2020.09.15.tue

ニコアンドチャンネルの裏側

Contents

需要の変化に即したSNSのカタチ

コロナショックで実店舗の集客がままならない今、ブランディングの一環としてYouTubeをはじめとした動画コンテンツに参入するセレクトショップが増えている。「2020年後半のセレクトショップの動向」でも触れたように、店舗誘致に活用できるオンラインツールとして動画マーケティングが注目され始めた。今回は、2020年6月にYouTube「ニコアンドch.」をリニューアルしたニコアンドを取材し、ブランドプレスを務める大塚健太郎 (オオツカケンタロウ) 氏に動画コンテンツの展望を訊ねた。

「ニコアンドch.」のコンセプトや制作の裏側、好評だったコンテンツなど、YouTubeを通してブランドの魅力をエンドユーザーに届ける手法に迫っていきたい。

niko and ... (ニコアンド)
https://www.nikoand.jp
20を超えるカジュアルファッションブランドを国内外で約1,400店舗展開する株式会社アダストリアが手掛けるセレクトショップ。服に加え、家具や雑貨、食、音楽、アートなど、様々なカテゴリーのアイテムをユニークな視点で集積。ライフスタイルを編集する「スタイルエディトリアルブランド」を目指す。
ニコアンドCh. (ニコアンドチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UC0ZvFIPdq0NO9U3bUxqEz5w
ブランドが提案する9つのキーワードである衣・食・住・遊・知・健・旅・音・TOKYOに基づき、アパレルや雑貨の紹介をはじめ、ユーザーのライフスタイルに新たな発見や喜びを提供する動画を配信する。2020年6月にリニューアル。

動画コンテンツの反響の変化

オンラインでの取り組みについて教えてください。

− 大塚氏コメント:ブランドサイトをはじめ、基本的なSNSは網羅しており、Instagramは約47.7万人、Twitterで約10.4万人、Facebookには約8.2万人のフォロワーがいます。 (2020年9月インタビュー時)

また大型店であるniko and …TOKYO店とniko and …mozoワンダーシティ店は、それぞれ店舗独自のInstagramを開設しています。niko and …TOKYO店のフォロワーは約7.4万人おり、公式とは別に店舗単体のアカウントとしては、なかなかの数ではないでしょうか。

公式Instagramでは毎週インスタライブを行っており、アーカイブ視聴を含む再生回数は1動画あたり万単位を誇っています。

ニコアンドが毎週配信しているインスタライブ

なぜニコアンドチャンネルを刷新されたのですか?

−大塚氏コメント:今春、コロナの影響で全店がクローズしていた頃、IGTVで大型店スタッフがファッションの小ネタや雑貨の使い方などの動画を積極的に配信しました。すると、想像以上に視聴者の反応がよかったんですね。

元々インスタライブの視聴回数が多く、動画コンテンツへの関心の高まりを感じていたこともあり、YouTubeを刷新することになりました。

niko and …TOKYO店が配信するIGTV

−大塚氏コメント:それまでの「ニコアンドチャンネル」は、キャンペーンやイメージ動画を格納していただけだったのですが、よりユーザーに響くコンテンツを提供していこうと2020年6月にリニューアルを行い、現在は毎週金曜に配信をしています。

店舗ごとの企画を伝える動画作り

ニコアンドチャンネルのコンテンツ作りのこだわりについて聞かせてください。

− 大塚氏コメント:ニコアンドは編集型のショップであり、ワクワク感のある店舗作りやコンテンツ作りを心掛けています。そのブランドの世界観をエンドユーザーに伝えるためには、写真よりも動画のほうが適していると思いました。ニコアンドチャンネルをリニューアルしたタイミングでは、今以上に外出が難しかった6月の段階だったこともあり、まずは店舗の魅力について発信していきたいと考えました。

niko and …TOKYOやniko and …mozoワンダーシティなどの大型店では、それぞれ独自の企画を展開しているんです。niko and …TOKYO店の場合、45日のスパンでコンテンツが変わる編集スペースを設けています。

大型店独自企画はそのままでは来店されたエンドユーザーの目にしか留まりませんが、店の中だけに留めておくのはもったいないと思ったんです。 それらの店舗独自の企画や魅力をもっと多くの人に伝えるため、YouTubeを通してレポートとしての発信を行いました。

niko and …TOKYO店の随時コンテンツが変わる編集スペース

− 大塚氏コメント:ブランドや企画の背景も発信していきたいと考え、愛知県にあるniko and… mozoワンダーシティ店で行った「LOVE NAGOYA」というイベントの開催時には、「niko and… mozoワンダーシティがコラボしている、大人気のカレー煮込専門店「鯱市」を突撃レポート!!」 という企画動画を店舗主体で制作しました。

「LOVE NAGOYA」は、地元の企業やお店とのコラボ商品を集積した、地域を一緒に盛り上げようという思いで始めた企画です。

カレー煮込専門店「鯱市」の企画動画

− 大塚氏コメント:突撃レポートを行った鯱市 (シャチイチ) は地元で人気のカレー煮込みうどん専門店です。 鯱市では、アパレルをはじめとする他社とのコラボは今回が初めてですが、企画を行った店舗の店長が熱心に通っているお気に入りの店だったこともあり、先方がこちらの熱意を汲み取ってくださって実現しました。YouTubeでは現地のショップスタッフが鯱市を直接訪ね、鯱市が誕生した経緯や歴史を紹介しました。

ブランドやアイテムのバックボーンを知ることで、さらに商品に興味が湧いてくると思うので、こういった裏側を紹介する動画は今後も投稿していきたいですね。

スピードと鮮度を意識した表現

YouTube動画を制作する上で大切にしていることはなんでしょうか?

