2021.08.05.thu

ここでしか買えないアイテム

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バッティングしない店づくり

ブランディングの一つに「らしさ」の追求がある。以前からセレクトショップでは競合他社との差別化を図る為、独自性のあるコンセプトの下に様々な戦略を用いて日々試行錯誤し、より良いブランディングを追求してきた。

しかしアイテムの選定という観点では、トレンド性の高いモノに人気が集中しやすいということもあり、売上とのバランスを踏まえて競合他社と似通った商品構成となってしまうことも多いのではないだろうか。

そういった中で、昨今では商品選定も含めてオリジナリティーの強いセレクトショップが台頭しつつある。

オリジナリティーの強さとは単純に珍しい商品を選定しているということだけではなく、ショップの核となるコンセプトと、らしさの追求なのではないかと思う。

今回、MMD TIMESではオリジナリティーを追求し、競合他社とは一線を画す視点からセレクトショップを立ち上げた、el mare (エルマレ) のディレクターを務める山口 翼 (ヤマグチ ツバサ) 氏に話を伺った。

el mare(エル マレ) 
https://elmare.jp/
2021年4月1日にオープンしたEC型のセレクトショップ。el mareのMARE (まれ / 稀) とは実在・存在することが非常に少ない様、また数少なくて珍しい様。その名の通り、日本では珍しい中南米をコンセプトに商品を展開し、世界中から厳選した商品仕入れを行う。

ショップの立ち上げにかける想い

山口さんの役職を教えてください

− 山口氏コメント:el mareのディレクターとしてショップのコンセプトから商品の仕入れや企画デザイン、PRまで全てのディレクションを行っています。

元々、私は大手セレクトショップで15年程勤務し、その内7年間はバイヤーをしていました。当時は売上の観点から人気商品の仕入れに偏ってしまうことが多く、売上を伸ばしながら他社との差別化を図るにはどうすればいいのかを常に考えていたんです。

日頃から多種多様なセレクトショップがあった方が面白いのではないかと思い至り、自分でコンセプトから考えてオリジナリティーのあるショップを立ち上げたいと考えるようになりました。その想いを基に、新たにスタートをさせたのが el mare です。

el mareの特徴は?

− 山口氏コメント:日本では珍しい中南米 (グアテマラ、メキシコ、ペルー) に特化した商品を中心に展開しているショップです。実際に現地へ足を運んで商品を集めたり、中南米の職人と共にデザインしたオリジナルの商品を作ったりしています。

私は中南米の魅力の一つであるモノづくりへのこだわりに強く惹かれていたので、el mareもモノづくりにこだわったショップにしたいですね。

今のところアパレルがメインですが、アクセサリーや小物類など、ハンドメイドの商品も取り扱っており、ここでしか買えないモノを世界中から選定し、様々な現地の空気感を伝えていけるように心掛けています。

なぜ中南米をコンセプトに置いたのでしょうか

− 山口氏コメント:前職でバイヤーをしていた時に、仕入れを担当する主な国がアメリカやカナダだったのですが、ある時仕事でテキサスへ行った際、中南米の文化に触れ、日本では目にする機会の少ない独特なアイテムを見たことがきっかけです。

テキサスは中南米の玄関口のような場所で、アメリカ国内でありながらグアテマラやメキシコなどの国から様々なアイテムが入ってきているんです。そこで目にした独自の色合いや刺繍のモノは日本で馴染みがなく、日本に持ち帰れば新たな価値を提供するセレクトショップを作れるのではないかと思い、中南米をコンセプトにしたショップを立ち上げました。

アメリカのニューメキシコより買い付けた希少なVINTAGE

アイテムで語る世界観

おすすめのアイテムは?

