2019.11.19.tue

“グリーンと人”が共存する空間デザイン

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植物がもたらす、豊かさと心地よさのある暮らし

限りある地球の資源に対して、持続可能なエネルギーの開拓やデザインの活用が、多くの国・企業で取り組まれ始めたことにより、最近は「サスティナブル」という言葉を目にする機会が増えている。

このサスティナブルに対する働きかけが、自然回帰の潮流も相まって“緑化”の分野でも注目されているのをご存知だろうか。

今、アメリカの4大IT企業であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)では、植物を取り入れた大規模なオフィスを建設しているが、これは、ストレス過多な職場環境においてグリーン(植物)の有用性が科学で立証されてきた背景があり、装飾的な緑化ではなく、持続可能で人や環境を整える効果のある緑化に注目が集まっているからである 。

日本では、花屋「青山フラワーマーケット」を国内外に100店舗以上展開する株式会社パーク・コーポレーションの空間デザイン事業「parkERs(パーカーズ)」が、“グリーン(植物)と人が共存する”ことに重きを置いた店舗設計やオフィス空間のデザインを手がけている。

parkERsの根本にある“植物がもたらす、豊かさと心地よさのある暮らし”の考え方には、顧客のライフスタイルを豊かにするモノを取り扱うセレクトショップにも通じるところを多く感じた。

今回は、parkERsの取り組みから、セレクトショップでの空間の捉え方や今後のグリーン(植物)市場について考察していきたい。

花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提案するparkERsとは?

parkERs(パーカーズ)
https://www.park-ers.com/

「parkERs(パーカーズ)」は、「青山フラワーマーケット」を運営する株式会社パーク・コーポレーションの5ブランドの1つとして2013年に始動した「空間デザイン事業」だ。

“日常に公園のここちよさを。”をコンセプトに、商業施設やホームギャラリー、ホテル、オフィスなどにグリーン(植物)と人が共存する心地よい空間を提案している。parkERsの空間設計はとてもユニークだ。植物を“装飾”するものではなく、“設計”するものと考え、空間デザイナーとプランツコーディネーターがそれぞれの「感性」と「専門性」を融合させながら、他に類のないものを生み出している。

今回、空間デザイナーの二反田彩氏からparkERsのこれまでの取り組みや今後の事業展開について具体的な話を伺った。

植物も人も共に育つ4次元の空間

parkERsの成り立ちについて、聞かせてください。

− 二反田氏コメント:自社のリテール事業「青山フラワーマーケット」の店舗設計を手掛けたのが始まりでした。

「青山フラワーマーケット」では、冠婚葬祭用の特別な花ではなく、日常的に楽しむ花を提供しています。店舗設計では、旬の花や食材を日常的に楽しむ習慣のあるパリのマルシェをイメージしていて、「Living With Flowers Every Day」を理念として店舗設計をしています。

ここから空間デザイン事業が始まり、花だけではなく、グリーンをはじめとする“公園の心地よい要素”を取り入れた空間作りに広がっていきました。

− 二反田氏コメント:グリーンは切り花よりも共に過ごす時間が長くなりますので、より“共に生きていく”という考え方が重要になります。

parkERsでは、一つの空間を手がける際、プロデュース室、デザイン室、プランツコーディネート室、施工監理室、グリーンライフ室の5つのセクションがバトンをつなぎ、多方面からプロフェッショナルな視点で空間を捉えるため、植物を主軸とした「植物も人も共に育つ」4次元の空間を作ることができます。

ガラスの天板の下に植えられた草木が自然に目に入る、グリーン(植物)と一体になったテーブル

4次元の空間とは、具体的にどういうことですか?

−二反田氏コメント:私たちは、空間の完成が“スタート”だと考えています。3次元の空間を完成させたあとに生まれる、グリーンと過ごすその先の豊かな時間こそが私たちのデザインしたいものなのです。

これまでの一般的な内装設計では、内装インテリアが先行してレイアウトが組まれ、 園芸屋さんが指定されたところにイメージにあうグリーンを配置するのが業界の縮図でした。

でもグリーンがなんとなく後付けで配置された空間には、実際には人の目線の先にグリーンがなかったり、隙間に置いただけの装飾感やパーテーション感が出てしまったり、どうしても植物があることで生まれる“豊かさ”が欠けた空間になってしまいます。

