2020.03.24.tue

セレクトショップが見据えるアウトドアブーム

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他にない商材と店舗立地、接客システムを確立した「plywood ニホンバシ」

昨年10月MMD TIMESに掲載した「アウトドアブームの行方」という記事は、ご覧いただいただろうか。この記事では、アウトドアアイテムを取り扱うメーカーやブランド側から見た今後の“アウトドアブームの行方”について話を聞き、特集した。

そこで次に気になるのは、それら多くのブランド側が提供する商材を直接エンドユーザーに届ける小売店=セレクトショップ側の見解だ。おそらくメーカーやブランドとは異なる、セレクトショップ特有の見解が得られるのではないだろうか。

今回、MMD TIMES取材班は、株式会社ベニヤが運営するアウトドアギア、いわゆるキャンプギア専門店である「plywood ニホンバシ」を訪問した。

知る人ぞ知る、こだわりのアウトドアギア専門店として名高い同店の詳細やセレクトショップから見たアウトドアブームについての見解を得るため、店長の安藤 樹氏にインタビューを行った。

インテリア・雑貨店からアウトドアギア専門店へ

「plywood ニホンバシ」について教えてください。

− 安藤氏コメント: 「plywood」はインテリア・雑貨のセレクトショップとしてスタートしました。母体のEC事業として運営していたインテリア・雑貨、家電製品などを中心に販売するECショップ「plywood」の実店舗として開店したのが始まりです。

店舗の所在地も最初は目黒にあり、その後に自由が丘に移転、そして約3年前にここ、東日本橋エリアに「plywood ニホンバシ」として移転オープンしました。

オープン当初は、まだインテリア・雑貨のセレクトショップとして運営を行っていて、アウトドアギアの取り扱いはありませんでした。

plywood ニホンバシ
http://www.veniya.co.jp/
「plywood(プライウッド )」ならではの視点で厳選した、ニッチでこだわりのあるアイテムをそれぞれのライフスタイルに合わせて提案するキャンプギアショップ。新進気鋭の若手クリエイターや職人が集まり、自由な表現を発信している“蔵前”や“人形町”にほど近い“東日本橋”エリアで、カスタマーのこだわりや欲求を満たす、他ではあまりみかけない“作り手のこだわり”が詰まったアイテムを展開する。 

それがなぜキャンプギアのセレクトショップになったのですか?

− 安藤氏コメント: 代表の趣味がアウトドアだということと、さらにギアやグッズなどの「モノ好き」というのが高じて、アウトドアブランド「アウトプットライフ」の取り扱いをスタートさせたのがきっかけです。

今ではアウトプットライフの都内唯一のオフィシャルショップとなり、フルラインナップが揃うショップでもあります。そこから徐々にインテリアや雑貨からアウトドアギアに移行という道のりで、現在は約80%がキャンプギアの取り扱いになりました。今後は、キャンプギアを100%にする予定で進めています。

「アウトプットライフ」以外のアウトドアギアはどういった商材がありますか?

− 安藤氏コメント:基本的には代表が選んでくる商材なのですが、キャンプギアの中でも、ニッチな、こだわりのある商材を取り扱っているので、ビギナー層からベテラン層まで、レベルに関係なく楽しんでいただけると思います。

特に、つくり手の思いが詰まっているアイテムが多いですね。アウトドアが趣味である代表自身の体験や経験から、アウトドア好きならではの視点で、好ましいと感じた商材を選んでいます。

そのため、都内にある他のアウトドア専門店にはあまりないガレージブランドの商材なども多く、レベルや趣向に関係なく、新しい出会いや発見といった点でも楽しんでいただけると思います。現在は常時約3000点のアイテムを取り扱っています。

ガレージブランドを多く取り扱う中で、集客はどのように行なっているのでしょうか?

− 安藤氏コメント:「plywood ニホンバシ」の存在を知らない方に対しては、SNSの発信ですね。特にInstagramでの発信に力を入れています。なるべく使用シーンやアウトドアでの新しい活用方法を紹介したり、自宅でも使用できるといった提案を発信するように努めています。

店内の写真撮影をOKにすることで、お客様がSNSに発信してくださり、最近は、友人や知人のSNSで見て気になったといって来店されるお客様も増えています。

アウトドアという1つのカテゴリーのなかで、さらにニッチなガレージブランドなどのギアを商材にしている特性上、ただギアを紹介するだけのPR方法だと、それは単なるギアの説明でしかありません。

ギアの説明やスペックなどの詳細は、そのブランドのWEBサイトを開けば誰でも簡単に調べることができます。私たちはその商材を仕入れて取り扱う小売店・セレクトショップ側なので、単なる商品説明ではなく、一歩先の提案、“こういった使い方もできるよ”というプラスαの提案を心がけています。

探しているモノではなく、今使っているモノや状況を尋ねるというアプローチ

接客において、特に大切にしていること、意識していることはありますか?

