2021.09.02.thu

地球を終わらせないネクストミーツの代替肉

Contents

サステナビリティに取り組むネクストミーツ

2016年にSDGs (持続可能な開発目標) が採択されたが、「地球温暖化」が深刻な問題として注目されるようになったきっかけは、1985年にオーストラリアで開催されたフィラハ会議である。我々は環境問題が悪化しているとは知りつつも、実際には身近に感じることがなく生活をしてきた。しかし昨今の異常気象や自然災害を目の当たりにし、もう無視することはできない。

今、ようやくそれを実行する時代が来たようだ。街中で「SDGs」や「サステナブル」という文字を頻繁に見かけるようになり、最近では学校の授業にもテーマとして取り上げられ、特に若者の意識が高まっている。

我々が向き合うべき環境問題の一つとして挙げられる「地球温暖化」の原因、それはなんと全体の約14%が家畜の排泄物によるものとの声も聞く。この数字は自動車や飛行機などの輸送業の温室効果ガス排出量に匹敵するそうだ。

MMD TIMESでは「廃棄問題解決のためのモノづくり」でアパレル業界の環境問題対策を紹介したが、今回は飲食業界の環境問題対策を探りたいと思う。取材したのは、代替肉のフードテックベンチャー「ネクストミーツ株式会社」だ。

今回、話を伺ったのは代表取締役の佐々木 英之(ササキ ヒデユキ)氏。多くの企業がSDGsに基づく環境問題対策に試行錯誤しているなか、同社のSDGsを達成する取り組みとはどういったものなのか。そして消費者との信頼関係はどうあるべきなのか。サステナビリティビジネスの参考にしてほしい。

ネクストミーツ株式会社 
https://nextmeats.co.jp/
東京に本社を構え、アメリカをはじめ海外10ヵ国以上で展開するフードテックベンチャー。
地球環境の今後を真剣に考え、「地球を終わらせない。」を理念に2020年に起業し、2021年にSPAC上場でアメリカ進出を果たす。過剰な畜産による地球温暖化を代替肉で解決するため、動物性の肉に替わる「おいしい植物性の代替肉」を作り、新しいライフスタイルを提供することで、我々が置かれている「危機の時代」に立ち向かう。
代替肉とは、動物肉ではなく大豆など植物性原料を使用し肉の味や食感を再現して作られた肉の代わりとなる食品。近年では培養肉の開発も進んでいる。

代替肉の環境に対する役割

ネクストミーツについて教えてください

− 佐々木氏コメント:ネクストミーツ㈱は、2020年に立ち上げたサステナビリティをテーマにしている日本の代替肉開発メーカーです。単に代替肉を販売するだけではなく、創業者である私と白井 良(シライ リョウ)の「地球環境を守りたい」という想いから設立しました。地球温暖化に立ち向かう一つの対策として、代替肉は大きな可能性を秘めています。

温室効果ガス削減に向けて世界では様々な取り組みが為されているなか、自動車の排気問題やエネルギー問題については多くの方に周知されていますが、家畜の排泄物や放牧地確保による森林伐採も原因であることは、まだあまり知られていないところです。

更に、家畜を育てるためには水資源も大量に使用しなくてはならず、温室効果ガス排出以外にも課題があります。

代替肉は、消費者が身近に取り入れやすい「食」を入口とした気候変動対策となり、また今後迎える人口増加による食糧危機、そして、たんぱく質供給が需要に追い付かなくなる「タンパク質危機」の対策としても、重要な食材になっていくと考えています。

ネクストミーツの代替肉の特徴について教えてください

− 佐々木氏コメント:一般的に市場に出回っている代替肉商品の主な原料は大豆なんですが、それに伴い大豆摂取過多によるアレルギーの問題などが懸念されています。そこを踏まえて我々は商品原料に大豆だけでなく、えんどう豆やひよこ豆なども使用することで消費者の選択肢を増やしています。

また、我々は代替肉の加工素材だけを販売するのでなく、加熱すればすぐ食べられるような調理加工食品のメニュー開発から販売までを行っています。美味しさの追究はもちろんのこと、代替肉特有の大豆臭をマスキングし、肉のような食感を出すことにはかなり拘って研究を重ねてきました。

肉と同じような食感を再現したNEXT焼肉の一つである「NEXTカルビ」

− 佐々木氏コメント:ラインナップとしては世界展開を念頭にユネスコ無形文化遺産にも登録された、世界でも認知度と人気の高い「和食」を意識した日本企業ならではの商品です。

一般的には代替肉はまだよく理解されていないので、消費者が食の安全という面で不安にならないように、できるだけ無添加の商品展開も心がけています。

温めるだけの玉ねぎ入り牛丼風代替肉「NEXT牛丼」

ネクストミーツの代替肉はどんな方に選ばれていますか?