心地よい時間と小さな発見が楽しめる「ファインシティ武蔵野富士見」モデルルーム

− 二反田氏コメント: しかし、私たちがグリーン(植物)に接した時に感じる“心地よさ”とは、装飾やパーテーションではなく、木漏れ日の美しさや木陰の涼しさ、ふいに香る自然の優しい香りといった「公園の心地よさ」ではありませんか?

parkERsは人と植物を主軸とした照明計画や空調設定をし、五感で体感できる空間を作ります。そして、 BtoBでは一般的な“レンタルグリーン”という業態(植物が枯れると交換して植物の見た目の美しさを保つ)とは異なる「育てるメンテナンス」をすることで、植物との触れ合いや、のびのびと育っていく植物の成長を感じることができ、心地よさと共に様々な感性も刺激してくれる“グリーン(植物)と人が共に生きていく”空間になるのです。

グリーンと人の共存。そこに生まれる効果とは?

parkERsが店舗設計を手がける「Aoyama Flower Market TEA HOUSE 赤坂Bizタワー店」

グリーンがもたらす効果について教えてください。

− 二反田氏コメント:2017年産学連携の実証実験を行い、植物によるストレス値の軽減効果がエビデンス化され、「オフィス空間において、人の視界に占める緑の割合が10〜15%の空間は、最もストレスが軽減されやすい」と実証することができました。

他にも、生産性UP、優秀な人材の確保、ストレスチェック制度施行による職場環境改善、WELL認証など様々な効果が見込まれますが、特に最近では、植物の存在によるリラックス効果や企業イメージ確立に期待して植物を取り入れる企業も多く見られます。漠然と「グリーン(植物)がある空間っていいよね」という感覚をお持ちの方は多いと思いますが、デザイン設計に加えて効果をエビデンス化することで、規模の大きな商業施設や公的機関での空間デザインも納得いただけるご提案を行っています。

生のグリーン(植物)だから得られるリラックス効果なのですね。

− 二反田氏コメント:先ほど、「オフィス空間において、緑視率が10〜15%の空間は、最もストレスが軽減されやすい」と述べましたが、実はこれは、“本物のグリーン”だと思っている間は、フェイクグリーンでも同様の効果が得られます。

しかし、 “本物のグリーン”だと思って近づいてみて「フェイクグリーンだ!」と気づいた瞬間に、人のストレス値が2倍にも膨れ上がるという結果が出ているんです。

フェイクグリーンを置くのも、生のグリーンを置くのも、葉のホコリ取りなど手間をかけるのは同じなので、それならば、多くの効果が期待できる生の植物がいいのではないでしょうか。

自宅にもたくさんのグリーンがあり、自身の過ごす空間にはグリーンが不可欠だと語る二反田氏

費用面ではどうでしょうか?

− 二反田氏コメント:生の植物ですので維持管理に費用がかかりますが、私たちはこれを、単に植物を育てるだけの費用ではなく、“人と植物が触れ合う時間”にお金をかけるというイメージをしています。

parkERsの手がけるグリーン空間は、人と人とのコミュニケーションツールの役割も担っています。

例えば、今お話をしているこの空間も、壁と天井も植物に包まれ、床にバークチップが敷かれていますが、グリーン(植物)の香りや水の音、都会の平らな地面とは違う不安定さなどを感じることで五感を刺激しお客様との会話のきっかけになったり、リラックスした気持ちで向き合うことができたりと、プラスの効果を与えてくれます。

壁には水が流れ、天井の植物の間から落ちる照明の光は木漏れ日のようだ

セレクトショップの空間デザインとグリーンの位置付け

parkERsが空間演出を手がけた、伊勢丹新宿店 リ・スタイル

セレクトショップでは、グリーン(植物)をどのように取り入れるといいと思われますか?

− 二反田氏コメント:季節によってライフスタイルを演出できるのが生の植物の強みだと思いますので、季節ごとの店舗イメージ作りにグリーン(植物)を生かしてみてはいかがでしょうか。アパレルショップの空間演出を手掛けたところ、店内のグリーンを背景にして、インスタグラムに掲載いただいています。

アパレルでは、コンセプトやシーズンイメージをまとめたBOOKを作ることが多いですが、草原や森を背景に作り上げたBOOKの中の世界観と、実際の販売空間がかけ離れてしまっては購買につながりません。そこで、私たちのグリーン(植物)を用いた空間づくりで店内を演出し、BOOKの世界観に近づけることで顧客にブランドイメージを体感してもらい、購買へと繋げていけると考えています。