− 安藤氏コメント:アウトドアとは結びつきにくい、東日本橋エリアという立地の特性上、そこまで来客は多くありません。だからこそ一人ひとりにゆっくりとヒヤリングを行い、疑問や不安を解決するための提案を行うことができます。

ECショップではなく、わざわざ実店舗に足を運ぶという意味は、自分の目で見て確かめたいといった部分や何かしらのプラスαの発見など、自分の気になっている点を解消するためだと感じています。

アウトドア=道具という特性上、初めて触れる商材に関しては、組み立て方や使い方を説明する必要があるので、必然的にコミュニケーションが大切になってきます。

− 安藤氏コメント:これもキャンプギア特有の接客要素かもしれませんが、例えば、お客様に声をかける時、個人のレベルにもよりますが、“どんなテントをお探しですか?”ではなく、“今のテントは何を使われていますか?”や“どんな楽しみ方をしているのですか?”といった具合に、今の状況を聞き出すようにしています。

そうすることで、すでに持っている他のアウトドアギアとの親和性や個人のスタイルなどを考慮した提案ができますし、お客様の疑問や心配事の解消にもつながっていると思っています。

ディスプレイについてはどうでしょうか?

− 安藤氏コメント:とにかく頻繁にディスプレイ変更をしていますね。というのも、あまり知られていないマニアックなガレージブランドの商材が多いため、常に配置替えを行うことで、より多くの商材に出会ってもらえるよう心がけています。

また、売れ筋の商品をあえてディスプレイから引いてしまうこともあります。理由は、お客様とのコミュニケーションが基本のお店ですので、あえて目立つところに出す必要がなく、会話の中から提案すべきモノだと察知できれば、ストックから出してご案内するようにしています。

それぞれが楽しみたいように楽しめる土壌が整ってきた

専門店としては昨今のアウトドアブームをどう感じていますか

− 安藤氏コメント: アウトドアブームとうたわれていますが、ブームはいまや「アウトドア」や「キャンプ」という、カルチャーやライフスタイルのひとつのカテゴリーとして定着し、一過性のものでなくなっていると思います。

90年代のアウトドアブームは、流通しているアウトドアブランドも少なかったため、みんなが一斉に同じブランドのギアで単純に「キャンプ」楽しむ、という比較的短調なものでした。

今回のアウトドアブームでは、さまざまなブランドから多種多様なギアが登場し、選択肢がどんどん広がってきています。ユーザーそれぞれのこだわりやスタイルを反映できる商材が増えているので、これまでの“みんなで一緒に楽しむ”という流れに加えて、“個々でも楽しむ”という新しい流れが誕生しています。

それぞれがオリジナリティをもって、自由に楽しめるようになってきたんですね。

− 安藤氏コメント: 例えば、大人数で行くキャンプもひと昔前に比べて少し変化してきたと感じています。以前は、同行したみんながひとつのテントで一緒に寝るということが一般的でしたが、最近は大型の宴会幕を中心にして、寝るのは個々で持ち寄ったテントを使用するというように、キャンプの楽しみ方も自由になってきているんです。

グランピングなどの便利で快適さを重視するキャンプスタイルも依然人気ですし、軽装で臨むブッシュクラフトといわれるような自然環境を生かしたアウトドアなど、ありのままの自然の中で不便さを楽しむキャンプスタイルも人気です。

快適でおしゃれな方向に向かうのか、ありのままの自然と不便を楽しむのか。今後、二分化されていくのではないかと考えています。

今後さらに変化していくアウトドアブームの中で、オススメのアイテムはありますか?

