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大きく変化を遂げたグリーン業界

2010年代はインテリア業界のみならず、アパレルや飲食でもライフスタイル提案型セレクトショップが大きく注目を集めた。

その中でもエンドユーザーがライフスタイルに取り入れやすいグリーン (植物) アイテムは、様々なセレクトショップで取り入れられ、瞬く間に人気を広げた。

元々、園芸・庭師・ランドスケープ事業を中心としたグリーン業界が、昨今ではより人々の身近な存在である家の中のインテリアとして活躍の場を広げているのだ。

今回は、グリーンを用いた演出やプロデュースを専門とする株式会社緑演舎 (リョクエンシャ) のランドスケープデザイナー兼代表取締役の大山雄也 (オオヤマ ユウヤ) 氏に話を伺った。

株式会社緑演舎
https://www.ryokuensha.jp
生き物であるグリーンを専門として、特殊な緑化技術を用いて空間演出を手がけるプロ集団。2016年に設立してから造園の計画から設計及び施工、メンテナンス、植物の販売など、グリーンと空間演出をメインに幅広く行う。

グリーンを追求する意外なきっかけ

グリーン業界を目指した理由は?

− 大山氏コメント:中学の頃から熱帯魚を扱う店に毎日通うほどアクアリウムが好きでした。

そのうち熱帯魚よりも水草のほうにハマってしまって、水槽の中をレイアウトすることにのめり込んでいったんです。

ちょうどその頃、建築士の父が定期購読していた雑誌で屋上庭園を特集した記事を見つけました。

屋上庭園を上から見た様子が、僕にはまるで水草が茂るアクアリウムのように見えたんです。

屋上庭園とアクアリウムはどちらも限られた空間の中で、グリーンを使ってデザインされているという共通点があって、それに気づいた時「僕のやりたいことはコレだ!」と感じました。

インテリアグリーンの先駆け

会社設立の経緯を教えてください。

− 大山氏コメント:もともと10年以上緑化資材メーカーでインハウスデザイナーとして働いていました。

当時グリーンは今ほどインテリアとして認知されておらず、インテリアとしての新たなカテゴリを確立させたいという想いから、まずは社内ベンチャーとしてブランドを立上げてショールームを作るところから始めました。

資金調達という面では、社内ベンチャーであることにとても助けられましたが、当然ながら早期投資回収を求められるが故に、自分の意図と異なる客先に営業に行かなければならないこともしばしばありました。

インテリアグリーンという新たな文化を創りたいという目標を持っていた僕は、もっとクリエイティブな領域で発信していきたいと考えるようになったんです。

− 大山氏コメント:その頃、グリーン市場にも徐々に変化が見られるようになってきました。

昔はグリーン業界といえば園芸・庭師・ランドスケープの3つの事業がメインでしたが、この5年~10年で自然を身近に感じ豊かな暮らしをしたいという人々の新たな需要が発生しています。

今までのグリーン業界は“外”が中心でしたが、商業施設やオフィスの“中”にも「インテリアとしてのグリーン」が求められるようになってきたんです。

その変化をデザインという切り口から更に推し進めるべくクリエイターとして勝負したいと思い、志が同じ仲間と緑演舎を作りました。

働いていた緑化資材メーカーとも良好な関係で、社内ベンチャーで立ち上げたブランドを事業譲渡してもらい、既にクライアントがついていたこともあって、恵まれたスタートを切れたと思います。

緑演舎の4つの事業柱

大山氏の手掛けた蔦屋書店の店舗

主にどんな事業を展開されていますか?

− 大山氏コメント:一つ目は全体の6割を占めているメインのBtoB事業で、オフィスや商業施設の屋上、壁面、インテリア、ランドスケープの提案を行っています。

現在はコロナショックの影響で従来の案件は若干減少していますが、シェアオフィスなどの新たな需要は増えていて、今後も伸びると思っています。

大山氏の手掛けた資生堂オフィス

− 大山氏コメント:そして二つ目は、デザインしたグリーンをキープしていく為のメンテナンス事業です。

グリーンは生き物なので、綺麗な状態を維持するためには定期的なメンテナンスが必須なんです。

グリーンに携わる仕事をしていく上で、全てに関わる重要な事業となりますね。

PIANTA×STANZAのプロダクト

− 大山氏コメント:三つ目はコンシューマー向けにプロダクトの小売りをするBtoC事業です。

今日取材に来ていただいているのは、我々が立ち上げたPIANTA×STANZA (ピアンタスタンツァ) というグリーンのプロダクトブランドのショールームなのですが、ここではグリーンがユーザーの日々の生活にどのように寄り添えるかを考えた商品を展開しています。