セレクトショップにおいても、アパレル同様、後付けの商材の一つとしてのグリーン(植物)ではなく、ブランドイメージを顧客へ訴求する販促の一つとしてグリーン(植物)を取り入れてみてはいかがでしょう。

セレクトショップとの協業や今後の展望

PRIVATE PARK collection/”Garden” Low Table

セレクトショップとの関わりや、今後の展望について教えてください。

− 二反田氏コメント:現在、商業施設やオフィス空間、マンションのラウンジ、などの空間デザインを施工からメンテナンスまで一通り手がけていますが、今後は予算や空間の大きさによって、「一部のみグリーン(植物)を取り入れたい」という要望にもお応えしたいと考えオリジナルプロダクトの開発を進めています。

現段階では、ホテルや店舗の施工の際にオリジナル品をご提供していますが、今季からロットを確保したプロダクト生産をしていこうという動きがあり、セレクトショップとの関わりとしては、商材としても什器としても取り入れやすいプロダクトが切り口になっていくと考えています。

PRIVATE PARK collection/Botanical Lamp [L]

どんなプロダクトが人気ですか?

− 二反田氏コメント:人気があるのは、Hamon Lamp(ハモン ランプ)です。本物の波紋を落とし、床に映し出すランプで、外の天気と連動して水滴の落ちる量が変わるため、室内にいながら外の天気を感じることができる商品です。

parkERsがデザインコラボをしたスターバックス コーヒー 表参道ヒルズ店にも設置されています。

外の天気と連動して水滴の落ちる量が変わるHamon Lamp
床には本物の波紋が映し出され、どこか幻想的な雰囲気が漂う

最後に、グリーン市場の今後についてお聞かせください。

− 二反田氏コメント: 実際に私たちの事業に関心を寄せてくださり、オフィス空間やマンション空間にグリーン(植物)を取り入れたいと考える人からの問い合わせが年々増えています。

施工規模も数年越しというスケールの大きな提案も増え、植物を取り入れる事にとてもこだわりを持つお客様も多くいらっしゃいますので、これからも、“グリーン(植物)と人が共存する”空間デザインの需要は増えていくと思います。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

業界の活性化も担う取り組みが、新たな需要を生み出す

parkERsの名前の由来は「park=公園 ER=人」。「runner」や「listener」のように「〜する人」という意味を持つerで、「公園をつくる人」という意味を込めている。

またこのERの部分には“都市を花や緑で豊かにし、メトロポリタンストレスから人々を救出しよう”というグリーン(植物)と人の救急救命室(Emargency Room)という意味合いも含まれているそうだ。

この名前の通り、parkERsの空間デザインは、単に植物を入れるだけではない。地方で施工をする際は、その土地の生産者とタッグを組み、植物の納品や施工後のメンテナンスを地域で行える仕組みを作ることで、地域活性化にも取り組んでいる。都心部でも、農家さんとのつながりやグリーン業界とのつながりを強固にすることで、グリーン業界全体が潤うようなビジネスモデルを形成しているのだ。

“心地よい空間”のセレクトショップとは?

顧客のライフスタイルを豊かにするモノを取り扱うセレクトショップにおいて、店舗空間の“心地よさ”は重要だ。parkERsの空間デザイナー二反田彩氏は、入社してからデザインの考え方が変わったと話す。

以前は、どうカッコよく見せるか?カッコよく作るか?という視覚的にどう見えるかということに目を向けがちだったが、今は植物の香りや触感などを体感できることに重きをおくようになったそうだ。

空間デザインでは、疲れて見上げた天井にグリーンがあったり、立ち上がった時に自然の香りがフワッとしたりする瞬間に心地よさを感じるよう演出している。

植物の香りや水の音など、視覚だけでなく五感を刺激し、癒しを与えてくれる空間演出

この考え方は、セレクトショップでも同じことが言えるだろう。顧客が自身のライフスタイルをイメージする際に、視覚的要素だけではなく五感に働きかける方が、具体的なイメージがわく。そこに、心地の良い香りや音楽といった総合的な演出があればなおさらだ。

一つの商材として“後付けされたグリーン”ではなく、ブランドイメージを顧客へ訴求するためや、心地よさを提案するための、店舗と顧客と“共に生きるグリーン”をぜひ取り入れてほしい。

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