2020.02.25.tue

トレンドに捉われない考え方とモノづくりとは?

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トレンドに流されることのないモノづくりで存在感を放つ「WEST VILLAGE TOKYO」

私たちが身を置くファッションやインテリアという業界において、「トレンド」というものは切り離すことのない要素の一つである。では、人がモノを選ぶとき、本当に重要だと考えるのは果たしてそこなのだろうか?

新たな商品を創り出すときや展開するとき、もちろんトレンドを意識することや、世の中の流れや傾向を取り入れることは必要だろう。しかし、トレンドばかりを重視した結果、ブランドの方向性がブレてしまったり、個性がなくなったりしてしまうこともあるのではないか。

流行り廃りの激しい現代において、メーカーはものづくりとどう向き合っていくべきか?今回MMD TIMESは、インテリアプロダクトメーカーであるWEST VILLAGE TOKYO代表の嶋谷一人氏にインタビューを行った。インテリアやキッチン雑貨、照明などのオリジナル製品の開発や輸入販売を手がける同社が、魅力的なアイテムを生み出すアイデアの源泉を探るとともに、嶋谷氏の業界の未来に馳せる想いについて紹介していきたいと思う。

自分の頭で考え、自分のペースに合わせたモノづくり

WEST VILLAGE TOKYO (ウエストビレッジトーキョー) 
https://www.wvt.jp/
「ライフスタイルを華やかに」をテーマに、オリジナルデザインのインテリア雑貨の企画・販売・製造や、国内外を問わず優れたインテリア雑貨の輸入を行うプロダクトメーカー。全国のライフスタイルショップ、専門店、百貨店などへの卸売のほか、展示会、店舗開発等のコーディネートも行っている。

WEST VILLAGE TOKYOを立ち上げたきっかけを教えてください

− 嶋谷氏コメント:僕はもともとインテリアショップのスタッフとして接客や販売をしていました。お店でエンドユーザーと直接やり取りする中で、次第に「もうちょっと市場にこういうものがあったらいいな」とか「ここがこうだったらいいのに」と考えることが増えていった。

前の会社の中でもモノづくりの始まりみたいなことをしていたんだけど、そこから、自分の発想でモノを作りたいという思いが強くなって、それを本格的にやっていくため、今から7年前に会社を立ち上げました。

僕自身もインテリアが好きでエンドユーザーとして自分の部屋にインテリア雑貨を飾るときに感じたことや、ショップスタッフとしてお店のディスプレイや販売をしていた経験がきっかけになっているので、メーカー目線よりも「消費者目線に近いモノづくり」から始まったというのが僕たち「WEST VILLAGE TOKYO」なんじゃないかな。

「消費者目線に近いモノづくり」から始まったWEST VILLAGE TOKYOがモノづくりをする上で意識していることはありますか?

− 嶋谷氏コメント: 僕たちがモノづくりをする上で大切にしていることは、流行に流され過ぎないこと。トレンドを強く意識したようなモノづくりをすることはないですね。自分の頭で考え、自分のペースに合わせたモノづくりの方がおもしろいモノが開発できる、そう考えているので、そこは常に大切にしています。

“トレンド”と“モノを売る”ということは、切り離し難いようにも思えますがどうでしょうか?

− 嶋谷氏コメント:僕は日本人は流行やブームを意識し過ぎていると感じていて、例えば何かインテリアのテイストが流行るとき、アジアンならアジアン、インダストリアルならインダストリアル、モダンならモダンと、それ一色になってしまっていると思うんだよね。

どのメーカーもそれに合わせた商品を作るようになり、そうするとどのブランドもどのショップも同じような雰囲気になって個性がなくなってしまう。さらにブームが過ぎた途端、時代遅れのような扱いになって、本来なら人それぞれ好きなものがあって当然なのに、トレンドを意識し過ぎるせいで“好きなモノ”が“ダサいモノ”のように思われてしまう。

でも海外ではそうじゃなくて、もちろんトレンドに乗っかったお店もあれば、ずっと同じテイストを貫いているお店もある。そこまでトレンドには左右されていないんじゃないかな。僕たちもそういうずっと変わらず愛されていくような、普遍的なものを生み出していけるようなモノづくりを意識しています。

身近なものにギミックを加え、新しい価値を生む

卸先やバイヤーに対してのWEST VILLAGE TOKYOの役割とはなんだと思いますか?

