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顧客のニーズを汲み取って明かりを照らす「ARTWORKSTUDIO TOKYO SHOWROOM」

メーカーが自社ブランドの魅力を伝える場として、商品を展示するショールームが活用されることは多い。写真だけでは伝えきれない商品の空気感、質感、使い心地などを実感してもらうには、実際に商品を手に取ってメーカーの説明を受けられるショールームは格好の場所といえそうだ。

しかしながら、単純に商品の良さをアピールするだけでは、顧客の心を動かすことは難しい。

相手に「この商品が必要だ」と思わせるような提案や、「この人の話なら聞きたい」と信頼されるような接客は、ショールームのみならずセレクトショップにも求められているのではないだろうか 。

照明器具を中心とした神戸のインテリア雑貨メーカー「ARTWORKSTUDIO」は、商品の魅力を直接伝えられる場として都内に「ARTWORKSTUDIO TOKYO SHOWROOM(アートワークスタジオ東京ショールーム)」を設けている。

照明というインテリア業界の中でもニッチな商品を展開する上で、顧客にどのような提案・接客を行っているのだろうか。セールス担当としてショールームで接客を行う齊藤愛氏へのインタビューから、“顧客から信頼される提案・接客とは何か”を学んでいきたい。

直営店ではない、ショールームというカタチがもたらす効果とは

まずは「ARTWORKSTUDIO(アートワークスタジオ)」について教えてください。

− 齊藤氏コメント: アートワークスタジオは、兵庫県神戸市に本社を置く照明や家具・インテリア雑貨のメーカーです。

オリジナルの照明は、デザイナーでもある弊社代表の金野がデザインを行い、自社専用の金型で一から作り上げています。手間もコストもかかりますが、パーツの細部までこだわることで、見た目の良さだけではなく機能性にも優れた独特のフォルムを表現しています。

私たちが目指しているのは、お客さまの感性に響くモノづくりです。

ARTWORKSTUDIO(アートワークスタジオ)
http://www.artworkstudio.co.jp
神戸発の照明・家具・インテリア雑貨のメーカー。全てのプロダクトデザインを代表の金野達夫氏が手がけ、機能性と美しさにこだわったオリジナリティのある商品は、インテリアを通じて心地いい暮らしのスタイルを提案する。1997年の創業以来、変わらぬ想いでものづくりに挑んできた同社は、オリジナルデザインの照明は小さなパーツにもこだわり、自社専用の金型からつくりあげることで、独自のフォルムと世界観を生みだしている。 

こちらのショールームはどんな場所なのでしょうか?

− 齊藤氏コメント:このショールームでは、アートワークスタジオで取り扱うアイテムを一堂に展示しています。1階と2階のふたつのフロアに分かれており、それぞれの照明がどんな空間に合うかといったご提案から、器具の取り付け方法など、一般のお客様からプロユースの方まで幅広く対応を行なっています。

実際にプロダクトに触れていただくことで、一般のお客様も、バイヤーや建築・コントラクト関係のお客様にも、よりリアルな利用シーンがイメージしやすいような空間を意識しています。

ARTWORKSTUDIO TOKYO SHOWROOM(アートワークスタジオ東京ショールーム) 
http://www.artworkstudio.co.jp/showroom/
都営新宿線岩本町駅からほど近い場所にある、アートワークスタジオの取り扱いアイテムを一堂に展示するショールーム。オリジナルのペンダントライト・シーリングランプ・ウォールランプ・デスクランプ・フロアーランプなどが揃う。予約制で、個人・法人問わず利用可能。 

神戸の会社がなぜ東京にショールームを作ったのでしょうか?

− 齊藤氏コメント:一番の理由は、本社のある関西圏のお客様以外にも、実際に商品を手に取っていただく機会を増やしたいと思ったからです。

1997年のブランドのスタートからさまざまな種類の器具が蓄積されていく中で、店頭だけではすべての商品を網羅するのが難しくなってきていました。

関西エリアでは神戸と大阪に「Transit.(トランジット)」というライフスタイルショップ型の直営店舗を5店舗展開しているんですが、関東にはそのような店舗がないんです。関東の取引先様からも「実物を見て選びたい」というお声を多く頂戴しており、それにお応えするカタチで東京にショールームをオープンするに至りました。

関西エリアと同じショップではなくショールームにしたのはなぜですか?

− 齊藤氏コメント:ショールームという形を選んだのは、直営店のない関東にも、インテリアショップやライフスタイルショップなどでアートワークスタジオの商品を扱ってくれているという下地があったからです。

販売する場所を増やすより、もっと商品の魅力を直接伝えられる場所と機会が必要なのではないかと思ったんです。

コミュニケーションに特化したショールームという場所を作ることで、展示会に来られない方や近くに店舗がなかった方たちがいつでも気軽に商品を見に来て頂ける場になっていると思います。

マニュアルにはないリアルな視点の情報を伝える

どんな方がショールームに来られるのでしょうか?

