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今、求められる展示会のあり方
ライフスタイル業界にもITの進歩が大きく関わりを見せている。ITの発展に伴って変わっていく、人々のモノへの価値観や生活観。エンドユーザーの変化に反応し、ショップも変化しなければならない。MMD TIMESではセレクトショップがネットワーク環境下でできる新しい施策や効果的な販売促進など、オンラインでの可能性を探っていきたい。
「ライフスタイル業界が考えるアフターコロナ」の座談会でも話題に上がったように、小売業界の間で「オンライン展示会」という言葉をよく耳にするようになった。以前からオンライン展示会の模索はしばしば行われていたが、昨今の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) <以下コロナ>流行による外出自粛の影響でその動きは早まり、バイヤーの需要が高まりつつある。
今回MMD TIMESは、今注目を集めるオンライン展示会というコンテンツに挑戦している企業、株式会社 藤栄が展開するブランド:FREDDY LECK sein WASCHSALON (フレディ レック・ウォッシュサロン) <以下フレディ レック>を取材した。
話を伺ったのは、同社事業開発部の鈴木 新 (スズキ シン) 氏。この展示会はブランドの日本展開10周年記念として、同社初のオンラインでの試みだ。そこから見えたオンライン展示会の可能性と課題は何か。初日の展示会を終えた後のインタビューで、その手応えを伺った。
FREDDY LECK sein WASCHSALON (フレディ レック・ウォッシュサロン) https://www.freddy-leck-sein-waschsalon.jp/ 「前向きなココロとライフスタイルをランドリーシーンから」をモットーに、ベルリンとトーキョーに実在するカフェ&コインランドリー。日本では提携先の株式会社 藤栄が2010年にFREDDY LECK sein WASCHSALON TOKYO (フレディ レック・ウォッシュサロン トーキョー) と、FREDDY LECK sein WASCHSALON HARAMACHI(フレディ レック・ウォッシュサロン 目黒原町店)を展開。ブランドの日本展開10周年となる今年の展示会はオンラインにて開催中 (2020年6月2日〜6月30日まで)。
オンライン展示会への挑戦
株式会社 藤栄とはどのような会社ですか?
− 鈴木氏コメント:株式会社 藤栄は家庭用品や家具・インテリアの総合商社で、今年創業75周年を迎えました。もともと荒物雑貨の卸・小売業として創業し、当時は戦後の物資不足で粗悪な品が多く出回る中、職人の手による良品を扱っていたこともあり百貨店との取引が拡大していき、現在に至ります。
フレディ レックの事業内容と日本展開までの歩みについて教えてください
− 鈴木氏コメント:ドイツではコインランドリーの普及率が日本の4倍と、人々の日常に寄り添った存在なんです。しかし、そのコインランドリーがどこもきれいでなく、オーナーのフレディ・レック氏は「コインランドリーは洗濯する場所なのに、それ自体がきれいで魅力的な場所ではない」という矛盾に目をつけ、フレディ レック・ウォッシュサロンを立ち上げました。
ヨーロッパでは人々が集い交流する社交場や応接間を「サロン」と言います。フレディ レックはコインランドリーでお茶や会話を楽しんだり、洗濯中の待ち時間に利用者のコミュニケーションが生まれる場をイメージして作り上げました。
− 鈴木氏コメント:もちろん場の提供だけではなく、洗濯機材などの実用品の充実も欠かせません。「ファインデザイン&ファインクオリティ」の理念と共にそれらの機能性や品質を大切にしているブランドです。
そんなフレディ レックのモットーや、私たちのルーツと通ずる品質重視の理念に共感し、業務提携という形で2010年6月4日にブランドを日本に展開しました。
来場型からリモート型へ
今回なぜオンライン展示会を開催することになったのでしょうか?
− 鈴木氏コメント:昨年の展示会が好評だったこともあり、当初は昨年同様HOTEL CLASKAを借りて開催予定でしたが、コロナの影響で中止になりました。
会場開催はできませんが、我々としては周年記念の6月4日のタイミングで何とか関係者の皆さまへこれまでのお礼と共に、今年のAWに向けてのご提案をしたいと考えていました。そこで、これからのウィズコロナ時代の展示会や商談のあり方の模索も兼ねて、今回オンライン展示会の開催を決めたんです。
展示会の概要を教えてください
− 鈴木氏コメント:10周年を記念したオリジナルコンテンツを設けて、オンラインで自由に回遊できるようにしてあります。参加者であるショップバイヤーや得意先企業の方々が、どのページからでも気軽に質問ができるようチャット機能をつけ、営業がすぐにリプライすることでリアル展示会のように会話できたり、その場で商品の購入希望数を入力して在庫の確保ができるようにしたことが特徴です。
ブランドが見据える今後10年のビジョン
コンテンツ内容は具体的にどのようなものでしょうか?