− 嶋谷氏コメント:それは「驚き」や「楽しみ」を発信していくことでしょうね。もちろん驚きのある商品が売れるとは限らないんだけど、僕自身も他のメーカーの商品を見て、驚いたり楽しくなったりする機会がたくさんあって。

まずバイヤーを驚かせないことには、その先の消費者は驚かない。だから展示会に来たバイヤーの反応も意識しつつ、僕らも常にそういうものを発信していきたいなと考えています。

バイヤーを驚かせる商品とはどんなモノなんでしょうか?

− 嶋谷氏コメント:商品には必ずギミックを入れるようにしています。もともと世の中にあったものに何か一つギミックを加えることで、全く違うものに生まれ変わる、そこに驚きと楽しさを感じてもらいたい。

たとえば、「Branch Tube Vase」は、天板など木材の接合に使うハタガネの先端にリングをつけ、そこに試験管を差し込んで一輪挿しにした商品なんだけど、ハタガネ自体はホームセンターでも買える身近なものなんだよね。でもこれっていろんなところに挟めてすごく機能性も高いものなんだよ。

僕たちはそこにリングを付けて機能性を拡張させるという「ギミック」を加え、壁にもドア枠にもつけられる新しい一輪挿しのカテゴリーを発掘できたと思います。

ギミックを加えることで、それまでとは全く違うモノが生まれるのだと語る嶋谷氏

体験が理解を深める、商品の背景にあるストーリー

ギミックのある商品の魅力を知ってもらうため、アピールする際に意識していることはありますか

− 嶋谷氏コメント: もっとも意識しているのは、商品の背景にあるストーリーをきちんと伝えることですね。カタログはシーン撮りを多用し、テキストよりも写真で利用シーンを見せることを意識しています。

接客では、商品の使い方はもちろん、どういう人がどんな場所で作っているか、そういう生産背景を一つ一つ丁寧に伝えることを、スタッフ全員に意識付けしています。

スタッフとのコミュニケーションや体験によって、商品への理解を深めていくのだという

生産背景、つまりはその商品のストーリーを知るということですね

− 嶋谷氏コメント:そうですね。そのために一番良い方法は、実際にモノづくりを体験すること。図面を作って商品サンプルを作るとき、僕らが向かうのは工場ではなくホームセンターです。自分たちで買ってきた材料に自分たちがドリルで穴を開け、溶接し、頭の中にあるイメージをまず具現化する。

そうしてサンプルができたら、社長である僕も含め、スタッフみんなで話し合います。「女性の目線から見てどう思う?」「ここにこういう機能があったらどう?」、そうやって話し合った結果、出来上がったサンプルをもとに図面を作って、そこでようやく工場に製作を依頼する。製作のスタートが工場のラインではなく、自分たちの手の中から始まるんですよ。

商品が完成するまでの工程をスタッフが実際に体験し、試行錯誤し、きちんと理解する。それが僕らの提案の原点でもあり、だからこそ商品を語る際にも深みが増すんだと思っています。

ブランドへの理解から生まれる独自の関係性

スタッフも一緒に体験しながら生み出されてきたWEST VILLAGE TOKYOの商品について教えてください

− 嶋谷氏コメント: 先ほどお話しした「Branch Tube Vase」は人気ですね。ここ最近のアウトドアブームと重なって「BOTTLE CLAMPER」という商品もヒットしています。

テーブルやチェアのアームなど最大5cm厚までのものに固定ができる「BOTTLE CLAMPER」

− 嶋谷氏コメント: 定番商品でいえば、ツイストコードをまとめられるクリップを付けたペンダントランプ「LONDON CLAMP LIGHT」や、「Twinkle Star Plate / Mug」という食器のシリーズなどは安定して支持されています。ベーシックなデザインも星のモチーフも、普遍的なものですよね。