− 齊藤氏コメント:施主様やオーナー様、設計関係の方などインテリアへの知識が深い方から、初めて照明器具を選ぶ方まで幅広くご来店いただいています。

法人のお客様では、インテリア系のセレクトショップや建築関係の方が多く、デザインの組み合わせについてのご相談をよくお受けします。そのほか、照明器具専門のバイヤーの方もいらっしゃいます。

一般のお客様では、カタログやホームページなどをご覧くださって、実際の照度やサイズ感を知りたいとご来店くださる方が多いです。そういった方々には専門的なことよりも、実際のライフスタイルに即した提案をメインに行なっています。

さまざまなお客様への提案で心がけていることはありますか?

− 齊藤氏コメント:ショールームにはさまざまな目的でお客様がいらっしゃるので、お話をお伺いし、来店して下さった方の目的に合ったご提案ができるように心掛けています。

例えば「明るさは足りますか?」という質問は非常に多いのですが、「このワット数なら〇畳分の明るさです」というようなマニュアルのような返答はしていません。

選んで下さった照明の明るさが設置したいと希望されているお部屋の広さと合わない場合でも、それを否定してしまうのではなく、間接照明の提案をしたり、電球の種類を変えるなど、補足したりアレンジすることで出来るだけ希望を叶えられるようなアドバイスをするようにしています。

条件に合う別のアイテムを勧めるのではなく、選ばれたアイテムを活かせる提案をしているのですね。

− 齊藤氏コメント: メーカーだからこそわかる知識やできるアドバイスというものもあると思うので、「シェードがガラス製のものなら明かりが全方向にしっかりと広がるので、より明るく感じることができる」とか、「寝室に置く照明は、直接光源が見えないデザインの方がよりリラックスできる」というような情報をきちんとお伝えすることも大切だと思っています。

一般のお客様と法人のお客様では、提案の仕方に違いはありますか?

− 齊藤氏コメント:このショールームがオープンする前、私は直営店で店舗スタッフとして働いていました。

現在はショールームで法人の方に向けて接客をする中で、B to CとB to Bでは共通する点もあれば、提案の内容が変わると実感する点もあります。たとえば、エンドユーザーに対してはその方が住む環境を意識した提案をしますが、B to Bの場合はショップや施設のさらにその先にいるエンドユーザーのことを考えた提案が必要になります。

どんなユーザーを対象にしているかによっても提案する商品・シーンは変わってきますし、「店頭で接客する際にこんなことを伝えると良い」といった、エンドユーザー向けにはないようなご案内をすることも増えました。

ショップスタッフの時とは異なる知識や接客も必要なんですね。

− 齊藤氏コメント:そうですね。そういう部分もあるんですが、個人であれ法人であれ、共通しているのは相手の方としっかりコミュニケーションを取ることだと思います。

個人のお客様の場合は「ここに置くための照明が欲しい」という明確な目的がある場合が多く、対面でお話をしながらその方のパーソナルな部分を引き出すことで、よりご希望に合った提案ができます。

法人のお客様も同様で、「どんな人に売りたいか」「どんなお店・空間にアートワークスタジオの商品を入れたいのか」を、いかに引き出すかが重要ですね。「こんな商品が売れています」という提案ではなく、より店舗の個性に合ったもの、より良い店づくりをするための提案を常に心がけています。

カタログで利用シーンを訴求し、イメージを具体化する

カタログが雑誌のようでカッコイイなと感じたんですが、意識している点があるのでしょうか?

− 齊藤氏コメント: アートワークスタジオのカタログは、デザイナーである代表の頭の中にあるモノをカタチにしているので、コンセプトブックのような意味合いが大きいかもしれませんね。

見た人がその商品がある空間をイメージしやすいよう、イメージ写真を大切にしています。商品だけに焦点を当てるのではなく、全体の世界観を大切にした空間演出をメインにしているのが特徴ではないでしょうか。

2020年に発刊されたカタログのテーマは「CHILL OUT」です。この言葉には「落ち着いた」や「くつろいだ」といった意味がありますが、メーカーとしてはその言葉自体には意味を持たせ過ぎず、皆さんそれぞれのリラックス、くつろぎのイメージに委ねられたらと思っています。

定番商品は「作る」ものではなく「支持され続ける」もの

アートワークスタジオの商品で人気の照明はどんなものでしょうか?

