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ユーザーがリピーターになるとき

新型コロナウイルス変異株の流行下において自粛モードが繰り返される昨今、おうち時間が盛り返してくることを踏まえて、部屋の中をいかに心地よい環境にするか、またオンラインミーティングで取引先に好印象を与える背景を見せるかなど、生活において気を遣う焦点は再び家の中にむけられた。

こうした風潮のなか、外出する機会は減少し、ファッションよりもインテリアの充実などに改めてお金をかける人が増えているようだ。

しかし、部屋の模様替え一つ取っても、家具はそんなに安いものではないし、洋服とは違って試着ができないので、ピッタリくるものを自身で選ぶのは一苦労である。

さらに言うと、せっかく高価な買い物をするのであれば、長く使えて満足できるアイテムを選びたい。

このように家具の購入にあたっては不安要素が多くあるが、ライフスタイル業界では一体どんなサービスや工夫がされているのだろうか。

MMD TIMESはインテリア需要の高まる今日に、消費者が安心して購入できるよう、また豊かなライフスタイルを構築できるようにと仕組みを追究し、多くのリピーターから支持され続けている株式会社アクタスに取材を行った。

話を伺ったのは、MD (マーチャンダイジング) / SCM (サプライチェーン・マネージメント) 本部の管掌役員兼SCM本部本部長 村田謙 (ムラタ ケン) 氏と、MD本部本部長 吉田桜子 (ヨシダ オウコ) 氏。

家具にこだわる層から不動の人気を誇るアクタスが、特に大切にしていることとはいったい何か。同社の想いと戦略を探る。

株式会社アクタス
https://www.actus-interior.com/
1969年に前身となる「青山さるん」という名前でショップをオープン。今では、全国に直営店32店舗、FCとしてのパートナーショップ38店舗、飲食店4店舗を構えるライフスタイルカンパニー (2022年03月時点) 。事業内容はヨーロッパを中心とした家具、テキスタイル、インテリア小物全般の輸入販売や、オリジナルアイテムの販売。また、レストランやカフェなどの飲食業、大型施設のインテリアデザインや設計・施工、リノベーションの設計・施工など多岐にわたる。 

機能性とデザイン性の両立

これまでの店舗展開について教えてください

− 村田氏コメント:1969年にアクタスの前身となる会社を設立し、日本の暮らしにヨーロッパの家具を取り入れることで、住まいを豊かに発展させたいという目的のもと、東京の青山通りに「ヨーロッパ家具・青山さるん」をオープンしました。1970年代にIKEAのFCを日本で初めて展開したのも当社です。

そこから軌道に乗りつつありましたが、当時は為替の影響もあり、ヨーロッパの家具は今よりも高価で、日本ではまだまだ消費者に浸透せず、事業として成り立たせるにはとても難しい状況でもありました。

しかし、一般的な家具販売の事業としてではなく、インテリアショップとして雑貨を取り扱うことの可能性をIKEAの国内展開から学んだんです。こうして自社商品を作る動きも徐々に増え始めます。

1969年オープン「ヨーロッパ家具・青山さるん」店内
1974年に設立されたIKEA 日本(1984年提携終了)

− 吉田氏コメント:自社開発だからこそできることの一つは、今よりずっと高額で手が届かなかった高級家具を、より消費者が手に入れやすい価格に設定できるということでした。

そしてたとえ価格は下げても、変わらずヨーロッパの美しいデザインを取り入れ、かつ機能性があるというコンセプトを守りながら、少しずつ店舗を拡大していったんです。

ところが2008年に起きたリーマンショックで時代が一転します。不動産販売の不調により、インテリア、その中でも特に家具が全く売れなくなってしまいましたよね。

それを機に家具などのインテリアだけを販売するのではなく、衣食住にまつわるアイテムを総合して取り扱う、「ライフスタイルブランド」として謳いだしていくことになります。

村田謙氏 (左) / 吉田桜子氏 (右)

ライフスタイルブランドとして、どんな事業展開をされてきたのでしょうか?

− 村田氏コメント:飲食、アパレルと事業を拡げ、他企業とのコラボレーション等にも注力しました。まずは関東圏のお店を増やしながら、全国的にお店の知名度を上げて行こうと舵を切ったんです。

今ではライフスタイルショップの「ACTUS (アクタス) 」、「SLOW HOUSE (スローハウス) 」、レストランの「SOHOLM (スーホルム) 」、カフェの「SOHOLM CAFE (スーホルムカフェ) 」という異なる店舗形態のブランドの他、アパレルブランドの「eauk (オーク) 」、グリーンブランドの「NODERIUM (ノードリウム) 」も展開し、分野を拡張しました。

その他にも、公共物件や大型マンションへのスペックインとして、高級キッチンやワードローブ、造作家具を導入する法人向けチャネルもあります。

このように、メーカー企業としてのイメージも強めて、企画開発、調達、国内外の物流、そして品質管理やアフターサービスまでの一連を、自分達のネットワークで作り上げてきました。

