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売り手と買い手が立ち会う“現場”

「実店舗の価値」――MMD TIMESでも幾度となく話題にのぼるテーマである。視・聴・嗅・味・触の五感で感じる体験、そこから生まれる感動と、予期せぬ出合いや展開を、“買い物”というたったひとつの行為の中で与えることができるのだ。

ECにはECの良さが、実店舗には実店舗の良さが、それぞれ活きる時代。今回MMD TIMESはオンライン化が急激に加速している“いま”だからこそ、実店舗があることの価値に迫っていく。

取材を行ったのは「CRASH GATE (クラッシュゲート) 」のセールスマネージャー 喜多 悠一 (キタ ユウイチ) 氏。エリアマネージャーとして管轄店舗の売上管理を行う一方で、現場にも立って接客などの仕事も行っている。

本部と現場の架け橋、いわば“中間管理職”とされる役職に就く喜多氏。商品の開発から販売、そして改良のPDCAを回すためには欠かせない存在だ。また、以前「バイヤーが考える、商品選定と売場の関係」でも紹介したようにCRASH GATEの商品回転率は家具業界の中でも異例の早さ。

「現場にいるからこそキャッチできることがありますね」そう語る喜多氏の“現場”の捉え方、また今後さらに加速するであろうオンライン化との向き合い方、実店舗にしかいない“ヒト”の存在について、話を伺った。

株式会社関家具
https://www.sekikagu.co.jp/
家具の生産地である福岡県大川市にある家具の総合商社。商品の企画開発を軸足にオリジナルブランドを多数展開。自社開発した商品をメインに家具の卸売事業、ハウスメーカーや工務店などへのコントラクト事業、小売事業を行う。
CRASH GATE (クラッシュゲート)
https://crashgate.jp/
株式会社関家具が展開するオリジナルブランドである、「クラッシュクラッシュプロジェクト」の世界観を表現したライフスタイルショップ。「いつもの暮らしにユーモアを」というコンセプトのもと、心躍るモノとの出会いをテーマに遊び心あふれるインテリアコレクションを展開する。

脱・机上の空論

セールスマネージャーの役割を教えてください

− 喜多氏コメント:いわゆるエリアマネージャーです。CRASH GATEでは12店舗を3人のマネージャーで管理していて、それぞれの管轄ごとに店舗運営も任されます。

全体の数字責任はもちろん、担当店舗の売上責任、販促活動やキャンペーン企画などの業務も我々で行います。

その中で大切にしていることはありますか?

− 喜多氏コメント:お客さまと商品部との距離の近さですね。どちらにも近いという点はこの役職ならではで、セールスマネージャーが店舗を持ちながら効果測定できることは、売上に大きく関わる重要なことだと思っています。

商品に対するお客さまのフィードバックや、自分たちで企画した販促の結果が肌で感じられることはとても貴重で、定例で開催される店長会 (店長と商品部とのミーティング) でとても参考になっています。

毎回、お客さまからの細かなニーズなどを共有するのですが、会議室にいるだけでは絶対に出てこない改良案が色々と出てきますね。

人気商品の「TET SOFA (テットソファ) 」

− 喜多氏コメント:例えば、「TET SOFA (テットソファ) 」は人気商品ですが、発売当初は背もたれが高くて自宅へ搬入できないという声を何度か店舗でいただいていました。それを商品部に挙げたところ、すぐに対応があり、今では背もたれの取り外しができるように改良されています。

このスピード感はファブレスメーカーであるうちならではだと思います。ユーザーにとっても現場に立つ人間にとっても嬉しい対応ですね。

「売れない理由」を届ける

現場にいるからこそ活かせることとは?

− 喜多氏コメント:数字に出てこないユーザーニーズを拾い上げることです。そのなかでも「売れない理由」を見つけられることは大きいと思っています。

意外と「売れる理由」ってわかりやすくて、機能や手入れのしやすさ、価格帯など、理由はいくつかあります。ただ、売れない理由は、お客さまとの会話で初めてわかることも少なくありません。

「もうちょっと高さが低ければ」「サイズが合わない」など、さらには地域ごとに需要特性があったりして。そこまで細かなニーズになると、現場にいてお客さまとコミュニケーションを取らなければ絶対にわかりません。

ECでは買わないことが“離脱”として現れると思うのですが、その理由を追うのは現状難しいですよね。店舗でコミュニケーションさえ取れていれば、そこも拾える、さらにはそれが商品の改良に繋がるんです。

傷を魅力に感じさせる接客のチカラ

店舗を構える目的や役目は何だと考えますか?

