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サービス拡大とコミュニケーション

より多くのユーザーに、より満足してもらいたい。各企業がそれを理想として試行錯誤しているが、その課題解決のキーとなるのは他ならぬユーザーの「声」である。

昨今、マーケティング戦略としてSNS投稿などからエンドユーザーの「声」をリサーチしている企業は増えてきたが、こういった声も直接触れた意見ではないため真のニーズを深く突き止めらないことが多い。

本当の「声」を聞くということ、またその声を実際にサービスに反映させるということは、オンライン上ではなかなか難しいことのように思える。ユーザーの本当のニーズを知るためには、またそのニーズに応えサービスとして定着させるためには、いったいどんなコツがあるのだろうか。

今回、MMD TIMESでは靴のリペアサービスとして認知度の高い「MISTER MINIT (ミスターミニット) 」で、人の“声”にしっかり耳を傾け、社内のバランスを取りつつエンドユーザーの要望を実現している、サービスコンビニ開発課の長嶺 素義 (ナガミネ モトヨシ) 氏に話を伺った。

MISTER MINIT (ミスターミニット)
https://www.minit.co.jp/ 
1957年にベルギーのブリュッセルで世界初の「婦人靴のヒール修理サービス店」として開店。日本には1972年に進出し三越日本橋店と髙島屋日本橋店を同時にオープン。現在は国内に約300店舗を持ち、靴や鞄の修理を中心にスピーディーでクオリティの高いサービスを提供し、時計修理などへも幅を広げている。

サービス開発とバランサー

長嶺さんのことをお聞かせください

− 長嶺氏コメント:入社してから最初の5年間は現場で靴の修理を担当していました。

その後は本部で研修プログラムの作成や催事の開催などに携わり、サービス課へ移動してからは価格設定やサービス拡大など、いろいろと任されていたんです。その業務を経て、PR課で広報業務なども担当していました。

現在は、サービスコンビニ開発課で新規事業や新しいサービスを仕組みから作り、店舗のテストを経て実装していく流れを作っています。

MISTER MINITのサービスは靴のリペア以外にもあるんでしょうか?

− 長嶺氏コメント:一般的に当社のサービスは靴のリペアというイメージが強いですが、そこからスニーカーのクリーニングや鞄の修理にまでそのサービスは拡大し、更には時計修理といった機械的な装飾品のリペアまで提供できるようになりました。

また、ビデオテープからDVDへのダビングというような、外出時に身に着ける装飾品以外にも日用品のサービスを行っています。

他にも店舗でお客さまからの要望があれば、とにかくお断わりしないようにと、本部では日々現場と連携を取りながら新規事業や新メニューの開拓を試みていますが、その業務の流れを確立するのが私の所属するサービスコンビニ開発課なんです。

エンドユーザーの要望に応えるために開始された鞄の修理サービス

これまでさまざまな部署でたくさんの経験をされていますが、そこで培われたことは何でしたか?

− 長嶺氏コメント:まず、店舗でお客さまとコミュニケーションを交わすことで、エンドユーザーが本当に求めているコトを肌で感じられ、そこから消費者目線でどのようなサービスが必要なのかを実感できるようになりました。

また、店舗ではスタッフとしっかりコミュニケ―ションを取ることで、オペレーション上で必要なことを把握できるという特権もありましたし、本部では経営的な思考が身に付きましたね。

このような経験から私は社内での“バランサー“として立ち回る機会が増えてきました。バランサーとは、エンドユーザー、現場スタッフ、経営陣といった多方面の意見の歪みを調整する役割です。

− 長嶺氏コメント:例えば、一つの課題を解決するためにスタッフから提案のあった道具を仕入れようとする場合、そのスタッフの要望だけで動いてしまうと、経営的にコストが見合わなくなることがあります。そうなると、別の課題が新たに生まれてしまいますよね。

こういうとき、それぞれの意見や要望のバランスを取るということはとても大切で、そういったバランサーとしての役割を担い、偏りのない判断をすることが私の使命だと思っています。

この「バランスを取る」ということは容易ではありませんが、結果として社内の歪みも整い、店舗でスムーズなサービスを提供できるようにする大切なプロセスですから、とてもやりがいのある仕事です。

ここで大切なのは、やはり相手の話を聞き、言葉を交わすというコミュニケーションなんですよね。

一方通行にならない体制での取り組み

どんな仕組みで新規サービスを導入していますか?

− 長嶺氏コメント:本部で計画した案を2〜3店舗の小規模でテストし、その現場でブラッシュアップしたものを規模を拡げてエリアごとに実施していきます。ここで発生した懸念事項はじっくり一つずつ潰していく必要があるので、一気に300店舗で全国展開することはありません。

マニュアルに関しても、本部ではたたき台だけを作り、各店舗で実践しながら修正していきます。

こうして事前にトラブルを想定してしっかり対策ができているので、あとは本部でサポート体制を組み立てておくことによって、現場スタッフは安心したオペレーションができるようになっているんですよ。

私達は常に現場の声を大切にして、本部からの一方通行ではなく、スタッフ全員で一緒にサービスを作り上げています。

“「困った」を「ありがとう」に変える”サービス

MISTER MINITのコンセプトをお聞かせください

− 長嶺氏コメント:私達はお客さまが困ったときに、「とりあえずMISTER MINITに行ってみよう」と思っていただけるような「サービスのコンビニエンスストア」を目指しています。