おすすめの商品を教えてください

− 村田氏コメント:プロダクトデザイナーである倉本仁 (クラモト ジン) 氏とコラボレーションして開発した、ワーキングチェア「FOUR (フォー) 」です。最近は自宅で働く時間が長くなり、ワーキングチェアの調達を検討される方も多くなりましたね。

従来は機能性を重視した、一般的にいう“オフィスチェア”のようながっちりしたフォルムで、空間にあまりマッチしないモノがほとんどでしたが、当社では空間に溶け込む美しいデザインを意識して開発を進めていますので、課題は住まいに馴染むようなデザイン性と機能性の両立でした。

2022年4月発売予定のワーキングチェア 「FOUR (フォー)」

− 村田氏コメント:FOURは、デザインが倉本仁氏、共同開発と製造が北海道の旭川を代表する家具メーカーの「カンディハウス」とオフィス家具メーカーの「コクヨ」という4社の協業によって開発されました。

こちらは佇まいとしての美しさと、ワーキングチェアとしての機能面が両立していて、「衣食住」+「働」となった昨今のライフスタイルの中にある異質を、自然と暮らしに取り込めるアイテムとして社内でも大変好評です。

− 吉田氏コメント:他にはアクタスを代表する定番商品として、創業125年のデンマークブランドである「eilersen (アイラーセン) 」のソファがあります。お客様からだけでなくスタッフにも好評で、使用率が高いんですよ。

馬車製造をルーツに持つeilersenは、デザイン性だけではなく、耐久性に優れた頑強なフレームや、大量のフェザーを使用したクッション部分など、素材のパーツ一つひとつにこだわり、座り心地の良さを追求した商品を展開しています。

eilersen のシグニチャーモデルとして人気のSTREAMLINE SOFA (ストリームラインソファ)
背もたれの位置を自由に動かせるPLAYGROUND SOFA (プレイグラウンドソファ)

− 吉田氏コメント:最近はコロナショックの影響で家族が多方向から座れる形など、消費者から求められるソファの形にも変化がでてきましたが、eilersenはどれも中の構造がしっかりしていて座り心地が良いうえに、デザインの幅が広く、選べる種類の豊富さからも不動の人気を誇るブランドですね。

新商品を選定するACTUS独自の基準

新商品はどのような基準で選んでいるのでしょうか?

− 村田氏コメント:当社では年に2回、社内で新商品のカウンシル (評議会) を設け、経営陣と営業責任者を集めてリリース商品を評価しています。評価基準の一つは「アクタスらしいかどうか」です。

このアクタスらしさとは、「商品を通して新しい発見があり、かつデザインが美しく素材が上質であること」、また「一過性の流行りではなく普遍的であること」、さらに「製造の背景にあるストーリーがしっかりしていること」や、「生活に豊かさを与えられるもの」など、いくつもの条件が含まれています。

雑貨においては「コレクションしたくなる」という要素も大切な評価のポイントですね。

もう一つの評価基準としては、「商品戦略や時代と合致しているか」ということもあり、これもまた重要な条件となります。

サービスにもアクタスらしさというものはありますか?

− 村田氏コメント:店頭でのサービスの質を高めていく努力はもちろん、配送サービスのクオリティ向上にも注力しているんです。例えば、配送協力会社の方たちに商品のレクチャーをし、配送クオリティを競い意識を高く持ってもらうための「配送甲子園」というコンペティションを開催しています。

また、配送後にお客様へアンケートを実施しており、各ドライバーには評価点とともにフィードバックを行って、サービスの均質化と向上にも努めていますね。おかげさまで今では全国どのエリアでもほぼ満点の評価をいただいているんですよ。

ACTUSの想いとその伝え方

ブランドの役割を教えてください

−村田氏コメント:モノを売るだけではなく、ユーザーに何かを感じてもらう工夫をすることが大切だと思っています。

例えば、お客さまが心地良い店内で商品に触れ、スタッフから丁寧な商品説明が受けられ、その結果、何かを購入したい、この店やスタッフとこれからも長く繋がっていたい、そんな風に感じてもらえる環境づくりです。

そして気軽にショップに足を運んでもらい、もっとインテリアへの理解と共感を持ってもらえるようにすることが、ブランドの役割だと思っています。お客さまの感覚に働きかけて、心が豊かになってもらえるアクタスらしい空間をこれからも作っていきたいですね。

−吉田氏コメント:当社の代表取締役社長である休山昭 (キュウヤマ アキラ) のメッセージに、“アクタスストア4E”というのがあります。

これは、「Experience (お客さまに体験してもらう)」「Engagement (お客さまと絆を深める)」「Education (インテリアの良さを啓蒙する)」「Emotion (感動を与える)」という四つの意味があり、リアルショップの今後のあり方を示す大切な指標です。

4Eはブランドにとって大きなテーマですし、これを実行するために、まず我々自身が生き生きとして働き、ワクワクするプロダクトを生み出す必要性があると思っています。こういう本質的な想いがお客さまに伝わると本当に嬉しいですね。

その想いはどのようにして消費者に伝えているのでしょうか?