− 山口氏コメント:1番のおすすめは「DEL SOL (デルソル) 」というブランドのアイテムです。DEL SOLは職人の伝統的な手作業によって作り込まれた中南米の風合いにフォーカスし、色彩豊かなカラーリングや生地を独自に厳選しています。

中でも「DEL SOL Guatemala kasuri shirt(デルソル グアテマラ カスリ シャツ)」は、グアテマラで目にする物は横縞でなく縦縞なのですが、その素材のイメージを変えることなく横縞にしたら面白いんじゃないかと思い、職人さんと細部まで打ち合わせを繰り返しながら作り上げたんです。

シルエットにも拘り独自のパターンを用いゆとりを出す事で、現代にマッチしたアイテムに仕上げています。

まだ誰も見たことがない商品を作り、新しい価値観を提供していきたいので、現地のデザインをそのまま落とし込むのではなく、中南米の技術や伝統を重んじつつDEL SOLとしてのギミックも加え、独自性がありシェアしたくなる商品を目指して制作しています。

中南米の世界観を取り入れて独自にデザインした「DEL SOL (デルソル) 」
伝統的な技術によって作られた「DEL SOL Guatemala kasuri (デルソル グアテマラ カスリ)」

− 山口氏コメント:他にも刺繍の入った「DEL SOL Guatemala quetzal(デルソル グアテマラ ケツァール)」は人気ですね。

この刺繍は工程がとても難しく、昔と比べて対応できる現地の職人が減っている為、見つけることが容易ではないのですが、自分の足で現地に向かい人脈を開拓して、ようやく辿り着き、共に作り上げることができた貴重な商品です。

刺繍の細かな動きは中南米の独特な世界観や風土だからこそ生み出せるものなので、その空気を感じてもらえたら嬉しいです。

el mareの商品は一点一点が細やかで丁寧な仕上がりになっており、細部までこだわりの詰まったモノづくりをしています。こちらの生地は風合いを感じて頂けるように、あえて加工を施す前のナチュラルな生地を採用しています。

職人達とモノづくりを行うことで、そういったこだわりからモノに対する想いを受け取り、その想いが国を超えてエンドユーザーまで届けられるようなディレクションをしていきたいですね。

エンドユーザーに対し、期待していることはありますか

− 山口氏コメント:遠く離れた国の文化やデザインに興味を持ってもらうためのブランドにしたいと思っているので、幅広い層に気軽に着てもらいたいです。

前職ではメンズバイヤーだったので、レディースという視点を持ってなかったのですが、ポップアップストアでは女性からの反応も多く、いい意味で期待を裏切られたのが嬉しかったですね。

このブランドを機に、男性にも女性にも選ばれるモノづくりをしていこうと考えるようになりました。

国境を超えてのモノづくり

今後の展望を教えてください

− 山口氏コメント:今以上に、モノづくりを一緒に行っている中南米の方々へ貢献していきたいですね。中南米は貧富の差が激しいので、より良い就業環境を構築していく為にも、最終的には独自の工場を設けることが目標です。

また、職人不足も深刻な状況の為、el mareを通して日本と繋がることで、フェアトレードの関係を築ければいいと思っています。もともと、僕が中南米の方に抱いていたのは、とてもユニークで明るい人たちというイメージだったのですが、一緒に仕事をしてみるとそれだけではないと分かったんです。

モノづくりに対して情熱を持って取り組んでくれているので、良いデザインであれば複雑な縫製でも引き受けてくれる努力を惜しまない性格を併せ持っている方達でした。そんな方々の事をもっと日本にも広めて、現地の人に恩返しができればいいと思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

オリジナリティーの追求

昨今では、インターネットで多くの情報を簡単に手に入れられるようになったことで、エンドユーザーが商品を選ぶこだわりの基準もより高くなっていると感じられる。

そんな中、セレクトショップがエンドユーザーに選んでもらう為に重要となるのがオリジナリティーの追求だ。

今回の取材で、「自分で見て触れたモノから得られる経験や知識が、独自性を生み出すきっかけになっている」と山口氏は語っていた。

日本国内だけでは見出せない価値を見つけ出し、商品一つひとつの個性を活かしながら、今までにない形で提供し続けていることがel mare のオリジナリティーなのであろう。

中南米の職人と共にモノづくりをし、伝統を作る技術と精神はそのままに、最近のトレンドや日本で売れる要素を取り入れ、エンドユーザーへの届け方の柔軟性を高めていくことが、セレクトショップの「らしさ」を生む為の一つの答えだと思う。

今は誰もが発信する力を持っている世の中だからこそ、自社のオリジナリティーを見直し、他にはないセレクトショップを目指していくことが大切なのではないだろうか。

MMD TIMESとしても、その情報を見逃さずにキャッチして、ライフスタイル業界を盛り上げていくことに使命感と情熱を持っていきたい。

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