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感性を揺さぶる売場づくり

グリーンやアートなどの暮らしを彩るアイテムは、生活をしていくうえでなくても困らない、いわゆる不要不急なモノだろう。

しかし、その不要不急にこそ豊かさがある。我々はここ数年で、それを身に染みて感じている。なぜなら生活必需なモノやコトと、個の欲望は必ずしもイコールとは限らないからだ。

衣食住一つとってもそうだ。寒さを防げればいいのか、お洒落でありたいのか、腹を満たせればいいのか、美味しいものが食べたいのか、生活できればいいのか、そこに癒しやくつろぎが必要なのか。現代を生きる人々には、“機能で満たすことのできない欲”が大なり小なりある。

今回MMD TIMESは、オブジェに焦点を当てた。これらのアイテムは、祈りや願いを込めたり、その姿形を愛でたり、明確な機能を持たない。日本では「だるま」や「招き猫」などの縁起物から、北海道の「木彫の熊」、山形県の「お鷹ぽっぽ」のような地域に根付いた民芸品や玩具まで、昔からさまざまなオブジェが親しまれてきた。

それも形を変え、近年では住まいを彩るインテリアとしての要素が強くなり、グリーンやアートなどと同様に暮らしに取り入れられている。今や有名無名問わず、国内外の作家の作品を入手できる時代である。モノの裏にある作り手のストーリーも、消費者がそれらを手に取る理由も、十人十色だ。

売り手としては、縁起物や民芸品のようにわかりやすく、そのモノの由来やストーリーが明確であるに越したことはない。しかし、こうも多様化した今、求められるのは知識もさることながら、感性や共感力ではないか。そのためには、消費者の不要不急な欲を満たす方法を考える必要があるだろう。今回はオブジェをつくるブランドへの取材を通して、消費者の感性に働きかける“売場づくり”や“アプローチ”を考える。

触って魅せる

木村木品製作所から展開されている「CHITOSE series (チトセシリーズ) 」の「GUGU (グウグウ) 」 と「KESHI KESHI (ケシケシ) 」は、縄文土器の土偶と東北地方に伝わる郷土玩具こけしをモチーフにした愛らしい置物。

作物としての役目を終えた“りんごの木”を使った同シリーズのオブジェは、りんごならではのしっとりとした木の質感が特徴だ。手触りのよい素材の特徴を最大限に活かすため、つい触りたくなるような握り心地のよい丸みを持たせたフォルムにもこだわっている。

その“しっとり感”が特徴のりんごの木は、もともと水分を多く含んでおり、加工できるようになるまで乾燥させるのに3年もの歳月を要する。成長するのに10年、収穫に30年〜40年、加工されるまで3年、そうした長い年月と歴史を経て手元に来たと想像するだけで、より一層愛しさも増してくる。

一つひとつ手作りされ、それぞれ木の表情も異なる一点物

こうした素材の質感を楽しめるアイテムは、「手に取りやすい工夫」を心掛けたい。一般に高価だったり、取り扱いが難しかったりするオブジェはアートとしての扱いもあるため、売場で気軽に手に取りにくいアイテムの一つともいえる。実際に、気軽には触れられないようガラスのショーケースに入れられていたり、手の届きにくい位置に陳列されているのをよく見かけるのではないだろうか。

同アイテムのように触れることで良さを伝えられるモノは、積極的に消費者の手の届く場所に置き、触れたくなるよう仕掛けてみても面白い。例えば、顔のあるオブジェは消費者と目の合う高さに陳列してみるのも一つの工夫になるだろう。

カタチを魅せる

触覚で感動を与えることが効果的なモノもあれば、触れることなく視覚に働きかけることに長けているモノもある。「MicroWorks (マイクロワークス) 」のデザイナー海山俊亮 (ウミヤマ シュンスケ) 氏が手掛ける作品「Finder’s Trophy (ファインダーズ トロフィ) 」は、漂流物という自然から生み出される“カタチ”が魅力的なオブジェクト。

人間の作為や意思を介すことなく、偶発的に生まれたそのままの姿を生命体に見立てて作品としている。面白いのは、作品を支えるセメントベース。実はこのベースも流木同様に漂流物であり、海岸に漂着したプラスチック容器を型にして作ったもの。

異なる要素が“漂流物”という共通項で結びつく

作品は東京都品川区荏原にあるショップ「ウミノイエ」で観賞・購入が可能だ。注目してほしいのは、作品陳列の空間づくりである。間の取り方や角度、他の作品との繋がりなど、そのモノが一番魅力的に見える余白の作り方、陳列方法を参考にしてほしい。

ウミノイエ店内

見る人によって、それが何であるか想像力が掻き立てられる作品。それが雑多に置かれていては、その作品の持つ良さやメッセージに気付くこともできないであろう。余白のある売場というのも、オブジェの販売には検討すべき必要な要素と心得たい。

具体的なインテリア提案をする

オブジェというのは、人形や動物のような生体を表現したものもあれば、乗り物や建物、名も無い形を表すものだってある。マニアックなオブジェクトは老若男女誰からでも支持を得るわけではないが、ある一定層の心を掴んで離さない。

「佃企画」が紹介するオブジェは、見る人の感性をくすぐるユニークなものが多い。なかでも目を引いたのは、「Chisel & Mouse (チゼル・アンド・マウス) 」の建築物のオブジェ。建築好きの兄弟によるこれらの作品は、同じく建築を愛する消費者にはたまらない作品であろう。

