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エンドユーザーからショップへの「ボトムアップ戦略」

「愛されるブランド」とは、どういったカタチを指すだろう。誰もが知るブランドとしての確固たる位置付け、コア層からの需要、店舗との良好な関係、はたまた売上がそれを計る全てなのか。

今回MMD TIMESでは、そのカタチのひとつを紹介したい。話を伺ったのは、キャンプギアブランド「OUTPUT LIFE (アウトプットライフ) 」の齋藤順一 (サイトウ ジュンイチ) 氏。

営業職だと自己紹介する斎藤氏の業務を伺うと、どういう訳かその多くはイベント対応が占めている。

「OUTPUT LIFE では取引先への積極的な営業を行っていません」と彼は言う。ブランド立上げから4年、「営業をしない」という選択をとってきた同社。

BtoBでは一般的に考えられない“営業”戦略の真意を探っていく。

株式会社 OUTPUT LIFE
https://outputlife.co.jp/
2016年設立。「家のモノを外に持ち出す」というコンセプトを基にしたキャンプギアブランドとして「OUTPUT LIFE (アウトプットライフ) 」をスタート。家の中でも使って楽しめるような素材感やデザインだけに偏らず、アウトドアを楽しむための機能を持ち合わせたギアが揃っている。

時代にマッチしたコンセプト

「OUTPUT LIFE」の由来について教えてください

− 齋藤氏コメント:ブランド名は、「家のモノを外へ持ち出す」というコンセプトに因んでいます。キャンプギアは通常、家の中ではあまり使われることがなく、普段はしまってあるという人がほとんどでしょう。

尚且つ場所を取るモノが多いので、「家で使えるモノにしたら場所も取らず、コストパフォーマンス的にも良いのではないか」という発想から生まれました。

今でこそ家でも外でも使えるアイテムを扱っているブランドやショップは多いですが、我々がOUTPUT LIFEを立ち上げた4年前はまだ珍しかったと思います。

ちょうどその頃からグランピングが流行り始めたのもあって、コンセプト的にも今後のニーズを感じられる良いスタートでした。

「BtoCtoB戦略」で売上を上げる

営業担当として売上のために力を入れていることは何でしょうか

− 齋藤氏コメント:「ブランド価値を上げること」です。アウトドア業界のユーザーは、ブランドを重視される方が多いと感じています。

自分のこだわりや個性を出したいといったニーズからブランドを選定して、ギアを揃えていく傾向があり、そういうところはファッションに似ていますね。

だからアパレル業界と同様にブランド戦略は最も重要なことのひとつで、ブランドの価値を上げていくことが売上を上げることに繋がっていると考えています。

− 齋藤氏コメント:営業担当の私がアウトドアイベントの出店担当を行うのも、その促進活動の一環だからです。

キャンプインのイベントに参加して実際に商品を体感してもらったり、他のアウトドアイベントへも頻繁に出店したりすることで、エンドユーザーとコミュニケーションを取る機会が増え、ブランドの認知が広がり、ファンを増やすことに繋がります。

実際にこうしたファンマーケティングの活動が実を結び、「OUTPUT LIFEの取り扱いはないか」というユーザーからの問い合わせがきっかけとなって取引を始められたショップがいくつもあります。

もちろん取引先の対応も行いますが、我々から新規顧客となるような企業に対して積極的なアプローチは行わず、このような「CからBに上げる“BtoCtoB”の戦略」を主軸にしているんです。

エンドユーザーの影響力の拡大

ファンをつくるためにどんなことを心掛けていますか?

− 齋藤氏コメント:ひとつはユーザーとのコミュニケーションです。キャンプインのイベントでは、実際のキャンプに参加してキャンプを通してユーザーに商品を体験してもらえるので、商品の特徴や良さが伝わりやすいんです。

そこで一人に購入してもらえると、仲間内やそれを見かけた別の人へと派生して、また商品を購入しに来てくれる。地道な努力ですが、一人一人とのコミュニケーションは大切にしています。

もうひとつはSNSで、Instagramは必ずチェックするようにしています。
イベント開催中は、商品に関するユーザーの投稿をリポストすると、それに気付いたユーザーもブランドを意識してくれますし、投稿を見た別のユーザーや業界関係者にまで注目の輪が広がります。

イベントは大きければ大きいほど影響力が拡大し、拡散効果も高いですね。

そうして実際に行っていることは細かいことですが、今は個々のエンドユーザーが持つ影響力が大きくなっているので、その小さな積み重ねが営業1人の生産性を高くしています。