− 齊藤氏コメント:西海岸のテイストからフィーチャーされた「Fisherman’s-pendant(フィッシャーマンズペンダント)」は、幅広いテイストの空間にも合う普遍的で万能なデザインが定番としてずっと人気です。

− 齊藤氏コメント:雰囲気が少し似ているのですが、「Railroad-pendant(レイルロードペンダント)」という商品も、より今の時代らしくヨーロッパ風のテイストにも合うので安定して人気がありますね。

創業から23年が経ちましたが、移り変わりの早い今の時代でも、支持され続ける商品が多いことはアートワークスタジオの強みでもあると思っています。

古い映画のワンシーンに出てきそうな駅舎のライトをイメージしたという右:「Railroad-pendant(レイルロードペンダント)」と、ビンテージ風に仕上げたホーロー製の左:Fisherman’s-pendant(フィッシャーマンズペンダント)
電球のフォルムや光そのものの美しさを楽しむシンプルなのに存在感を放つ「Laiton-pendant(レイトンペンダント)」

− 齊藤氏コメント:当社の商品は金型から製作しているので、過去の金型を応用して別のパーツに組み込んだり、新商品に活かされたりしていることも多いんです。

同じく定番商品の「Laiton-pendant(レイトンペンダント)」にしても、ソケットだけのデザイン自体は量販店でも見かけるものですが、あえて金型を取り細部を整えながら作っているので、シンプルでありながらも細部にブランドの細かいこだわりを感じ取っていただけるのではないでしょうか。

私たちとしても「定番商品にしよう」と思ってモノづくりをしているのではなく、「お客様に認知され、支持されているものをなくさない」ということを続けてきた結果が、多くの商品を長く愛してもらうことへと繋がり、そういった商品たちが定番になったのだと思っています。

ショールーム=商品を見せる(SHOW)場所だけではない役割

セレクトショップには、どんな風にショールームを活用してほしいですか?

− 齊藤氏コメント:デザイン、サイズ、質感ももちろんですが、やはり明かりの灯り方は実際に見ないと感じ方がわからないと思うので、ECストアなどがメインで実店舗を持たないショップの方には、自社のショールームと思ってお客様をご案内いただくのも歓迎します。

また、実店舗で照明の販売により力を入れて行きたいというショップの方にとっては、器具に関する情報共有の場になると思います。ショールームを通して販売力強化や新しいプロダクトの開発に繋がれば嬉しいですね。

ドライフラワーを使用したリールの束ね方などは、ショップでの展示にも活かせそうだ

ショールームに来る方によって、商品をチェックするポイントに違いはありますか?

− 齊藤氏コメント: 建築業界の方は、商業施設やショップの中で図面を引いて、そこにどんな家具を入れるかを目で見て確かめるために来店する方が多いです。皆さん、器具の細かい動きまで気にされています。

セレクトショップの方がチェックするのは展示方法。コードのまとめ方や、他のインテリアとの組み合わせなど、器具そのものだけではなくディスプレイもチェックしている方がとても多いです。ショールームではパネルやグリーンなども照明と合わせてコーディネートしていて、「このまま店舗に導入したい」というリクエストがあれば対応できるようにしています。

VMD(ビジュアルマーチャンダイジング:視覚表現を中心とした多様な演出で、購買意欲を喚起するマーケティング手法)の観点からも参考にしていただけているようです。今後の一つの目標として、ショップスタッフの方にも気軽に足を運んでいただいて、お店作りの参考にしていただけたらと考えています。

ショップに寄り添い店づくりをサポートする

ショップスタッフとしての過去の経験が、今に活かされていると思うところはありますか?

− 齊藤氏コメント:取引先の向こうにいるエンドユーザーを意識した、店舗に寄り添った提案力というのは、直営店で接客をする中で培われたものだと思います

必要だと感じれば、他社の製品を勧めることもあります。そのために他社製品の資料も揃えていて、家具メーカーやファブリックメーカーを紹介することもあるんです。セレクトショップではアートワークスタジオ以外の商品も扱っていますから、今後は当社の製品を入り口にしたトータルコーディネートの提案もできたらと考えています。

メーカーのショールームなのに他社の商品を紹介することもあるんですか?

− 齊藤氏コメント:確かに驚かれる方も多いんですが、自社の商品を売りたいという気持ちよりも、“ショップが売りたいもの”がどうやったら売れるか?を一緒に考えて、そのお手伝いをするような姿勢でいたいんです。

そういったことができるのも、私たちのブランドを理解し、支え合ってくれている他社との関係性がしっかりと築けているからであり、また、そういったことがこのアートワークスタジオ東京ショールームの役割だと思っています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

心に響く提案をするためにセレクトショップができること

齊藤氏のインタビューからは、常に個人と法人両方を相手にし、時には他社の製品まで取り入れながら、それぞれに合わせた提案を行う柔軟な姿勢を感じることができた。

具体性があり、メーカーとしての専門的な知識も盛り込まれた提案。さらに、使用しているシーンを想像できるような丁寧な接客を心がけることで、顧客の信頼を得てきたのだろう。

セレクトショップとしても、アートワークスタジオ東京ショールームの高い提案力からは学ぶことが多そうだ。商品のスペックを語るだけではなく、エンドユーザーとコミュニケーションを取り、本当に必要としているものを引き出すことで、初めて相手の心に響く提案ができるのかもしれない。

日頃から相手の声に耳を傾ける丁寧な接客を心がけるのはもちろん、顧客が何を求めているかに目を光らせ、幅広い商品知識を身に着けておきたい。そうすることで、より高い提案力が培われていくのではないだろうか。

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