− 鈴木氏コメント:いくつか用意してあるのですが、中でも見所は今後の10年を見据えた新商品です。2020年は“THINK GREEN , THINK CLEAN”をテーマにして、より地球環境に配慮したランドリーアイテムをつくりました。
− 鈴木氏コメント:私たちはオープン当時から「長く使える良いもの」の提供をテーマに商品開発をし、改良を重ねて10年を歩んできました。例えば、近年「脱プラ」の風潮がある中で我々のアイテムはプラスチック製品を多く含みます。しかし一概に「プラスチックは悪だ」と言えないことをもっとアプローチしたいと思っています。
実際、私たちの提供するプラスチック製品は、その品質の良さから長く使い続けることが可能です。ひとつのモノを破棄せず長く使うことは環境配慮につながっているんです。
− 鈴木氏コメント:2015年、国連で採決されたSDGs (持続可能な開発目標) を意識し、これからの10年は今まで以上に、綺麗に長く使える自然に優しいものを提供し、商品の品質の良さや環境への配慮も同時に訴求していきたいと思っています。
ライフスタイルが繋ぐパートナー
10周年ならではの企画はありますか?
− 鈴木氏コメント:「10 brand collaborations」と称して、洗濯をキーワードに親和性の高い10のブランド企業とコラボアイテムを発表しています。
例えば、株式会社グラフィコとコラボしたオキシクリーンとFRUIT OF THE LOOMとのコラボTシャツは、既に数量限定でリリースをしています。どちらの企業も以前「洗濯ナイト」という我々主催のBtoCイベントで交流を開始し、今回のコラボ協力も快く受けていただきました。
− 鈴木氏コメント:また、対談企画において、スタイリストの石井佳苗氏に ”フレディ レックのある暮らし” について語ってもらいました。石井氏があるWEBメディアで我々の商品紹介をしているページを拝見して、今回お声掛けしました。そしたら偶然、社内で好評だった他社広告のスタイリングを石井氏が手掛けたものだと知って驚きました。「ライフスタイル」をキーワードに異業種の企業や人と繋がっていけるのだなと実感しましたね。
新たな試みから見えた新たな可能性
展示会を開催してみての感想や手応えを聞かせてください
− 鈴木氏コメント:昨年の展示会の10倍の来場数を目標に掲げていて、幸先は好調です。メリットは、会場をオウンドメディアに置けるところです。情報はクラウド管理しつつ、私たちも来場者も双方に画面上で確認できるので、情報提供や交換のスピードが圧倒的に速くなります。もちろん遠方の取引先へも同様の体験を提供できます。
コミュニケーションに関しては、会場を借りて限られた期間の中で開催する縛りがないので、混雑なく丁寧に商談できます。長期で構えられることはオンラインならではの良いところですね。一方で、チャット機能は必然的に受けの姿勢になってしまうため、新規取引先・バイヤーへのアプローチも含め、開催者側から話しかけられる仕組みづくりが課題だと思っています。
インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。
オンラインとオフライン、それぞれの利点
コロナショックにより加速したオンライン化の変化にいち早く反応したフレディ レック。今回の取材から、インテリア業界全体における「オンライン展示会」の可能性や今後の課題を知ることができた。
「2020年後半のセレクトショップの動向」でも伝えたように、既にライフスタイル業界では、エンドユーザーに向けてのInstagramなどのSNSを使った商品PRやYouTubeでの動画配信などプロモーション活動を強化し、オンライン施策を積極的に取り入れ始めている。これはB to Cだけでなく、B to Bビジネスにも必要な施策だと言えるだろう。
政府が公表した「新しい生活様式」とされる3蜜回避や新たな働き方に合わせて、メーカーとショップの関わり方も変化を続けいくだろう。 例えばオンライン展示会やビデオ会議、リモートでの商談を取り入れることで、移動時間の短縮や作業効率の向上、決済や判断までのスピードの早さといったメリットがある。オンラインでの商品プロモーションは、認知拡大だけでなく遠方のバイヤーとメーカーの交流が可能になる。
さらに、バイヤーやメーカーがさまざまな展示会に手軽に参加でき、新たな商品やサービスの発見にも結びついていく。今後は商品そのものだけでなく、切り口や編集で各ショップの独自性を持たせることが、これまで以上にキーになるだろう。
コロナ禍での生活課題を解消するために次々に新しいサービスが生まれ、オンライン化の流れが進む一方、未だオンラインでは味わえない体感があるのも事実だ。
それは、展示会などでバイヤーが実際のモノを見て触って選ぶ楽しさや、人との触れ合い、その場所でしか味わえない空間のエンターテインメント性だ。それらの感動が今後どうやって、どのようなものに代替えされていくのか、オンラインとオフラインはうまく融合していくのか、今後の市場に注目したいと思う。
「ライフスタイル業界が考えるアフターコロナ」でも取り上げた、合同展示会MONTAGEが運営するオンライン展示会「MONTAGE.ONLINE」もあわせて見てみたい。