サービスのコンビニエンスストアとは、ワンストップでお客さまの「困った」を解決でき、またお客さまの大事な時間を奪わないようスピーディーにサービスの提供ができるお店のことです。社名にミニットと入っていますし、とにかくスピード感には注力していますね。

そのためにもスピードとクオリティのスキルアップに徹底したスタッフの研修を導入しています。

− 長嶺氏コメント:例えば、当社ではいろいろなサービスがありますが、各メニューによってオペレーション時間を設定し、それをクリアしたスタッフのみが店舗で担当できるというフローを作っています。

また、こういったスタッフのスキルアップだけでなく、機材に関してもこだわっていて、当社ではヨーロッパ特注のオリジナル機材を使用し、時間短縮に工夫を凝らしているんです。

MISTER MINITオリジナルのヨーロッパ特注機材

まるで困ったときの駆け込み寺のようですね

− 長嶺氏コメント:そうありたいですね。私達のショップは日本全国各地にあって、駅構内、百貨店やショッピングモール内などに店舗網を広げているので、お客さまが困ったときには駆け込みやすい立地で展開しています。

「修理」が生み出す循環型社会

MISTER MINITの社会的役割は何でしょうか?

− 長嶺氏コメント:私達の「修理」という仕事は、ただモノを直すことではなく、モノの命を吹き返し再度価値を与えるようにすることだと思っています。

お客さまもお金を払って修理に来られるということは、何かしらそのモノに想いがあるはずですよね。その想いを持ってずっと使い続けてもらいたいですし、この流れこそ世界的にテーマとして掲げられているSDGsや循環型社会の実現に繋がっていくのではないでしょうか。

モノを「消費する」ことだけではなく、このように「修理する」、「綺麗にする」という要素は、循環型社会における動きとして必須だと思いますから、MISTER MINITとしては、こういった社会のインフラをこれからも続けていきたいですね。

協業によるサービスの多様化

今後のサービス拡大でチャレンジしようとしていることはありますか?

− 長嶺氏コメント:現在はワンストップでオペレーションを組んでいますが、今後は異業種他社との協業も視野に入れていくべきだと思っています。

以前、「外からも中からも綺麗になろう」というコンセプトで、働く女性をターゲットにしたカフェとのコラボイベントを開催したことがあって、異業種との新しいフィールドへのチャレンジに大きく刺激を受け、さらなる可能性を感じました。

− 長嶺氏コメント:協業する内容としては、例えば当社はECを中心にしている事業という訳ではないため、逆にそれを強みとする企業とコラボレーションすることで、OMOの施策や新たなマーケットが生まれる可能性がありますよね。

このようにそれぞれの強みやアイデアを出し合うことで、サービスの幅が広がり、更に多くのユーザーの声に応えられるようになるのではないかと確信しています。

これからもたくさんの「困った」を解決すべく、お客さまの要望をなるべく断らないという当社の理念に向けて、異業種との協業は考えていきたいところですね。

リペア業界における「MISTER MINIT」の将来像

今後の展望を教えてください

− 長嶺氏コメント:私達の仕事はモノの修理という、資源を無駄に使わないサステナブルな取り組みに繋がりますので、これからもこのように社会に貢献しつつ、また他業種と協業することで更なるフィールドを拡げ、社会全体として価値の高い企業になれるような取り組みをしていきたいと思っています。

何といってもリペアの仕事のやりがいは、エンドユーザーに心から「ありがとう」と言ってもらえることですから、この気持ちを社員全員にも忘れずにいてもらいたいですし、この仕事を誇りに持ってくれるように伝えていくつもりです。

そして、もっともっとお客さまからの「ありがとう」という声が聞きたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

コミュニケーションから拡がる多様性

ユーザーのニーズに応えるためには、技術的な解決法だけでなくランニングコストとのバランスも念頭に置かなければならない。

つまりユーザーが満足するサービスの提供を実現するには、全員の意見を取り入れるのでは歪みが生じ、それがボトルネックとなってしまうため、全体のバランスを取ることが必要なのである。

高みを目指す限り常に新たな課題が浮上するので、このボトルネックというものはエンドレスではあるが、関わる人との日々のコミュニケーションをしっかり行うことで、それらを一つずつ解消していくことは可能のようだ。

長嶺氏はボトルネックの解消を前提としてユーザーの「声」だけでなく、社内の「声」にもしっかり耳を傾けるというコミュニケーションを重視した仕組みづくりを行っている。

また、今後はエンドユーザーの要望に更に多く応えられるよう、自社展開だけでなく、異業種との協業によって、一層幅広いサービス提供ができるようにしていきたいとも語っていた。

ゼロから創り上げるのは大変だが、協業によって各分野のプロフェッショナルが集まり強みと技術を出し合えば、新たなフィールドに進出し、さらなるマーケット開拓の可能性も広がる。

そのときに必要となるのも、やはりじっくりと周りの「声」に耳を傾けることではないだろうか。

鞄修理や傘修理など、MISTER MINITの現在あるサービスメニューのほとんどはエンドユーザーの声から生まれたサービスであって、ショップスタッフは顧客の「困った」と真摯に向き合い、まずはその場にある道具で対応し、本部はその情報と解決策を吸い上げ、それをサービスとして定着させることに尽力している。

このように、ユーザーの声を聞き、ショップスタッフの声を聞き、経営陣の声を聞く。そして更に異業種他社の声も聞いてみる。このプロセスはリペア業界での未来の希望がたくさん秘められているように感じる。

これからも「困った」を「ありがとう」に変えていく「MISTER MINIT」の新たな取り組みと可能性に期待したい。

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