− 安藤氏コメント: 例えば、このアウトプットライフのイージーコットは、ビギナーからミドル層に好まれそうなアイテムだと思います。

これまでの従来型コットは、ファブリックにサイドのフレームをはめ込む仕組みが主流でしたが、その作業にはものすごく強い力が必要で、男性でも苦労していました。

でも、このイージーコットはその煩わしさを払拭していて、足元のレバーを踏むだけで簡単に設営ができるんです。ギアをあまり使ったことのないビギナーでも簡単に設営できて、簡単を求めるミドル層にも喜ばれるのではないでしょうか。

耐荷重を150kgまで上げることで、本来の1人が寝るという用途だけでなく、ベンチや物置としてなど幅広い使用も可能になった、OUTPUT LIFE EASY COT(アウトプットライフ イージーコット)
AC電源、DC電源、ガス缶と1台で3種類の電源が使い分けられる、DOMETIC ポータブル3WAY冷蔵庫 コンビクール(ACX35G)

− 安藤氏コメント: ミドルからコア層に向けのこだわりの商材としては、ドメティックのポータブル3WAY冷蔵庫でしょうか。

電源がなくてもガス缶一本で冷やせるクーラーボックスで、冷蔵庫とクーラーボックスの中間といったところ何ですが、食材や飲料を必要な分だけ、その都度冷やすことができる点が画期的で注目されています。旅の新たなスタイルや暮らし方としても今、注目されているVANLIFE(バンライフ)からの需要も見込まれますね。

軽量かつコンパクトな折り畳み式焚き火台グリルの「ウルフアンドグリズリー ファイヤーセーフ」も、ミドルからコア層向けですね。構造が単純なため、セットアップも簡単です。ミドルからコア層が求める、より単純な構造、より簡単で便利に使える、より軽量でコンパクトといった要素の多くをクリアしているギアなので親和性は高いと多います。また、多くの焚き火台グリルのなかで、プロダクトデザインという観点からみても美しく磨かれたギアだと思います。

機能性だけでなく、プロダクトとしての見た目の美しさを兼ね備えた、Wolf&Grizzly Fire Safe(ウルフアンドグリズリー ファイヤーセーフ)

最後に、ビギナー層、ミドル層、コア層の趣向の違いについて教えてください。

− 安藤氏コメント: ビギナー層というのは、このアウトドアブームで連れ出された人達が、自分でもギアを揃えて行ってみようと動き出しているといった感じでしょうか。まだ実際にギアを使ったことがないから、何が不便で、何が便利か分かっていない。だから、見た目や話題を重視したモノ選びの傾向にあると感じます。

ミドル層は、実際にギアを使用してみて、何が不便で、何が便利なのかが分かってきた段階。見た目重視ではなく、機能性や実用性重視。より簡素なプロダクトで、簡単・便利に使えるモノを求める傾向にあると思います。

コア層に関しては、気になるモノやコトを一通り体験し、その中で自分の好きなコトや、こだわりに特化していく人達。例えば、焚き火が好きなら、焚き火台は使わず、石を積むところから始めて、拾った薪に着火器具を使わずに火をつけて自分で火を育てていくといった自然に近い状態で、不便を楽しむといった傾向にあるように思います。

先ほどお話した「快適でおしゃれに楽しむ」と「ありのままの自然と不便を楽しむ」というアウトドアブームが二分化していく中で、それぞれの層が求めるものを見極めていくことが大切ですね。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ブーム継続=多様化という構図に、いかにして対応するか?

今回の取材を通して感じたことは、アウトドアブームはこれからも続いていくだろうということ。しかし、そのブームは次の段階、新しいステージへと移行していて、それぞれのユーザーが好きなスタイルでアウトドアを楽しむという、多種多様なアウトドアへと広がりをみせている。

そんな中で「plywood ニホンバシ」は、その流れをいち早く察知し、アウトプットライフやガレージブランドなど、他店では出会うことのできない商材を取り扱い、現在のユーザー特有のニーズにもしっかりとフォーカスしている。競合を避け、差別化も図っている。また、店舗に関しても、来店客一人ひとりとのコミュニケーションに時間を費やすことができる立地や販売システムを確立していると感じた。

今後も多様化していくと見られるアウトドアスタイル。その変化に、どう対応していくのかが今後のアウトドアビジネスにおいて需要なキーワードとなるだろう。

どの層に、どうアプローチしていくか、これはアウトドアビジネスに限らず、消費者が多様化していく中で業界全体としてテーマとして考えるべき課題でもある。「plywood ニホンバシ」の事例を参考に、自社の方向性のあり方を見つめ直してみることが、セレクトショップのこれからにとってもひとつの発見になるのではないだろうか。

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