Contents

日本百貨店の強みを意識したブランド再構築

セレクトショップで雑貨を購入しようと考えた時、誰しもがパッと思いつくブランドを持っているのではないだろうか。その多くは目当てのモノが想定した価格帯で買える、いわゆる「目的買い」であるはずだ。

一方、日本橋に旗艦店を置く「日本百貨店 (ニッポンヒャッカテン) 」は、目的買いに強いセレクトショップとは少し違うように感じる。

商品はどれも遊び心が満載で、訪れるたびに「期待を上回る結果」をもたらしてくれる。日本橋に似合う凛とした和の香りがする店構えでありながら、ひとたび商品に目を向けると「どこで見つけたんだ?」と思うようなマニアックなアイテムが並ぶ。

まるで昭和の商店街に居るかの様にワクワクしながら、初めてお目にかかるアイテムを手に取ると、目の前の手書きPOPやスタッフが、丁寧に商品の歴史やストーリー、ローカルな生産者について教えてくれる。まさに日本のモノづくり文化の宝探しのような体験ができる場だ。

「日本百貨店は、元々モノづくりが好きな人間が集まっているんです。バイヤーもショップスタッフも、休日を利用して作り手に会い行くような熱い想いを持つ人たちばかりです。」

株式会社日本百貨店の代表取締役社長である、浮ヶ谷 祥 (ウキガヤ ショウ) 氏はそう語ってくれた。

今回MMD TIMESでは、ちょうど日本百貨店のリブランディングのタイミングで取材することができた。今や飽和状態となっている数多くのセレクトショップの中で、どのようにブランドの強みを捉え、ブラッシュアップさせていくのか。浮ヶ谷氏の手法と日本のモノづくり文化への想いを、我々ならではの視点で紐解いていきたい。

株式会社日本百貨店 (ニッポンヒャッカテン) 
https://corp.nippon-dept.jp/
“ニッポンのモノヅクリとスグレモノ”をテーマに、作り手と使い手の出会いの場として、自社で目利きした日本各地の特産品、名産品を販売。東京・神奈川を中心に8店舗を展開している。

社内の意識統一とメッセージ力の強化

取材を行った「日本百貨店にほんばし總本店」

日本百貨店について教えてください

− 浮ヶ谷氏コメント:食品や雑貨を含め、作り手のこだわりや歴史に焦点を置き、独自の視点で編集、発信するセレクトショップです。バイヤーが全国から発掘してくる、他社では取り扱っていないユニークな商品が揃っています。

ショップスタッフの生産者に対する熱すぎる想いやマニアックな商品知識、ストーリーを伝える接客、くすっと笑ってしまうようなイベントなど、他社にも負けない強みだと実感しています。

今回、どのようにリブランディングを行ったのですか?

− 浮ヶ谷氏コメント:まずは企業理念を明文化し、コンセプトを言語化することで社内の意識統一と、社外へのメッセージ力の強化をしていきたいと考えました。

創業から約10年間、“ニッポンのモノヅクリとスグレモノ”をテーマに、作り手と使い手の出会いの場として発信してきたのですが、時代が変わっていく中で、市場や生産者、そして消費者の暮らし方も大きく変化しています。出店当時は目新しかった日本の食と雑貨のセレクトショップも、いつしか同じ様な業態が増えてきたんです。

そのため、もう少し強いメッセージ性が必要だと考えていたところ、今年でちょうど10年の節目だったこともあり、我々の想いを更に深堀りするいい機会だと考え、コンセプトとVIを一新する形でリブランディングを行って、他社とは違う角度からニッポンのモノヅクリを応援したいと考えました。

日本百貨店の商品はクオリティも高く、作り手のストーリーもある良いモノが多いんです。そして、スタッフも作り手と繋がりが深く、その想いを汲んでお客様と向き合っています。でも、その良さを分析して客観的に捉える機会がなく、外部に対してうまく表現しきれていなかったことが課題のひとつでした。

また、店舗も立地ごとに違う屋号を使っていたこともあり、“日本百貨店“というひとつのブランドとしての発信力を強化する必要がありました。そういった状況の中で、すべてを繋ぐ横串を作りたかったんです。

新たな企業理念の定義

− 浮ヶ谷氏コメント:そこで、ミッションとして創業時の意図を引き継ぎ、「ニッポンのモノヅクリにお金を廻す」を掲げました。また、新しく「ニッポンのモノヅクリ文化を未来へ」というビジョンを追加することで、我々が目指すべき理想の姿として、“日本のモノヅクリ文化の継承”が明確になったんです。