− 大塚氏コメント:リニューアルしてすぐの時期は、リアルで即時性のある内容にこだわり、鮮度の高い情報を出すようにしていたので完全内製化で動画の制作を行いました。動画制作を外注すると時間も予算もかかるため、社内の動画チームをアサインし、基本的にショップスタッフに出演してもらっています。

エンドユーザーの話をたくさん聞き、彼らが求める潜在的な需要を理解しているので、スタッフは話題が豊富なんです。だから大型店の独自企画はトップダウンではなく、スタッフがアイデアを出し合い、実は動画だけでなく売場の什器も自分たちで作ったりしています。そういったスピード感を大切にすることで、コンテンツや売場の鮮度を保つことが可能になるんですよね。

リニューアルした時期と今ではまた状況も大きく変わりつつあるので、今後はニコアンドがブランドの軸として大切にしている「uni9ue senses (ユニークセンシズ) 」 (衣・食・住・遊・知・健・旅・音・TOKYO) を表現するプラットフォームにしていければと考えています。情報発信と言っても、様々なツールがあるので、それぞれの役割は意識して今後も発信をしていきたいです。

ニコアンドのフィルターをしっかりかけながら、YouTubeとして面白い、見応えのあるコンテンツを目指したいと思います。ブランドと繋がりのある、様々なユニークな人達にも登場していただきたいですね。

エンドユーザーの反応はいかがでしょうか?

− 大塚氏コメント:ニコアンドオリジナルのアウトドアファニチャー&ツールシリーズの「CITY CREEK」の商品をキャンプインフルエンサーの方に実際にご使用頂いた動画の評判が良かったです。2名の方にご協力いただき、それぞれ違った“おうちキャンプ”の楽しみ方を紹介しました。

「CITY CREEK」の商品を使った企画動画

− 大塚氏コメント:また、スタッフに登場してもらったコンテンツで言うと、スタッフのリアルな声を届けた「niko and …mozo wondercityのスタッフが本当に買った!SUMMER ITEM BEST 3をご紹介!!」もたくさんの方に観ていただくことができました。

お店にて、YouTube観ました!と声をかけて下さるお客様もいらっしゃったと聞いています。これからYouTubeをもっと盛り上げていきたいと思っているので、そういったお声は嬉しいですね。

SUMMER ITEM BEST 3の企画動画

目的に合わせたメディアの使い分け

今後挑戦したいことを教えてください。

− 大塚氏コメント:ブランドの世界観を発信していくのはもちろんのこと、今はInstagramの質問箱など、気軽にアンケートをとれるツールもあるので、それらも活用し、エンドユーザーが本当に求めている動画を作成したいと思っています。

また、それぞれのツールの強みや役割というのは今後もしっかり意識していきたいです。例えば、IGTVは新商品やお店のコンテンツを紹介するツールとし、YouTubeは「uni9ue senses」に絡めて、ブランドの個性やメッセージを発信するメディアにするなど、軸を持ちながらエンドユーザーの反応を見て随時進化させていくつもりです。

動画1本1本を丁寧に作って、エンドユーザーの皆様に「ニコアンドのYouTubeチャンネルって面白いよね!」と言っていただけるようなメディアにしていきたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

WEBエモーションという新たなチャレンジ

多くのセレクトショップがECを初めとするオンラインに活路を見出しており、その集客ツールとしてYouTubeなどの動画コンテンツに力を入れている。カタログやECでは表現できない情緒的な訴求を補填するため、今まで以上に発信を強化するセレクトショップは増えるだろう。

しかし大塚氏のインタビューでもあったように、リアル店舗でこそ得られるわくわく感、感動を重視していたニコアンドのようなブランディングのショップは、来店客数が予測不能となっている今、 その感動をどこでいかにして伝えられるかが課題となってくる。今回のコロナショックによる打撃は今後のリテーラーの新たな役割を考える、いい機会なのかもしれない。

「リアル店舗のこれからのカタチ」でも紹介した蔦屋家電+ (プラス) のように、リアル店舗の役割をただの「買い場」ではなくよりメディア化させ、今以上にプレミアムな体験ができる場としていく方法もある。

その為には、ショップスタッフが発信する動画コンテンツやその他SNS、EC、店舗などすべてのツールを融合させ、エンドユーザーにより深く世界観を伝え、感動を喚起させる必要があるだろう。そうすることで、ファンを増やし、EC売上に繋げていく、新たなリテールのカタチが見えてくるかもしれない。

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