ショップとの信頼関係

BtoBの営業活動を積極的に行わない理由があるのでしょうか

− 齋藤氏コメント:過去、我々のブランドに共感してもらえるようなショップを見つけるために業界関係者向けの展示会へ出展した経験もありますが、そもそも業界関係者向けのアウトドアの展示会自体少なく、その中で共感を得られる店舗に出会うとなると高い確率が望めず断念しました。

であれば「我々を求めるショップに見つけてもらおう」とBtoBを止め、エンドユーザーに発信をし続けることで、今のBtoCtoBのカタチが定着したんです。

今はアウトドアブームということもあって「とりあえず人気だから置いておこう」と一過性の商品として扱われる可能性も大いにあります。

しかし取引先とは、お互いに“とりあえずの関係性”ではなく“長く付き合える関係性”でいたいと思っています。

現にお声掛けしてくださった取引先とは良好な関係が築けていて、コーナー展開してくれるショップもあります。

そんな取引先のためにも「ブランド価値を上げる」ことに尽力し、売上を上げていきたいと思っています。

OUTPUT LIFE の商品を中心に売場を構成しているショップも多い

声が掛かって断る場合もあるということですか?

− 齋藤氏コメント:そうですね。我々ブランドへの共感と、長くお付き合いできるか、互いに寄り添ってブランドを一緒に育ててくれるショップであるかどうかの基準で検討します。

また、エリアのバッティングにも配慮しています。「“他にないモノ”を置きたい」と考えるショップの力になりたいので、取引希望のショップのエリアがバッティングした場合は、先にお付き合いのある取引先へ相談をします。

なるべく今取引のあるショップが売りやすい環境をつくりたいので、そこは大切にしていることのひとつです。

アウトプットしたいモノ

“他にないモノ”とは、具体的にどんなものでしょうか?

− 齋藤氏コメント:我々は業界では後発ブランドでもあるので、後発ならではの「大手ブランドがやらないような、ありそうでなかった商品」で差別化を図っています。具体的にはカラーリングや機能性、サイズ感が特徴です。

キャンプギアは似たものも多いので「あるといいな」と思えるプラスαのモノづくりを心掛けています。

イージーコット
一般的に組み立てが大変とされるコットだが、女性でも簡単に組み立てられる

− 齋藤氏コメント:モノづくりに関してだと、ギアと呼ばれる大型アイテムにこだわっています。

最近ではケースや小物を専門とするガレージメーカーも増えていますが、我々としてはテーブルやソファなどの大型アイテムにこだわって、OUTPUT LIFEをベースに商品をカスタマイズしてアウトドアライフを楽しむユーザーが増えてくれるといいなと思ってます。

エアグランプソファ:ファンの間ではオリジナルカバーやプリントを施して使われているそうだ

− 齋藤氏コメント:コロナ禍で“ベランピング”という言葉が浸透したように「家でも外にいるようなキャンプ気分を味わいたい」という需要が高騰しました。しかし、これがいつまで続くかはわかりません。

今後、起こり得るライフスタイルの変化に柔軟に対応できる商品の追求と、今まで大切にしてきたユーザーや取引先とのコミュニケーションを継続しながら、より愛されるブランドになっていきたいと思っています。

そうして、OUTPUT LIFEが提案するプロダクトを使うことで、モノだけではなく家での居心地の良さも含めて外に持ち出せるような、そんなブランドに成長していきたいです。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

アウトドア業界の転換期を越えるために

齋藤氏が話していた「イベント以外では基本的に直接ユーザーに商品を販売してないんです」という言葉に考えさせられた。

昨今のコロナショックによって多くのメーカーや企業が取り入れたDtoC (Direct to Customer) 。一見同じかと思えるOUTPUT LIFEの取り組みは、それとは全く異なる信念と真心に溢れる“コト”だった。

オンライン上での評価や口コミ、SNSを通してユーザーの声が広まりやすく、また個人の影響力が大きくなっている現代だからこそ、その真心の伝わる広さやスピードは今最も早いのかもしれない。

MMD TIMESでもこれまでにも取り上げているアウトドア業界。一時期のブームは落ち着いたが、カテゴリとしての定着を見せているのは間違いなさそうだ。

今後、この飽和した業界で“ブーム”としてでなく、「ひとつのカテゴリを代表するブランド」として地位を確立するための戦略が求められている。

この転換期を乗り越えられるメーカー、企業、そしてショップのあり方、それは各々が目指す「愛されるブランド」のカタチを見直すことから始まるのかもしれない。

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