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海外と日本を結ぶ“架け橋”

モノづくりをするブランドや商品販売するセレクトショップにとって、販路開拓は売上を伸ばすために欠かせないことの一つだろう。どれだけ良いプロダクトが作れても、露出をする場所やタイミング、広告内容、その戦略次第で売れ行きは大きく変わる。

そして、その数は複数あるに越したことはないと、このコロナ禍で感じた企業も多いはずだ。インバウンドでの売上が望めない昨今、なんとか海外への販路を掴んで海外市場への進出を図る企業も少なくないのではないか。

今回MMD TIMESは、OEM・ODMを主軸とし企業のブランドコンサルティングを行う「LIGARE (リガーレ) 」の宮村太一 (ミヤムラ タイチ) 氏を取材した。

宮村氏は長きにわたりライフスタイル業界に携わっており、現在は国内で企業のブランドコンサルティングを行いながら、東南アジアでのビジネスを並行しタイに店舗を構えるなど幅広く活躍している。

そんな宮村氏から、企業が海外進出や販路開拓を試みる際のネックになる点や経るべきプロセスを伺うと同時に、同氏が目を向ける東南アジア市場についても語ってもらった。

LIGARE (リガーレ)
https://www.instagram.com/ligare_tokyo/?hl=ja
企業のブランドコンサルティング、エージェント事業、OEM・ODMを行う。ライフスタイルにおける各企業、グローバルマーケット、コトやモノを独自のコネクションを使って結ぶ (=Ligare )ことを目指す。 

海外進出の“壁”を取り払いたい

リガーレについて教えてください

− 宮村氏コメント:ライフスタイル業界における企業のブランドコンサルティング及び、OEM・ODMを行なっています。ラテン語で「結ぶ」を意味するLigareという言葉を屋号にしました。その名の通り、各企業のモノやコトを独自のコネクションで結ぶことを得意としています。

設立のきっかけは?

− 宮村氏コメント:ライフスタイル業界のさまざまな仕事を行うなかで東南アジア市場に魅力を感じ、それまで行っていたことから舵を切り直そうと思ったんです。

僕自身のことを話すと、高校卒業後にアメリカ留学を経て日本に戻り、社会人になってからずっと、ライフスタイル業界で会社員として働いていました。そこでは営業から商品開発、ディレクションと、ライフスタイル業界でモノづくりに関する0から10までを網羅するように勉強させてもらったんです。

その後、独立をしてオリジナル商品開発の卸販売をメインに行う会社を設立し、サブ事業としてブランドコンサルティングや輸出アドバイザーも行うようになりました。

その際に関わるようになったのが、タイ政府との仕事やJETRO (ジェトロ) の輸出アドバイザーとしての業務です。この経験をきっかけにグローバルマーケット、特に東南アジアに興味を持ちました。同時に課題も感じましたね。

東南アジアに限らず、国内のモノを海外へと輸出するのには、それなりのハードルがあって、さらに政府関連機関の支援を通す場合には、メリットもあれば特有の課題も増えます。もちろん、支援は必要であることは間違いないですが、予算を加味した資金繰りや他ブランドとの平等性など、いろいろな制約が絡んできて、一筋縄ではいかないことが多く、歯がゆい思いをたくさんしました。

たとえばどんなことでしょう?

− 宮村氏コメント:やっとの思いで海外の展示会に出展できても、肝心なその先のフォローがないとかでしょうか。一番大事なのは、名刺を交換した後の営業や、いざ商品を出荷する際のノウハウですよね。実際には渡航費用やサンプルを送る費用だって掛かってくるわけですから、支援金でブースは出せても、その他の細かいコストが重なって、成果につながるかというと難しいところがあります。

そういった現実に直面するなかで、「日本と東南アジアとを結んで“架け橋”のような存在になりたい」という思いが強まってリガーレを設立しました。

サブ事業をメイン事業にされたんですね

− 宮村氏コメント:2019年に卸事業を譲渡し、東南アジア市場にも専念できるように体制を整えたんです。とはいえ、国内の企業やブランドと築いてきた関係は大切にしたいので、ブランドコンサルティング業を継続しています。加えて、これまでに得たノウハウやコネクションを活かし、東南アジアをはじめとする海外に進出したい企業をしっかりサポートしようと考えたんです。

現在タイでは別会社を設立していて、2021年にはバンコクに店舗をオープンしました。タイと真っ直ぐ向き合うことで、それまでお世話になったタイ政府やJETROを通して出会った日泰の方々への恩返しができればと思っています。

海外市場で自立するためのサポート

海外市場進出に携わった事例を教えてください

− 宮村氏コメント:「MATURE HA (マチュアーハ) 」という帽子ブランドをご存知ですか? ご夫婦で営む帽子屋さんなんですけど、このブランドの海外販路開拓に携わっています。

「日本市場は飽和状態なので海外市場を開拓したいけど、輸出のやり方がわからない」というのがご夫婦の相談内容でした。そこで、輸出に必要なコストの計算方法や輸送方法、各種書類の申請方法など、輸出にまつわる知識を一通りお伝えしました。

コストの管理は、その国でのブランディングにまで大きく影響を与えるのでとても大切なんです。日本のライフスタイル業界では上代を守るのが当然の文化ですが、海外ではあくまで参考程度とされることが多いので、このあたりは入念に事を進める必要があります。

また、海外進出を図る際にどうしても欧米諸国を検討しがちですが、ここにも戦略が必要です。経験上、まずヨーロッパの広告塔的なショップに商品を入れて海外市場でのブランディングを行ったうえで、実績はアジアで取るというのがベストな方法だと思っています。