−吉田氏コメント:インテリアや暮らしというのは楽しむものです。当社のプロダクトを通してできるだけ多くのかたに、インテリアや暮らしは楽しいということを伝えていきたいと思っています。

そのためには社内で、楽しさを実感できる共感者を増やすことが大切ですね。スタッフがしっかり商品知識を持ち、我々自身が楽しめる仕掛けを一緒に考えることが重要だと思っています。

取組みの一例として、「接客コンテスト」というものをスタッフ育成のひとつとして実施してきました。そこでは店長自らが率先して接客のロールプレイングをしたり、みんなで一緒にディスプレイを競って楽しんだりと、とにかく消費者に楽しさを伝えるためには、どうしたら良いかということを一緒に研究してきたんです。

この試みを始めてから、スタッフの想いはお客さまへより正確に伝わるようになり、徐々に成果もでてきましたね。

サステナブルな未来へのACTUSの取り組み

環境問題に対しての取り組みはされていますか?

−村田氏コメント:今あらゆる企業で環境問題対策が注目されていますが、我々は20年ほど前から商品を作るプロセスを通して、環境負荷の抑制や健康に対する安心安全に向き合ってきました。

当時、一般的な家具に使われている塗料や接着剤には有害物質が含まれ、これがシックハウス症候群の原因だという問題が話題となりましたよね。実は建築基準法で建材には使用する材料の規制はあるのに、置き家具には未だ法規制が無いんです。

しかし当社では、子どものための家具を作るにあたり、安全性を第一に考えた対策として、有害物質とされているホルムアルデヒドが少ない“F☆☆☆☆ (エフフォースター) ”という基準を満たす塗料や、接着剤のみを使用するという動きに踏み切りました。

現在では、有害物質を抑制する独自規格が進んでいる欧州製品の一部を除き、全てのオリジナル家具に適用し、健康や安心安全を考えたモノづくりをしています。

−吉田氏コメント:北欧では「良いモノを長く使う」という文化が根付いており、我々も入社時からしっかりとその考え方が染みついていましたから、サステナビリティの意識をお客さまに伝えることの大切さは理解することができたんです。そして具体的な活動として、「エコ・ループ」という独自の名称を掲げてプロジェクトを開始しました。

エコ・ループとは、不要になって引き取った家具と、配送時に発生する梱包資材を素材ごとに分別し、再資源化する活動で、廃棄物の分別、分類、リサイクル化を推進していくものです。2005年からスタートし、2016年には全物流の配送拠点でゼロエミッションを達成しました。

アクタスが家具の「これから」をつくる3つの循環システム

−吉田氏コメント:また他にも製品を長く愛用していただくための修理ネットワークや、お客様が何らかの理由で手放さなくてはならなくなった家具を引き取り、それをリペアして次の使い手に届けるという、「トレードインサービス (ユーズドアイテムをリセールするサービス) 」を整えて、循環する仕組みを構築しています。これらの取り組みが評価され、2021年度にはグッドデザイン賞を受賞しました。

2021年度グッドデザイン賞状

−吉田氏コメント:ここ数年の注目度により、環境に配慮した取り組みの加速度をつける必要を感じています。例えば、リサイクル素材の使用、また再資源化に適した解体しやすい仕様の選択など、まだまだ検討する課題はたくさんありますね。

−村田氏コメント:これからは、環境に配慮して取り組む企業がきちんと評価され、消費者の選定基準となっていくのではないでしょうか。

今後どのようにしてサステナブルな社会をつくり上げていきたいですか

−村田氏コメント:世の中が新しいライフスタイルに変化していくなか、我々はイノベーターとして革新的な提案をしつつも、「エコ・ループ」活動のように、昔ながらの普遍的な価値を循環させる大切さを、しっかりとユーザーに伝えていきたいですね。

−吉田氏コメント:「良いモノを長く使う」という真の豊かさを伝えていくことは、ユーザーとスタッフとのエンゲージメントの確立に繋がると思うんです。そうした信頼がやがて、サステナブルな経済や社会として結びついていくと信じています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

変化の軸にある普遍的な価値

時代の変化に伴い、我々のライフスタイルも変化し続けているが、企業経営の方針として変えてはいけない大切な軸があるようだ。

それは、消費者が商品に触れる時の心地よさの追究、そして共感する仲間を増やすかの如く、その商品の良さを人から人へと伝える手段の構築だと、村田氏や吉田氏の話から推測される。

同社が取り組んでいる社内カウンシルや売場作りの絶え間ない研究努力は、本当の豊かさを消費者に伝えるために、まず社内スタッフの心が豊かであるというマインドセットの重要性を教えてくれた。

このようにしてブランドの想いを受け取った消費者が、そのブランドへの信頼感と安心感を寄せリピーターとなり、時代の変化でも離れることのないファンとして繋がり続ける。

多岐にわたるどの事業、ブランドにおいても、その考え方はデザインや機能だけに留まらない想いや意味合いが含まれている。

社歴から鑑みても、現在のサステナビリティに通ずる普遍的な価値が軸として確立されてきた今、同社のように安定したリピーターとなるファンを持ちながら、さまざまな新展開をして輝き続けられるのだろう。

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