− 喜多氏コメント:やはり「お客さまとのタッチポイント」というのが最大の目的ではないでしょうか。実物を見てもらう・体験してもらう、は今のところ実店舗でしかできないですからね。

特にうちの商品は古材や革など、個体差があって扱いづらい素材でできているモノも多いので、店舗で実際のモノを見ていただくことは大事なことだと思います。

例えば、細かい傷や変色など個体差が大きい「TABU (タブー) 」というソファシリーズがあります。その名の通り、その扱いづらさから業界では当時“タブー”とされていた「オイルレザー」を使用したシリーズです。でも実はこの商品、うちで売上1番のソファシリーズなんですよ。

TABU (タブー) の「OPIUM SOFA (オピアム ソファ) 」

タブーな素材でつくった商品が一番売れているんですね

− 喜多氏コメント:理由は接客にあると思っています。うちは入社後の社員教育で古材や革について徹底的に教育するので、「モノの経年変化や個体差に対しての愛着」をスタッフみんなが自信を持って話すことができるんです。

僕は最終的に売れ筋をつくるのは“ヒト”だと思っていて、ヒトがちゃんとした説明ができるから商品が売れると信じています。

CRASH GATEでは、一見デメリットと思われるような傷や変色、手間だと捉えられる手入れなどもしっかり伝えます。マイナス面も伝えることで信頼が得られますし、そこも含めて魅力に感じてもらうことが重要です。クレーム回避も含めて必要なスキルですね。

「それができるのはお客さまのニーズを引き出すコミュニケーション能力があってこそ!」という部分もありますけれど、コミュニケーション能力も含めCRASH GATEにはヒトとして成長できる環境が十分にあると思っています。

各事業を跨いだ相乗効果

「ヒトとして成長できる環境」とは?

− 喜多氏コメント:先ほどお伝えした、社員みんなの商品理解が深いこと・現場と商品部との距離が近いこともそのうちのひとつです。

最近では「Object」という季刊誌を発行し配布するようになりました。店舗VPを冊子に落とし込んで表現した冊子です。こういったツールができたことで、お客さまと店舗スタッフ、商品部とのコミュニケーションがより円滑になるのではないかと考えます。

季刊誌「Object」

− 喜多氏コメント:最近だと他の事業部の話を聞く機会が増えたことはとても良い傾向です。この1年、新型コロナウイルスの影響もあって、ZOOMでのオンライン会議が推奨されたので、事業部を超えた横の繋がりが格段に広がりました。

関家具は抱えるブランドも多く、低価格なものを量販店向けにつくっているところもあれば、無垢の一枚板だけを販売している事業部もあります。

またコンシューマー向けだけでなく、コントラクト事業もあるなど、事業部が変われば全く違うコンセプトや方針でブランド展開していたりするので、横の繋がりができることで情報交換があったり新しい発見があったりと、今後の商品開発や販促活動に必ず良い相互作用を与えると思っています。

現場に居続けることの価値創造

今後の展望はありますか?

− 喜多氏コメント:店舗スタッフの新たなキャリアアップのカタチをつくっていきたいです。業界全体の傾向として、販売スタッフってずっとそこにいられない風潮があると思いませんか? プレスやバイヤーとして現場から本部へ移動することがいい、そうじゃないとステップアップできないとされる風潮を変えていきたいです。

実際にこうして店舗にいると、現場が好きな人って多いんですよね。それに、販売が得意な人が必ずしもマネジメントが得意とは限らないので、ずっとプレイヤーでいるという選択肢があってもいいと考えています。

そういうスタッフのために現場にいながらキャリアアップできる新たな仕組みの環境を整えてあげたいです。

− 喜多氏コメント:今、YouTubeやInstagramなどのSNSの普及で見えるように、時代は「個の時代」に入っていると思っています。個人に対して顧客がつく時代に重要なことは、ライフスタイル業界でもやはり「ヒトを育てること」ではないでしょうか。

スタッフを育成する中で、いろんなスタッフがそれぞれに合ったこと・好きなことを見つけた時、「先の道がない」とならないように、さまざまなキャリアアップの道を歩めるようにしていきたいです。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ヒトの重要性と歩む道

「実店舗の価値」――減少しつつある数に逆らって、それは大きくなりつつあるのではないか。オンラインでは未だ実現が難しい細かな対応やリアルな体験を行う場として、「オンラインが普及するからこそ発生する新たな価値や可能性」があるに違いない。

そして、その場に欠かせない“ヒト”のあり方にも変化が必要だ。知識を活かしたコミュニケーションスキル、現場の人間ならではのワークショップの開催、新しい役割の発生など、スタッフ一人ひとりの得意分野を活かして個を磨き、ブランドだけでなく、その場にいるヒトにファンをつけることで、これから先OMOとして実店舗とECとの相乗効果を図れるのではないか。

これから予期される実店舗の縮小を嘆くのではなく、どういう店舗であるべきか、どういう人材を置くべきか、そして、その道は果たして開拓されているのか。今一度考えてみてはいかがだろう。

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