作品は石膏を使用して作られる

「ブックスタンドとして使ってもいいと思います」。作品そのものだけでなく、こう紹介されたことも印象に残った。基本的にオブジェは“機能”としての役割を持たず、“存在を楽しむもの”だが、それをどう使うか、どこにどのように置くかは持ち主に委ねられるのだ。

確かに形状といい、サイズといい、ブックスタンドにちょうどよく、置き方としては洒落ている。こうしたオブジェは価格帯も決して安価でないため、オブジェを購入することにハードルがある消費者に対して、インテリアとしてのイメージを伝えられることは購入の強い後押しになるだろう。

作る楽しみと飾る楽しみ

インテリアとして置く物に欠かせないのは、愛着だ。その愛着が深ければ深いほど、人はその物に癒され励まされ、そしてその物は大切にされるのではないだろうか。人々が旅行先で民芸品を購入したり、自分や家族にちなんだ生き物のオブジェを購入したりするのは、「愛着が持てること」がその動機になるからであろう。

そして、それは購入後にも深めることができる。例えば「株式会社ボグクラフト」が展開する「KA KUKAKU®︎」と「SAKUSAKU®︎」は、自分で組み立てるオブジェだ。同アイテムは紙や段ボールを使用したペーパークラフトキットになっており、子どもから大人まで楽しめる。組み立てた後は画鋲一つで簡単に飾ることができ、作る楽しみとインテリアとして見る楽しみ、この2つの楽しみが味わえるのも同アイテムならではの魅力だ。

置いて飾れるTINYシリーズ

店頭で販売するときは、「実際に作ってできた完成品を商品と一緒に売場に置いてほしい」とのこと。一度体験したことをレクチャーすることで、楽しさや難易度など、説得力を持って接客に臨める。物を作る楽しさを伝えることで、自宅にその物を飾る意味を与えることができれば、インテリアとしてオブジェを楽しむ人も増えていくのではないだろうか。

「オブジェのある暮らし」を届ける

オブジェの接客は、まさに『一期一会』。情感に働きかけるアイテムは、同じモノと同じ人との出会いであっても、その日そのタイミングでなければ売れないということがありえる。それは消費者のその時の心を揺さぶり、その時の欲を満たす必要があるからだ。そのためには、まず商品の存在を売場でしっかり示す必要があるだろう。

売場作りにおいては、そのモノ自体を作り手同様に愛してみてほしい。フォルムや素材、モノの裏にあるストーリーなど、着眼点はたくさんある。「自分はそのオブジェのどこに惹かれるのか」が、消費者とのコミュニケーションのきっかけにもなるはずだ。消費者へと手放すその時まで、売り手自身の持ち物のように売場で可愛がる気持ちを持つことが販売促進に繋がる。ぜひ、そのモノの存在と個性を十分に活かし、愛を込めた売場で、オブジェと消費者の出会いの場、出会いの瞬間を生み出してほしい。

どんな買い物にもストーリーがある。旅先の思い出、新しい生活のスタート、家族や恋人、友人との絆の証、お祝いのギフトなど。なかでもオブジェは機能を持ち合わせないからこそ、より一層そのストーリーが強く色づくアイテムの一つといえる。モノの持つストーリーに“個”のストーリーが重なる時、それはかけがえのない価値あるモノへと変わるに違いない。

そして、そのモノが暮らしのなかで成長していくことも見据えて消費者へと手渡したいものだ。玄関で送り迎えをしてくれるモノ、子どもの成長と共にあるモノ、季節を感じさせてくれるモノ–– “オブジェのある暮らし”のなかで生まれる価値をイメージして販売することができたなら、買い手にとって、そのモノの価値が一層増すことだろう。

掲載企業・ブランド一覧

木村木品製作所

青森県・弘前にある木工屋。青森ひばのりんご梯子の開発から建具・家具・店舗什器と時代の流れに逆らわずモノづくりを行う。自社オリジナルブランドとして、県産材でつくる玩具遊具の「warahand」、りんごの木のインテリア雑貨「CHITOSE」を展開。ほっこりしていながらも、ちょっとエッジの効いたモノづくりをポリシーとしている。

取り扱いアイテム:家具・ディスプレイ用品、日用雑貨、アクセサリーなど

公式ホームページはこちら
http://www.kimumoku.jp/


MicroWorks (マイクロワークス)

海山俊亮によって2003年に設立されたデザインスタジオ。さまざまな工場や職人の協力を得て、大量生産ではなく適量生産によるオリジナルプロダクトの企画・デザイン・販売を行う。東京・品川区に構えるアトリエ&スペース「umi neue (ウミノイエ) 」では、オリジナルプロダクトの他、古物や用途の曖昧な道具や部品、オブジェクトなどを販売する他、さまざまな展示やイベントなども開催している。

取り扱いアイテム:オブジェ、生活雑貨など

公式ホームページはこちら
https://www.microworks.jp/

Instagramはこちら
https://www.instagram.com/umineue/


佃企画

取り扱いアイテム:生活雑貨、玩具、オブジェなど

お問い合わせはこちら
info@tsu-co.com


株式会社ボグクラフト

紙・段ボールを使ったペーパークラフトを組み立てるインテリア『KAKUAKAKU®』を中心とした商品開発、販売を行う企業。“カクカクと洗練されたデザイン性”のある製品を通じて、”組み立てる楽しさ”と、組み立てる人の “温かさ”がこめられる製品を開発している。

取り扱いアイテム:ペーパークラフトなど

公式ホームページはこちら
https://www.bogcraft.com/

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