実際に、同ブランドにもそういった細かいハウツーや現地のビジネスマインドのようなものを共有しながら、一歩一歩着実に海外進出に向けて準備をしました。その結果、パリの展示会「Premiere Classe (プルミエール クラス)」に出展して、現地のバイヤーに好評いただき、フランスのコンセプトショップである「merci (メルシー)」と、日本ブランド初のコラボレーションを果たすことができました。

− 宮村氏コメント:そこを皮切りに今では欧米をはじめ、中東やアジアなどの有名セレクトショップでも取引が広がっています。規模が大きくなっても、これまで通り問題なく運営できるように土台づくりを行い、各国にエージェントを付けて体制を整えていきました。

このようにクライアントが自身のビジネススキルとして、海外での管理運営ができるようになることが一番嬉しい成果です。もちろん、わからないことは全力でサポートしますし相談にも乗りますが、僕をステップアップの踏み台にしてほしいなという気持ちが大きいですね。

東南アジアの可能性

日本と東南アジアとの架け橋として、どんな活動をしていきたいですか?

−宮村氏コメント:まずは、タイのブランドを日本に持ってきて広めていきたいです。特にSDGsにフォーカスしたモノやサービスには注目しています。欧米だけではなく東南アジアにも、日本にはないサステナブルなモノやサービスはたくさんあるんですよ。

そして、日本の良いモノを東南アジアへ届けたいという思いもあります。過去、中国進出に力を入れる企業が多くありましたが、現状中国は飽和状態です。一方、タイやベトナム、インドネシアなどの東南アジア諸国は、今まさに成長曲線にあって、飛び込むチャンスのある市場だと思います。

−宮村氏コメント:これには理由が大きく二つあって、一つは東南アジアの多くの国が親日国であることです。これは感覚的なことだけではなく、実際に関税の待遇などビジネス上でも有利だと実感できるメリットがあります。

そしてもう一つは、日本人が多いことですね。実は、タイは世界で4番目に多く日本人が住んでいる外国なんですよ。その数なんと8万人で、うち6万人がバンコクに住んでいます。日本の自動車の8割がタイで作られていることからもわかるように、ビジネスで駐在する日本人も少なくありません。僕の店舗もバンコクの日本人街の近くに構えていて、地元の人と日本人どちらも多く見受けます。

ですので、作り手や売り手としては、地元の消費者とそこに住む日本人へ向けてモノを販売できるわけです。両者のニーズはそれぞれ異なっているので、幅広く色んなモノが売れていく手応えも感じられると思いますよ。

現地の方と日本人とのニーズの違いとは?

−宮村氏コメント:地元の人にはやはり「MADE IN JAPAN」が強いです。今治タオルやアニメ・キャラクターアイテムなど、日本のクオリティ、日本のデザインは認知度があり、モノ自体にも価値を感じてもらえています。特に富裕層から、こういった日本アイテムのニーズが多い傾向にありますね。

片や在留の日本人には、現地で買えない日本人のライフスタイルに寄り添った機能的な製品が売れます。たとえば、突っ張り棒とか、耐久性が高く臭い漏れのない大型のゴミ箱とかですね。

今でこそニーズの違いが顕著ですが、それも時間を経て徐々に均整されるような気もしています。今現在、東南アジア諸国は発展途上ですから、当然ライフスタイルには違いがありますよね。これからどんどんこれらの国が成長し、生活水準が上がれば、彼らのライフスタイルも変化して、モノに求める機能やデザインへの感覚も今の日本と変わらない、もしくはそれ以上になるはずです。若者の人口も圧倒的に違いますし、今のうちから東南アジアに根を張って市場開拓しておくに越したことはないですね。

最後に今後の目標を教えてください

−宮村氏コメント:国を問わず、オンリーワンで人に見せたくなる、発信したくなるような、「消費者個人のための価値」のあるモノづくりに携わっていきたいです。

SNSやYouTubeなど自分で発信することが当たり前になってきた今、ライフスタイル業界も大衆に向けてというより、個人にフォーカスしたモノやコトを提供することが重要だと考えるようになりました。たとえば、個人の名前を入れるサービスをつけてみるとか、本当に簡単なことからでいいので、モノに“プラスα”できる付帯サービスを考えていきたいですね。

それから、これは将来の夢なんですけど、小さいホテルなど宿泊施設の運営をしてみたいですね。現在、京都のエースホテルのアメニティなど、ホテルの備品プロデュースに携わっていることも影響していますが、衣食住やライフスタイルを表現する場として、また、海外を見てきた自分の経験を総合的に表現できる場として、ホテルは面白いんじゃないかと感じています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

願ってもない大きなチャンス

海外への進出を考えたとき、ゴール設定が重要だ。展示会に出展することだけをゴールに設定すれば悲しいかな、お披露目止まりになる可能性だって大いにある。大切なのはその先、その地でモノが売れ、広がっていくことだ。それができて初めて海外進出が達成されたといえるのではないか。

今回の取材から、ゴールまでの準備や計画、歩むべきプロセスがいかに重要かということがわかった。コストやケアすべき内容の幅は想像以上に広そうだ。市場分析が欠かせないことは言うまでもなく、今回取材したリガーレのような、その市場のブレーンをパートナーに迎えることも手段の一つとして考えたい。

また宮村氏が信頼を寄せられているのには、その分析に於いて長けているだけでなく、モノの開発から物流まで、いわば業界の0から10までの知識とコネクションが十分に備わっていることも大きい。

そんな同氏が、日本での事業を泣く泣く手放してまでも惹かれ飛び込んだ先がタイ、東南アジアである。まだまだ開拓の余地があるという東南アジア諸国で、現地のニーズをキャッチし、的確に応える良いモノを提供することができれば、願ってもない大きな販路開拓が実現するかもしれない。

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