− 佐々木氏コメント:最近は健康志向の高まりにより、脂質が少なくビタミン、ミネラル、食物繊維が多く含まれる代替肉のような植物性食品が注目されていますよね。そういった健康を気にする方達からの需要が増えています。それから、動物愛護という観点や環境問題への意識から選ぶ人なども多いです。

さらにネクストミーツの商品はパッケージにも特徴があり、良い意味で食品らしくない斬新でかっこいいデザインにしています。また最近リニューアル発売した「NEXT牛丼CAN」では、食品業界でほとんど使われることのない「青色」を使用したパッケージデザインをあえて起用しました。ユーザーからは、その斬新なデザインにファッショナブルさを感じて頂き、部屋に置いてもおしゃれに見えるインテリアのような食品として選ばれています。

健康思考や動物愛護、ファッション性からなど、選ぶ理由が環境問題ではなくても、結果的に代替肉による気候変動対策への意識に繋がれば良いのではないでしょうか。

パッケージデザインに青色を使用したデザインが新鮮な「NEXT牛丼CAN」

ネクストミーツが創る代替肉市場のヴィジョン

NEXTハラミを使用した100%植物性バーガー「NEXTハラミバーガー」を提供しているBURGERS TOKYO (東京・下北沢)

今後どのように代替肉を普及させていきたいと思いますか?

− 佐々木氏コメント:欧米では畜産飼料への有害化学物質添加の疑念や、動物愛護、環境問題に対する配慮から、またトレンドの一つとしてなど、ライフスタイルの中に代替肉は取り入れられていますが、一方、日本を始めアジア諸国ではまだまだそういった知識と意識は根付いておらず、馴染みがありません。

最近では日本のファストフード店のメニューでも見かけるようにはなりましたが、話題性というところで「代替肉」という言葉だけが知られているようで、今のところ消費者が直接手に取る機会はほとんどないように思えます。我々の商品展開としては、最初は意識の高いエンドユーザーからアプローチし、「オシャレ感」のあるブランドを浸透させた上で徐々に広げていき、身近な生活の一部となるようにしていくつもりです。

その点でトレンドから普及していけるきっかけとなるセレクトショップでの取り扱いも、今後は期待していきたいですね。

代替肉が生みだす未来

− 佐々木氏コメント:今、直面している気候変動や食糧危機問題は待ったなしの状況です。実際、世界中で洪水、干ばつ、台風、熱波などの災害による被害が増加しています。

こういった温暖化による被害は、動物性食品の消費を減らすことで劇的に改善できます。例えば代替肉に移行することで、畜産のために使われる膨大な量の水資源や排出される温室効果ガスを減らすことができますよね。

危機的状況を改善するためには、とにかく事業展開のスピードを意識し、代替肉をブームで終わらせてはならないと思っています。

食品業界における代替肉の位置づけ

食品業界の現状を教えてください

− 佐々木氏コメント:多くの食品メーカーが環境問題を気にかけていますが、畜肉産業が主軸となる企業が多いのは事実です。つまり環境問題に取り組めば取り組むほど基幹事業との矛盾が生じることもあります。

そんな状況でこれからフードテックベンチャーとしてどんな動きをすべきなのかを考えると、大手企業の長年培ってきた信頼性と、我々のようなベンチャー企業のスピードやチャレンジ精神を掛け合わせていくことなのではないかと思うんです。そうやって食品業界の新境地が切り開かれていくのではないでしょうか。

我々のような環境問題の観点からフレキシブルに動けるベンチャー企業が食品業界の中でこれからも増えていくと、より環境の改善に繋がっていくと思います。ネクストミーツはそのモデルの一つであり続けたいですね。

ネクストミーツが目指す「共創」

今後の展望を教えてください

− 佐々木氏コメント:利益というのは後から付いてくるものです。弊社は「環境問題の解決」という一つの目標を主軸に事業展開をし、「利益追求よりサステナビリティファースト」という理念をずっと守っていきたいと思っています。

環境問題対策や社会貢献になる持続性重視の商品を生み出すことは、その結果として利益を生むことになり、ひいては企業のサステナビリティを確立し、また社会へ貢献できる循環を生み出す。我々はそんな本当の意味での「環境」「社会」「経済」という地球全体のサステナビリティを実現する必要があるからです。そのためには社内だけではなく他企業や他業種、そして消費者みんなで共に一丸となって取り組める流れを作ることが重要課題です。

− 佐々木氏コメント:弊社には、地球環境問題に向き合い、地球全体の循環と持続性を意識した同じ想いの人材が集まっていますので、社内でも社外の方とでも信頼を持って同じゴールを目指し前進することができています。

「競争」ではなく「共創」。ネクストミーツは地球全体のために各々が持つ技術やネットワークを組み合わせ、さまざまな分野の力を借りて、食品業界のみならずカルチャーやファッション業界までライフスタイル全般でのオープンイノベーションを実現していきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

「理念ファースト」から広がる可能性

多くの企業がSDGsに基づくサステナビリティに取り組んでいるが、その目的はPRの一環として掲げていることも多い。地球環境の改善に貢献できるという点ではもちろん素晴らしいことだが、果たしてそれだけで本当の企業サステナビリティの実現に繋がるのだろうか。

今回の取材で佐々木氏が語っていた言葉の中には、今一度考えさせられるヒントがたくさんあった。その中の大きな一つは、ネクストミーツは顧客に選ばれる商品の開発ではなく、「地球環境」を根幹として商品を創り出しているということだ。これが結果的に永く愛されるロングセラーを生み出す可能性もある。

そのためにはやはり企業のサステナブルに対する理念=「想い」を前面に掲げて、仲間を増やしていくことが重要となるのであろう。設立わずか1年強で急成長を成し遂げた新進気鋭のネクストミーツ株式会社から今後も目が離せない。

MMD TIMESとしても様々な分野からの観点でライフスタイル業界を盛り上げるべく、一層情熱を注いでいきたいと思う。

Recommend