そして、全スタッフ共通の行動基準・価値観を設けることで、皆がブレずに同じ方向を目指せる指針を作りました。これにより、イベントを企画したり商品選定をする時など、日々の業務の中で何か決定をする際の柱が出来たと考えています。

豊富なコンテンツと遊び心ある日本百貨店の切り口

プロジェクトメンバーによる方向性ブレストとキーワード抽出作業風景

新しいコンセプトについて教えてください

− 浮ヶ谷氏コメント:「ニッポンの百貨をおもしろく。」を掲げました。「百貨 (ヒャッカ) 」とは「いろいろの商品」「多くの品物」という意味を持つ言葉です。

縦に長い日本列島は、地域や気候風土も「いろいろ」です。そのため、土地ごとの暮らしに根付いた「いろいろ」な民芸品や日用品などの「百貨」が形作られていきました。

唯一絶対ではなく、「いろいろ」であることにこそ、日本文化の根幹があると私たちは考えています。新しいも古いも、高価も安価も、洗練も雑多も、遊びも真面目も、日常も非日常も、かっこいいもそうでもないも。ここに集まるあらゆるいろいろなモノの周辺や背景にある「人」「心」「技」「文化」を伝えていきたい。

そんなコンセプトの下、商品展開をはじめ様々なコンテンツを作り始めています。

新コーポーレートサイトビジュアル

そのコンセプトをどのように表現しているのでしょう?

− 浮ヶ谷氏コメント:VIも「百貨」の象徴として、「いろいろ」をモチーフにしたマークに変わりました。「いろいろ」を強調することで、他社にはない日本百貨店ならではのユーモアを表現しています。

また、私たちのPBは作り手の顔がみえるというコラボ企画ですが、パッケージも「日本の文化」「ユーモア」「新編集」という3つのキーワードから「かるた」をモチーフに、新しさと懐かしさを併せ持った可愛らしく楽しげな印象のデザインになっています。

商品が増えて様々な絵柄が生まれたことで、店内全体の世界観も今までより更に賑やかになってきました。

かるたをモチーフにした柑橘フェアのPBパッケージデザイン

− 浮ヶ谷氏コメント:さらにWebサイトでは、日本文化の視点でモノづくりや生産者に興味を持ってもらえるように、バイヤーや作り手、文化の歴史といった様々な角度から商品を紹介し、読み物として楽しんでもらえるコンテンツをたくさん用意しています。

Webサイト上の豊富な読み物コンテンツ

− 浮ヶ谷氏コメント:ユニークで遊び心溢れる切り口で、日本のモノづくり文化のいろいろな面白さや豊かさを、私たちらしい編集でお客様にお届けしたいですね。

「日本百貨店らしさ」の認識と守るべき社内文化

「日本百貨店らしさ」を具体的に言うと?

− 浮ヶ谷氏コメント:私たちは単に商品を仕入れて販売するのではなく、売り手である自分たちの存在意義をどう出せるかということにこだわっています。

特に分かりやすい例が2つあって、ひとつはコロナ禍に秋葉原店で行った、和歌山県にある梅農家の有本農園さんの梅酒販売会です。

店頭にTVモニターを置いて、作り手の有本さんが自ら語るというライブ配信だったのですが、ただの動画と思って通り過ぎようとするお客様は皆、自分に向かって話し掛けてくる有本さんにとても驚いて足を止めてくれるんです。

コロナ禍の逆境をユニークな発想でチャンスに変えた企画であり、多くのお客さまが画面を通して、有本さんとのかけあいを楽しまれていて、売上も好調でしたね。

和歌山県梅農家さんのリモート参加イベント

− 浮ヶ谷氏コメント:また、ふたつ目はクラフトコーラブームのきっかけとなった「ともコーラ」さんとの取り組みです。

今でこそクラフトコーラは流行っていますが、当時は「クラフトコーラってなに?おいしいの?」という反応が多かったのを、セレクトショップとして初めて展開したんです。

作り手とオリジナルパッケージやPOPを考えるなど、共に作り上げていった商品で、発売当初から面白い商品としてメディアに紹介されました。

特にパッケージは新ジャンルの商品としてインパクトを出すことを目的に、敢えて媚薬や香水のような「コーラ」のイメージからかけ離れた、違和感の出るデザインを選びました。

その後のブームの影響もありますが、スタッフにも商品の面白さ、希少性、楽しみ方を積極的に接客指示し、10代からサラリーマン、さらにはご年配の方まで幅広い客層に刺さり、自家需要やギフト需要を満たす大ヒット商品となりました。

