に期待をしたい。

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