結局は、トレンドに流されないものがエンドユーザーの生活に溶け込みやすく、長く愛され続けるのだと思います。

付属のクリップで好きな長さに調整して使える「LONDON CLAMP LIGHT」は、E26口金タイプであればどの電球でも使用できる
普遍的な星のモチーフの「Twinkle Star Plate / Mug」シリーズは、普段使いから記念日や特別な日のテーブルコーディネートにも

− 嶋谷氏コメント: 「BOTTLE CLAMPER」には開発時のエピソードがあって、商品ができたばかりの頃に仲の良い取引先の社長から「絶対コットンバッグを付けた方がいいよ」とアドバイスをもらったんだよね。

「アウトドアに行く人はものを大事にしていて、使ったものをしまうという動作が好きだから」と。今度はこっちから「じゃあ、クランプの締める部分は傷が付かないようにフェルトを貼ったほうがいいのかな?」と相談すると、「アウトドア好きは自分たちでカスタムをする。そこはカスタムする箇所としてそのままがいいよ」と。あえてそこを残すことが大事だと教えてもらいました。

自分たちだけでは考えつかなかった部分を補ってもらい、利用者目線の大切さや、僕らのモノづくりを理解してアドバイスもらえたことが励みにもなりました。

取引先がブランドに共感しているからこそ、そこから生まれるアドバイスやアイデアが、商品により価値やストーリーを与えていると感じた

次のステップは海外展開、商品の魅力を伝え国内に還元する

WEST VILLAGE TOKYOの今後の展望について教えてください

− 嶋谷氏コメント: 今後は海外の展示会出展などの機会を増やし、海外展開もしていきたいと考えています。InstagramやHPに載せた写真だけでは伝わらない僕たちの商品の魅力を、海外でも日本で行うのと同じようになるべく対面で商品をアピールしたいんです。

トレンドを意識し過ぎない僕らの商品は海外でも受け入れられやすいのではという期待と、海外で通用するか試してみたいという気持ちもありますね。

− 嶋谷氏コメント: まずは僕たちのモノづくりに共感して、僕らの商品を好きになってもらうこと。初めは見た目から興味を持っただけでも、「売れるかどうか」だけではなく、商品やブランド、その背景にあるストーリーに共感してもらえれば嬉しいですね。

僕らの商品の魅力がちゃんと伝わって、コミュニケーションを取ることで、海外という新たな視点からのアイデアが生まれるかもしれない。それをゆくゆくは国内の取引先にも還元していけることが、一番理想的な形なんじゃないでしょうか。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

消費者に選ばれるセレクトショップにとって必要なモノ選びとは

嶋谷氏のインタビューからは感じ取ったのは、WEST VILLAGE TOKYOが支持される理由が、商品そのものの魅力だけではないということだ。トレンドに流されないという一貫した信念や、消費者目線を意識したモノづくり、国内外のバイヤーや小売店と積極的にコミュニケーションを取っていこうとする柔軟な姿勢に共感が集まっていることも大きいのだろう。

商品の向こうに「人」や「物語」を感じられるモノづくりが、奇しくもコミュニケーションが多様化する今の時代にマッチしたと言えそうだ。

そして、これらはセレクトショップにおいてもぜひ取り入れたいスタイルなのではないだろうか。「流行っているから」「売れるから」という理由だけで商品を仕入れるのではなく、誰かにその魅力やストーリーを語りたくなる商品を揃え、その魅力が伝わるようディスプレイすることは、ショップが消費者に与える印象を大きく変えていくことになるのではないかとMMD TIMESは感じた。

モノが溢れ、買い方や選び方も多様になっていく中で、セレクトショップは日々さまざまな施策を考えているだろう。

セレクトショップが消費者から支持される店を目指していく上で、ショップの向こうに「人」や「物語」を感じられる店づくりを取り入れてみることは大きな価値があるのではないだろうか。

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