「ともコーラ」と企画した「東京クラフトコーラ」。日本百貨店限定パッケージ。

− 浮ヶ谷氏コメント:私たちは単に商品を仕入れるだけでなく、「どのように売るか」「どんなキャッチコピーを打ち出すか」「どう買い手を巻き込んでいくか」など、プロモーションまでをも作り手と丁寧に話し合い、決めていきます。

「大人のどらやき」をコンセプトとして掲げ、ヒットした「ラムドラ」

− 浮ヶ谷氏コメント:それはメーカーとの特有な距離感を持つ私たちだからこそ出来ることだと考え、大切にしていきたい文化ですね。

エッジの利いた日本百貨店の定番商品

定番商品を教えてください

− 浮ヶ谷氏コメント:「たま麸」は、定番の売れ筋商品です。まずは何と言ってもインパクトのある大きさ、見た目がすごいですよね。

これは愛知県の麸屋藤 (ふやとう) さんという大正時代から代々手作りにこだわった焼き麸専門店の商品です。ご家族3人とパートさんで協力して、毎日早朝からひとつひとつ手づくりで丁寧に焼いて出荷されています。

そして見た目のインパクトだけでなく、一度食べるとクセになるとろりとした食感が魅力です。お吸い物だけでなく、おでんやすき焼きの具材、フレンチトーストにもなるので、色々とアレンジ出来るところもリピートしてもらえている理由だと思います。

中の商品がより見やすいように、リデザインされたパッケージ

− 浮ヶ谷氏コメント:また、岩手県の山奥にある家族だけで営む小さな菓子店が作る、「たかはしさんのフィナンシェ」も人気です。

フィナンシェは有名店や一流パティシエなどのブランド名で売るものという風潮があり、現に高橋さんも様々なバイヤーからそう言われて断られていたそうです。

そんな風潮への違和感と、良いものは売れてほしいという思いから、あえて商品名はカッコつけずに「たかはしさんのフィナンシェ」とし、岩手の山奥で作っていると謳い訴求。その素朴さがお客様に刺さりヒットにつながった事例です。

上品に箔押しを使ったシンプルなデザインが特徴のフィナンシェ

− 浮ヶ谷氏コメント:定番の人気商品は他にもまだあり、アイテムは全部で1,000SKU近く展開しているので、宝探し感覚で遊びに来ていただきたいです。

スタッフごとにお気に入りの推しアイテムが異なるので、いろいろなスタッフに声を掛けてみてはいかがでしょうか。スタッフとの会話を通して面白いアイテムが探せると思います。

振り切ったブランド表現とその発信

浮ケ谷氏自ら作ったオリジナルのギフト「稲庭うどん」

今後チャレンジしたいことは?

− 浮ヶ谷氏コメント:面白いコラボ企画商品やオリジナル商品を作り出すことでしょうか。一般的にPBはマスに向けた売れ筋が中心となり、PB比率が増えるとセレクトショップとしてはエッジが削がれがちだと考えられています。

あくまでも自分たちへの戒めとしてですが、私はそこに違和感を持ち、作り手と一緒にエッジの効いたコラボ企画やオリジナル企画にあえて果敢に取り組んで行き、ここでしか買えない価値を提供していきたいと考えています。

そしてリブランディングの形が整ってきたら、次は海外出店。日本のモノづくりを海外に発信していきたいですね。

柑橘フェアイメージビジュアル

今のライフスタイル業界についてどう思いますか?

− 浮ヶ谷氏コメント:ユーザーの価値観の多様化が進み、自らの価値観でモノを選ぶ時代になりました。それによりセレクトショップは商品のみならず、セレクトした基準や思想、価値観がより重要になってくると思います。

そのために、まずは自社の思想や価値観を明確にして、世の中に発信し、そこに共感して頂くファンを増やす。そして継続的にファンの方々とコミュニケーションを図り、一緒にブランドを育てていくという意識が大切だと考えています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

現れだした「変化の芽」

この2年でニューノーマルな生活が浸透し、人々の暮らし方が大きく変わり、ライフスタイルを提案するセレクトショップの在り方も変化を余儀なくされている。

「2020年後半のセレクトショップの動向」でMMD TIMESが行ったアンケートでは、今後の売上施策としてECの強化の他にも、ブランディングの強化やMD再構築についてのコメントも多く見受けられた。

今回取材した日本百貨店のように市場の変化をチャンスと捉え、前向きにチャレンジをすると答えた経営者が多かったのが印象深い。あれからちょうど1年が過ぎ、各ブランドの施策が形になって現れる頃だ。

ECサイトの刷新や、新たな出店もいくつか目にするようになってきている。今後、ライフスタイル業界がどのようにジャンプアップしていくのか、どのブランドが牽引していくのか、これからも引き続き注視していきたい。

Recommend