例えば、ナラ材のフレームの中にグリーンを飾るアイテムや、プラネタリウムのように空間にグリーンの影を映し出す照明インテリアなどの提案です。

他にも東京の武蔵小山でTRANSHIP (トランシップ) というグリーンの専門店を運営していて、そこでは鉢と樹形にこだわった植物を販売しています。

緑演舎が運営するショップTRANSHIP

− 大山氏コメント:四つ目は比較的新しい事業で、個人住宅の屋上やバルコニーのグリーンをプロデュースしているのですが、コロナショックの影響でこの事業が思った以上に拡大しています。

テレワークが進んで人々が都心から郊外に移り、広い土地や戸建てを買う流れがあるので、庭でも室内でもグリーンを楽しむ機会や需要はさらに高まるのではないでしょうか。

大山氏自ら手掛けたグリーンと共に暮らす自宅

− 大山氏コメント:個人住宅のプロデュースで大切にしていることがあるんです。

今までのグリーンの空間演出は、先に作られた建築物に合わせる形で後から考えることが一般的でしたが、僕は移り変わる四季など自然を楽しんでもらえるようにグリーンを主役に建築設計を行っています。

緑演舎の強みやポイントはありますか?

− 大山氏コメント:強いて言うならば、グリーンが持つポテンシャルを活かすためにスタイルを固定させないよう意識しています。

グリーンって、アーバンやシャビーシックなど、どんなテイストのインテリアにも取り入れることができますよね?

だから会社の世界観を固定させて全面に押し出すというよりは、お客様のニーズに合わせられる幅の広さを持つようにしているんです。

ただ、緑演舎“らしさ”は毎回デザインに反映させていますよ。

緑演舎“らしさを具体的に教えてください。

− 大山氏コメント:僕が今まで実際に見た「自然の風景美」をデザインに取り入れるようにしているんです。

例えば、以前目にした滝を意識して白いツタを使って表現したり、空間全体をアクアリウムに見立ててデザインするなど、クライアントの意図に沿いつつ、緑演舎らしさを常に意識して、今までインプットしてきた風景美をグリーンで再現しています。

自然美を再現したバイオフィリックデザイン (レバレジーズ社オフィス)

セレクトショップで扱うグリーンのこれから

今のセレクトショップに必要なこととは?

− 大山氏コメント:ライフスタイル提案型ショップが飽和している今、ただライフスタイルにまつわる商材を集めた見掛けだけの品揃えでは、ユーザーに見抜かれてしまう時代だと思っています。

それは今でも尚、勢いのあるグリーンのコーナーでも同様で、ただ店頭に並べているだけでは売れにくくなってきているのではないでしょうか。

店舗全体の世界観に合わせて、他の商品とも相性の良いグリーンを揃え、しっかりとストーリーを伝える演出が必要です。

− 大山氏コメント:最近ではエンドユーザーのグリーンに対するリテラシーもすごく上がってきているんです。

どんな豊かな生活を提案するのか、何故このシーンにグリーンが必要なのか。

毎日の手入れを含めたルーティンまでも暮らしの一部として提案できると、長くリピートしてもらえるショップになれるのではないでしょうか。

例えると、商店街にある電気屋さんのような身近な存在として、人々に親しまれているイメージです。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

より身近になるグリーンとエンドユーザーの関係性

昔はグリーンを買う場所といえばホームセンターだったが、今はライフスタイルを演出する為に様々なショップがグリーンを提案しているのを見かける。

しかし、一昔前のアパレルショップのように、展示されているボディのコーディネートを上から下までそのまま購入するような、ブランドの提案を丸ごと受け入れるエンドユーザーは少なくなってきた。

DIYが流行るなど、エンドユーザー自身でインテリアコーディネートを考えられるほどに感度は成長しており、これはグリーンの業界でも例外ではない。

すでにグリーンに対してのリテラシーが高いユーザーは、行きつけの専門ショップで自宅のインテリアに合うグリーンを選んで購入し、自分らしい組み合わせを楽しんでいる。

このままエンドユーザーの感度が成長し続ければ、中途半端なライフスタイルショップは廃れてしまうかもしれない。

大山氏の言っていた「商店街にある電気屋さん」のような人々に寄り添った提案の仕方や専門性や、「困ったときに気軽に行ける身近なショップ」として、日々の暮らしの中でエンドユーザーとの関係性の構築が非常に重要な要素となってくるだろう。

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